エピローグ、その6
青獅子寮。俺はアーリィーに家を作る話をした。場所は王都より離れているが、移動自体はポータルを使うので、何かあればすぐに行き来できる。
「景色がとても綺麗で、静かな場所だよ」
「へえ、それは見てみたいな」
アーリィーの言葉は、至極当然のことなので、俺は週末にキャンプがてら遊びに行こうと提案した。
「キャンプ……? 冒険者が町の外やダンジョンでやるやつだよね?」
お姫様は可愛らしく小首をかしげた。キャンプという言葉が、この世界ではあまり遊びに行く的なニュアンスがないのを改めて思い知った気分である。野宿の延長といえば間違いではないのだが……。
大自然の中で遊ぶんだよ、と力説して、ようやくちょっとした旅行と理解してもらった。アーリィーが王族で、どちらかといえば都会っ子だから何とか伝わった感じである。
そういえば最近のコスプレ遊びの一環で、アーリィーは水着を持っていたはずだ。
「泉があるから、昼間は泳ぐのもいいだろうな」
せっかくなので本来の用途である水遊びに使うべきだろう。
「み、水着!」
何故かアーリィーは真っ赤になって、俺から視線を逸らした。
「あ、あれ……着るの?」
ほとんど下着のような水着というものに、羞恥心を持っていらっしゃるようだった。特に最近、王都で流行り出した最新ものについては、その過激さは顕著だったりする。
「俺は、アーリィーが水着で泳いでるところとか、見たいんだけどな」
「え……、そ、そう……?」
もじもじとしながら照れるアーリィーである。俺は言った。
「見たい。もし、恥ずかしいなら、あまり露出のない水着にしたらどう? いま色々な種類が売られているらしいし」
そもそも水着は、過激さを競うものではないからね。俺も男物の水着を新調して、あの泉で泳ぎたい。
「わかった……じゃあ、新しいの用意しておく」
アーリィーはこくりと頷いた。うん、うちの嫁が可愛すぎる件について。
さて、週末のプチ旅行に向けて、こちらも準備しておこう。最低限、現地を拠点にできるように領域化とその安全の確保をやっておかねば。
・ ・ ・
迷いの森を越えた先にある大地――そういえば地名ってどうなっているんだろうか?
ないなら、そのうち命名するとして、滝の流れる泉、その奥のくぼみが空洞のようになっている場所を拠点とすることにした。前回来た時にポータルを設置したので、行くのは一瞬である。
水の流れる音が耳朶を打つ。もともと山だったところが崩れてできたのだろうか。空洞の内側から見れば、上から流れ込んでくる水が泉に落ちて、さらに対岸に森が見渡せた。
俺はDCロッドを手に、周辺のテリトリー化を試みる。つまりダンジョンフィールドと化せば、そこにある地形を操り、建物を形成することも難しくない。また危険な生物も識別ができるのだ。
……ふむふむ、このくぼみとなっている壁面の奥に、洞窟のような空間があるな。ここをいじって拠点としよう。
壁面に穴を開け、通路として奥の空洞に繋げる。当面の通路として石を成型し敷き詰める。床に壁、天井と、明らかに人工的に仕上げたものを生成する。
ダンジョンを作るコアなら魔力さえあればこの程度は造作もない。ただ家を作るとなると、お洒落な内装もできるようにしておかねばならないだろう。どこに家を建てるか、そのあたりもアーリィーと相談して決めないとね。
まあ、家は別の場所になるかもだが、ダンジョンコア用の拠点は作って損はない。魔法装甲車やその他車両、ゴーレムなどの格納庫……土地は幾らでもあるので、大きな秘密基地みたく巨大な格納庫を作るのも悪くない。
秘密基地か、いいなそれ。大きな倉庫に、俺用の魔法工房……。
ゴーレムで思い出したが、コアを設置するなら防衛用の設備も備えとして必要だろう。今まで未開地だった迷いの森に囲まれた土地に誰が来るんだ、という気がしないでもないが、現に俺たちは来た。今後、このまま誰も来ないとは言い切れない。冒険者ギルドには報告したし、いつの間にか情報が広がることもあるだろう。
ダンジョンコアの力を使って、地下を開口して部屋と通路をいくつか作る。仮の工房、家具やベッドを置けば個室として使える部屋、倉庫など。……そのまま生活に必要な風呂やトイレ用の部屋まで作ってしまいそうになり、あくまでまだ仮だと思い出し、自重する。
ともあれ、仮拠点を作り、DCロッドを設置して周囲一帯を支配下に置いた。念のため、警備用のトラップやそれを制御するコピーコアも配置しておいた。
そうそう、ガードゴーレムに、シェイプシフターたちもね。
・ ・ ・
かくて、週末が来た。朝からよく晴れていた。
ポータルを使ってもよかったのだが、どうせ魔法装甲車で突っ走れば一時間もかからないからと、ドライブすることにした。
俺とベルさん、アーリィーの他に、ユナ、マルカス、サキリス、クロハの、今後俺たちが引っ越した後も一緒に来るだろう面子を連れている。
さらに先日の迷いの森依頼を受けて、冒険者ギルドの職員を同伴させての調査も同時に行うことになった。副ギルド長のラスィアさん、護衛としてエルフのヴィスタが随伴することになった。……俺としても、ただ泉で遊ぶだけでなく、直接歩いての探索もしたいと思っていたからちょうどいい。
はい、デゼルトをみて、ヴィスタが固まっていた。そういえば彼女は初めてかね。
青獅子寮の地下通路を通って、まずは王都の外へ。地下通路とその機能に、ヴィスタはもちろん、ラスィアさんも目を丸くしていた。……信じられないのはわかるけど、そろそろ慣れてくれてもいいんじゃない?
緑一色の平原に、どこまでも広がる青い空。ゆっくりと流れる白い雲。照りつける暑さを帯びた日差しは、夏を感じさせる。
道中これといってトラブルもなく、迷いの森に到達。このままデゼルトでは森の隙間を抜けることはできないが、すでに車両用の地下通路は完成している。
地面に擬装した車両用エレベーターを使い、地下へ。そのまま森の下を通路に沿って移動、その後再びエレベーターで地上へ戻る。制御はコピーコアが行っているので、俺は合図を送るだけで出入り口の開閉やエレベーターの起動が勝手にされるのである。
迷いの森を潜り抜け、目的の滝のある泉までデゼルトは走る。ここもある程度の整地を済ませてあり、速度を出しても揺れは少ない。家を建てた後は、本格的な車両用の道を作ろうと考えている。
運転する俺以外は、天井のルーフを開けて、風を受けながらの観光を楽しんでいた。綺麗、とアーリィーが口にすれば、ヴィスタも「いい森だ」と目を閉じ、ラスィアやユナも頷いた。
小さな川に沿って道を進むと、小高い山が見えてきた。自然に開いた短いトンネルを潜った先には、大きな泉があって、山から流れる水が滝となって落ちてくる光景が広がっていた。
行き止まり、ではなく目的地に到着である。泉の外側に沿って、仮拠点を作った壁面の手前へ入る。大きな空洞は天然の屋根となり、さらに奥へ進めば滝の裏側を目の前に見ることができる。
デゼルトを停めて、ハッチを開く。マルカスが頭上を見上げる。
「なるほど、ここなら雨が降っても大丈夫ってことか」
「そういうこと。さあ、テント張るから設営を手伝ってくれ」
荷物を降ろし、俺を含めた野郎は設営作業。黒猫は手伝う気なしのようで、椅子の上でねそべっていた。……いいご身分だな、ベルさんよ。スクワイアゴーレムたちが手伝ってくれるからいいんだけどね。
サキリスとクロハが荷物降ろしを手伝う中、アーリィーとユナがやってきて。
「ジン、手伝おうか?」
「んー、こっちはそれほど手間じゃないからな。君たちは先に泉で遊んできていいよ。終わったら行くからさ」




