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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第一部

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314/1946

エピローグ その5


 アクティス魔法騎士学校は、ひと月の休みの期間に入った。


 いわゆる前期と後期の中休みと行ったところだ。三年、つまり今年卒業を控えた生徒たちにとっては、学校を出た後の人生の過ごし方にも影響する休み期間となる。


 すでに貴族の家や主と定めた有力者の騎士の内定をもらっている者もいれば、まだ正式に決まっていない者もいる。成績や能力如何によっては、卒業しても仕える先がない、なんてこともあるのは、この世界でも同じだった。


 クラスメイトであるマルカスは伯爵家の次男だが、仕える先はまだ決まっていなかった。真面目な彼のことだから、すでに決めていたと思っていたが、詳しく聞いてみれば、マルカスは俺に仕えたいらしい。


 彼いわく、他でお勤めするより、俺のそばで仕事をするほうが、より高みを目指せると思うし、貴重なことなんだそうだ。そのためなら冒険者でも別に構わないと言う。


 家を継げない次男坊や三男坊は騎士や冒険者になるのは、さほど珍しいことではない。

 学校ではそれなりに仲良くさせてもらった関係である。そんなマルカスから信頼を寄せられるのは少々こそばゆいが、真面目な性格は好ましいし、その能力も決して悪くはない。俺のほうで断る理由はないが、その代わり楽はできないぞ。


 いい機会なので、サキリスにも聞いてみる。やや露出癖があるものの、その仕事ぶりは優秀な彼女は、相変わらず俺に仕えると言う。例え俺が追い出しにかかったとしても、400万ゲルド分の仕事はするつもりらしい。


 魔法騎士になる夢は、と聞いてみれば、メイドだろうが騎士だろうが、主に仕えるのは変わらないと言われた。

 むしろ家族も故郷もない現状、他で魔法騎士を目指すより、俺のもとにいたほうがそれが叶う近道だとサキリスは思っていると言う。……意外と合理的。


 もう一人のメイドであるクロハもまた、当面は俺のもとで働くそうだ。

 ……うん、俺もそれなりに働かないと、養っていけないぞこれは。まあ、しょっちゅう外に出る俺たちのことだから、家にいて面倒を見てくれる人材というのはとても助かるのだけどね。



  ・  ・  ・



 迷いの森。

 入ると、何故か入ってきた場所に戻ってきてしまい、森の奥へと行くことができないと言われる場所。


 王都から南東方向に十数キロほど。通過できない森がぐるりと取り囲むその場所は、何があるかあるかわからない秘境とされている。……もっとも、森の手前から、さほど高いとは言えない山々が連なっているのが見え、別段何かあるわけでもなさそうではあるが。


 俺とベルさんは冒険者ギルドからの依頼を受けて、その迷いの森の調査にきた。

 魔法装甲車(デゼルト)を降り、さっそく単眼球体(アイ・ボール)を飛ばして偵察をさせる。すると、森に入ったアイ・ボールは戻されてしまったが、森の上を浮遊させたアイ・ボールたちは普通に森を通過、向こう側に到達した。


 一応、地上を行く分には戻されるようなので、どういう戻り方をするのか検証することにした。シェイプシフターのスフェラをアラクネ形態にして、蜘蛛糸を引きながら森に入ったのだが、何と今度は戻されることなく森を通過することに成功した。偶然とはいえ、突破方法を見つけてしまったようだ。拍子抜けもいいところである。


 森を抜けられたので、俺たちは秘境とされているここを調べてみた。一見すると何か厄介な獣がいるわけでもなく、森と山と川のある自然豊かな土地が広がっている。ストレージ経由でデゼルトを森のこちら側へ通して乗車、出発する。

 魔法装甲車は走り、次第に小高い山に近づいていく。一旦停めて、ルーフへ上がる。俺とベルさんはのんびりと景色を眺めた。


 風のささやき。ほのかに香る新緑。青く澄んだ水が、滝となって泉に流れ込んでいる。奥に見えるのは洞窟か……。いや壁面が見えるから大きな窪みと言ったほうがいいか。ひょっとしたら、そちらにまわることもできるのではないだろうか。


「いいな、ここ」


 俺は思わず呟くのだった。デゼルトの天井に座るベルさんも「そうだな」と同意した。


「静かだし。たまにはゆっくりするのに、ここはいいんじゃねえかな」

「たまに……?」


 俺は笑った。いやいや、ベルさん。


「決めたぞ。ここに家を建てる」


 夢のマイホーム生活――はてさて、それを口にしたのいつのことだったのか。ヴェリラルド王国が住み良い土地なら定住も視野に、そんなことを言った記憶がある。


 魔法騎士学校の寮という拠点があったから忘れていたが、卒業したらどの道、どこか探さなくてはならないのだ。……王都じゃ、ちょっと有名になってしまったから、人里離れて自然に囲まれた場所は、のんびり過ごすのにいいのではなかろうか。

 何より、景色がいいんだ。


 そんなわけで、俺は、そのための準備を行うことにして、さっそく王都へ帰還する。いつでも戻ってこれるよう、ポータルを設置して。

 


  ・  ・  ・



 冒険者ギルドで依頼の件を報告した。森を突破し、秘境を見てきたが、景色はよかったがこれといって特に何もなかったと。ただ言葉だけでは説得力に欠けるため、後日、ギルドの職員を同伴させて再度確認することになった。


 俺とベルさんは次に王城へと向かった。迷いの森に囲まれた秘境と言われた土地の所有権について、どうなっているのか問うためだ。さすがに勝手に家を建てて、後で問題になっても困る。


 シュペア大臣に面会を申し込むと、さほど待つことなく面談を許された。とりあえず家のことを言わず、未開地の扱いについて聞く。

 迷いの森とその一帯は、王国の領土内ということで国有地ということになっているそうだ。手に入れたい、と言ったらどういう方法があるかと聞けば、色々面倒はあるが俺の場合は、直接、国王陛下に話すのが一番早いと言われた。エマン王だな、よし。


 俺とベルさんは、エマン王のもとへ。王と言うのは多忙だと思うのだが、こちらもまたあっさり面談を許可された。というより、無理やり時間を作ってもらったっぽい。

 開口一番、ベルさんが言った。


「エマンよ、土地をくれ」


 この言いようには俺も苦笑だが、父親の霊が憑依していると思っているベルさんの言葉は重く受け止めるエマン王である。……正直、騙しているようで気まずいのだが。

 領地を欲したと思ったか、エマン王の表情は少々厳しかったのだが、俺たちが所望している土地が迷いの森の未開地と聞いたら、その表情が緩んだ。


「何か、有益なものがありましたかな?」

「景色が綺麗なのだ。のんびり過ごせる家を建てたい……とジンが言っている」

「……完成したら、訪ねても?」

「もちろんだ、エマンよ」


 ベルさんは、もう『我が息子』とは言っていない。ベルさんなりに嘘は言っていないつもりなのだろう。一国の王を呼び捨てにするのはどうかと思うけどな。……まあ、ベルさん自身、魔王であるわけだけど。


 ともあれ、そのベルさんのおかげで話がスムーズに進んだのは事実である。……やはり騙しているようで、少々気が引ける。

 貴族に与えた土地でもなかったから、エマン王はあっさりと認めてくれた。どうせこれまで誰も使っていない場所だったのだ、と。

 よしよし、これで俺も家を作れるぞ。王と別れた後、ベルさんが俺に聞いた。


「で、家を建てるって業者を手配するのかい?」

「まさか。俺はダンジョンマスターでもあるんだよ、ベルさん」


 ダンジョンコアで領域化して、後は魔力を引き換えにダンジョンと言う名の家を作る。


「おいおい、お前さん『俺が欲しいのは普通の家であってダンジョンじゃない』とか言ってなかったっけか?」

「よく覚えてたね、ほんと」


 思わず感心してしまう。


「まあ、ダンジョン工法というべきかな。作るのは家であることは間違いないよ」

残り3話!

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