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第1話、ブルート村についたけど……

 遠視の魔法で視界を強化。一方は森、残りは平原に囲まれたその土地には、建物だったと思しき跡。焼けたのだろうか、大半が崩れ落ち、土台部分だけがいくつか見える。


「……人の姿は見えないな」


 俺が呟くように言えば、ベルさんが顎をしゃくった。


「行くか」

「そうだな」


 無人なら、魔法車で行っても問題あるまい。

 俺はアクセルペダルを踏む。ペダルに仕込まれた魔石が魔力を発生させる。魔力の伝達線を通った魔力は信号となり魔石エンジンに伝わる。そこからさらに車輪に伸びた伝達線に従い、タイヤが回って車は前進した。


 村の廃墟の前を通る細い道は、舗装されているはずもなくデコボコだ。いくら衝撃吸収装置(サスペンション)があるといっても限度はある。


 さほど時間もかからず、魔法車は集落へとやってきた。ベルさんが、ふんと鼻を鳴らした。


「こりゃ、盗賊か何かに襲われた跡だな。しかもつい最近だ」


 炭化した木材や、散乱する壺の欠片、血の跡などなど。しかし村人の姿は見えない。


「逃げたか……?」


 それとも皆殺しにされたか、という嫌な予感を押し込める。頼むから、村の中央に死体の山がありませんように。

 ゆっくりと村の中を進む魔法車。俺は周囲に気を配る。


「……右手方向に視線を感じるな」

「いるな。複数人。隠れてやがる」


 ベルさんが同意した。俺は村の中央で車を駐めると、ドアを開けて降りた。後ろからベルさんが声をかける。


「関わるつもりか? 向こうはこっちを警戒してるぜ?」

「まあ、面倒しかないんだけど、ここから王都へどう行けばいいかわからないし。現地の人から話を聞きたい」


 それどころじゃないかもしれないけど。


「盗賊の類だったら?」

「返り討ち!」

「だな。自分で言ってて愚問だと思ったよ」


 そんなわけで、俺は人が隠れている方向――森のある北西方向に身体を向けた。コホン。拡声の魔法を調整。


『あー、あー、そこに隠れている方々、聞こえますか? 私は旅の魔術師ですが、村人でしたらお話が聞きたいので、代表者の方だけでも出てきていただけませんが?』


 がさっ、とかすかに茂みが動くような音がしたが、それ以外に反応はなし。まあ、警戒はされているわな。


『えー、そこにいるのはわかっています。私も魔法を撃ち込みたくないので、村人でしたら出てきてください。盗賊の類なら、吹き飛ばすのでご容赦を』


 俺は本気であることを示すために、右手を挙げ、火球を形成してみせる。拳ほどの大きさだったものが大玉転がしのボールぐらいの大きさになる。これなら少々遠くても見えるだろう。


「ま、待ってくれ!! 撃つな! 撃たないでくれ!」


 廃墟の向こう、茂みから一人の老人が半身を出した。五、いや六十代か。頭のてっぺんがはげ上がっているが、まだ白い毛がまわりに残っている。痩せているのはもとからだろうが、その顔色はあまりよろしくない。

 俺は特大ファイアボールを消すと、ゆっくりとそちらへと歩く。


「こんにちは! この村の方ですか?」

「そ、そうだが……、あ、あんたはここへ何しにきた?」

「王都を目指しているんですが、その途中なんです」

「反乱軍じゃないのか?」


 老人の後ろから別の男の声がした。


「反乱軍?」


 そういえば、ここに来る前に寄った集落でも聞いたような。


「この村は、反乱軍に襲われたんですか?」

「ああ、反乱軍だよ。いや、奴らはゴロツキさ。大義なんてありゃしないよ」


 老人が険しい表情で言った。その目は、まだ俺への警戒を解いていない。だが抵抗しないのは、無駄だと察したからかもしれない。そりゃ特大ファイアボールを見せた後だから、普通の人なら逆らう気も起きないだろう。


「旅の魔術師様。見ての通り、ブルート村にはもう、何もない。村人も半分が殺されて、逃げた者も怪我人が多い」

「そのようですね。何人残りました?」

「そんなことを聞いてどうするというんだ?」


 関わらないでくれ空気をビンビンと感じる。老人の後ろに数人潜んでいるが、敵意の気配があからさまだった。俺たちは無関係なんだけどね。

 こういう焼き討ちにあった村というのは、戦争時に数え切れないほど見てきた。そこで傷つき、途方に暮れている女性、子供の姿も。


「怪我人がいると聞きましたが、よければ手当てをしましょうか?」

「手当て!」


 老人は目をぱちくりとさせる。

「魔術師様は医療の心得があるのか?」

「多少は。治癒魔法も使えますよ」

「は?」


 ぽかんとした表情になる老人。


「魔術師ではなかったのか?」

「魔術師ですよ」


 俺はにこやかな社交的スマイルを浮かべてやる。


「攻撃、補助、回復、全系統が使える魔術師です」



 ・  ・  ・



 さっそく怪我人たちに治癒魔法をかける。ここにいたのは軽傷者ばかりなので、あっという間だった。


「これが治癒魔法か!」

「すごい!」


 手当てを受けた村人たちが口々に叫ぶ。初めて治癒魔法を見た者もいたようだ。このあたりでは珍しいのかもしれない。大きな町に行けば、治癒魔法の使い手くらい居ると思うのだが。


「ありがとうございます、魔術師さま!」

「いえいえ」


 若い娘からのお礼に、思わず頬が緩む。素直な態度で接してもらえるのは嬉しい。

 先ほどまでの警戒心が薄れ、村人たちも笑顔をこぼしている。それでいい。暗い雰囲気だとこっちまで暗くなる。


「魔術師様、さぞ高名な方と存じ上げます! 先ほどまでの無礼、平にご容赦くださいませ!」


 先ほどの老人が、膝をついて頭を下げた。

 村人たちがそれに倣う。いやいや、確かに東の方じゃジン・アミウールとして有名ではありますが、ここではただの一魔術師でございますよ?


「ジン・トキトモと言います。見ての通り、ただの若輩者です」

「そんな! 治癒魔法を無詠唱で行使できるお方がご謙遜を」


 あー、そうねそう。魔法って基本、詠唱するものって常識があるもんね。唱えずに魔法を使える人間は高位の魔術師だって言っているのと同義だ。英雄時代に当たり前になっていて、つい無詠唱で使ってしまった。


『やっちまったなぁ、ジンさんよ』


 ベルさんの魔力に乗せた念話が俺のもとに届いた。車でニシシと黒猫が笑っていた。


『別に無自覚でやらかしたわけじゃないぞ! うっかりミスだ』

『ミスは否定しないんだ』

『迂闊だったのは認める』


 まあ、いい。迂闊ついでだ。高位魔術師と認識されてしまったなら、それらしく振る舞うとしよう。そのほうが、色々やりやすいしな。


「他にも怪我人がいるなら診ましょう。あと、何かお困りのことはありませんか? お力になれるかもしれません」

「お、おおっ! ありがとうございます! ありがとうございますっ!」


 額をこすらんばかり頭を下げ続ける老人。俺は彼の肩に触れ立たせる。


「あなたがこの村の代表ですか?」

「村長の弟フィデルと申します。ジン様」

 なお、フィデルさん曰く、村長は先の反乱軍の襲撃で殺されたのだと言う。大変だったなぁ、本当に。

裏話:ベルさんの声は、声優の山路和弘さんの男らしい声をイメージ。


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ジンとベルさんの英雄時代の物語 私はこうして英雄になりました ―召喚された凡人は契約で最強魔術師になる―  こちらもブクマお願いいたします!

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