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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第一部

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294/1953

第294話、闇の力と願い


 俺とヒエンの第一試合が予想外の幕切れなら、準決勝第二試合のシュラとガルフの試合もまたその試合展開は予想外だった。


 ダークエルフのシュラは、自らの血を使い呪術的な魔法を使う闇の魔法使いだった。短めの曲刀を二本扱うが、影や魔法を使った戦法のほうが得意だった。予想外の場所からの遠隔魔法攻撃。幻覚じみた闇魔法。妖艶にして、恐ろしい魔女――


 ガルフは苦戦を強いられていたように見えた。だが試合の途中、彼の運動能力が飛躍的に向上した。

 どす黒いオーラをまとったかと思えば、獣の如きスピードとパワーで、シュラの魔法をかいくぐり、手にした剣でダークエルフに襲い掛かった。怒濤(どとう)のラッシュはシュラが展開した魔法の壁をあっさり切り裂き、さらに守りのペンダント、その防御をあっという間に削って、そのまま倒してしまった。


 決勝に進出を決めたのはガルフ。だがその戦いぶりに、観客たちの反応はしばし戸惑った。どうも美人のダークエルフに肩入れしていた人間が多かったようで、ガルフが勝った時、呆然と声もでなかったようだった。一部で、魔獣の如き戦いぶりだったガルフを称える声が上がった時も、ドン引きしたままだった。

 当のガルフはといえば、勝ったことへの喜びなど感じていないかのように表情を崩さなかった。決闘場を下りる時、肩で息をする程度に消耗したようだが……。


 危うい。


 俺は、ガルフの後ろ姿を見やり、不安を覚える。

 以前、彼の試合を見ていたリーレが『何か黒いモンまとってるように見える』とか言っていたのを思い出した。さっきの試合で見たどす黒いオーラのようなものがそれか。あれ、絶対身体に悪いやつだ……。

 決勝戦の開始は30分後と、審判員が通知した。俺たち参加者は昨日三戦、今日ここまで三戦――俺は四回戦が不戦勝だったけど――だから、決勝も少し間を取るのだろう。


 さて、次勝てば優勝だが、ガルフに対してどう対応したものか。あのブラックオーラが出たら、立て続けの連続攻撃を喰らって、こっちは防戦一方となるだろう。光の障壁を展開すれば、とも思うが、ガルフの持っている剣が、シュラの展開した防御の魔法をあっさり切り裂いてしまったから、完全に頼りにはならない。


 防御魔法を使うなら、守りのペンダントと同種の方法で展開すればある程度役に立つかもしれない。いや、あの方式は消費する魔力がでか過ぎるから、結局ジリ貧になるか。


 守りに入ったら負ける、か。

 攻めるべきだが、ガルフもまた、俺の試合を見ているだろう。俺は直接彼を知らないが、彼は、俺が冒険者では魔術師だということを知っているはずだ。エンシェントドラゴン討伐の時はそうだったから。

 俺の本職が魔術師なのだから、魔法戦に乗ってくるとは思えない。しかし迂闊に飛び込めば、ヒエンを倒した時に見せた一撃死の大技。

 そうなると、彼が取るだろう戦法は――初めからどす黒いオーラをまとっての突撃。


 あの尋常じゃない素早さを、ただ真っ直ぐ突っ込んでくるでもなく、魔獣のようなしなやかさでやってくるとなると、捉えるのも一苦労だ。

 俺がやられたら、一番嫌だと思う攻撃である。だいぶ消耗が激しい技のようだが、俺との対戦が決勝戦であることを考えれば、もはや出し惜しむ理由はない。

 動きを止めないことにはこちらの攻撃は当たらないだろうな。ただシールドバッシュしても、ひらりとかわされそう……。投射系の魔法は数撃っても避けられそうだし。……これはズルするしかないかな?



  ・  ・  ・



 王室観覧席にて、アーリィーは落ち着かなかった。

 いよいよ優勝がかかった決勝戦。これで勝てば、アーリィーはジンのものである。彼のもの、と考えると何だか照れてしまうのだが、それよりも今は胸の奥が苦しい。


 ジンの対戦相手、ガルフという戦士が準決勝で見せた動き。あれはさすがにジンでも勝てないかもしれない……。そんな予感がしたのだ。

 エンシェントドラゴン討伐でも活躍し、彼が魔獣の軍勢を粉砕するところも見てきた。ジンなら何とかしてくれる――そうは思うのに、心の奥底からこみ上げてくる不安はなんだろう?


 エマン王は、ジャルジーを見た。


「どう思う? ジンはガルフに勝てると思うか?」

「……勝てる、と信じたいですが」


 ジャルジーは歯切れが悪かった。


「あのガルフという戦士――あの力はどうにも危険なにおいがします。まるで悪魔と契約し力を手にしたという恐怖の戦士を思い起こさせる……」


 ジンに肩入れするジャルジーですら、危惧しているようだった。

 だが――


「悪魔と契約か」


 ベルさんがポツリと言った。エマン王は首をかしげた。


「何か、父上?」

「いや、何でもない」


 そういってそっぽを向く黒猫だが、アーリィーの目には、彼が笑ったように見えた。



  ・  ・  ・



 オレは勝たなくてはいけない。

 それが不治の病に冒された母を救うためのただひとつの方法。


 武術大会の優勝。王への願い――王家がエルフより受け取った精霊の秘薬。それを手に入れることができれば、母を救うことができるかもしれない。


 父は幼い頃にすでに亡く、オレを育てるために苦労を重ねた母。余命幾ばくもない母を救うためにはもはや時間がない。

 そのためなら、オレは悪魔に魂だって売る。

 勝って、精霊の秘薬を手に入れたら、母を助けて……それから――


 うう、心臓が熱い。苦しい。身体が重く感じる。あの力を使うたびに、オレの身体がオレのものではなくなるみたいだ……。


 だけど、ここでやめるわけにはいかない。

 あと一つ、勝てばいいんだ。それですべて終わるんだ……。

 だから、それまではもってくれよ、この身体!


 …………。


 決勝の相手は、ジン……何だっけ。騎士らしい装備に身を包んでいる。ああ、きっと優勝候補の聖騎士じゃないかな。


 確かに強いだろう。だが、この力を使えば……いかに百戦錬磨の聖騎士とて敵ではないはずだ。この力は、人の及ぶことのない絶大な力。

 その力で、優勝すれば、母さんを助けられる。

 待っていてね、母さん……オレ、絶対に勝って、母さんの病気治して、言うんだ。


 ……ありがとう、オレを育ててくれて、って。

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