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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第一部

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290/1944

第290話、迫る刺客


 赤い飛沫(ひまつ)が散った。


 擬装(ぎそう)(ころも)を捨て、魔法弓ギル・クが姿を現したまさにその時だった。

 狙えば必中の腕前を持つ女エルフ、その太ももを銃弾が撃ち抜いた。


 王室観覧席の後方、一般観客席の一番高い場所にいたリアナが、マークスマンライフルで狙撃したのだ。


 ハンマーでぶん殴られたような衝撃を受けたヴィスタは、バランスを崩してその場に倒れた。

 リアナはちゃんと俺の言いつけを守って、殺さないように撃ってくれたようだ。さすがだ。プロは違う。


 ヴィスタが倒れたことで、近くにいた観客たちが何事かと騒ぎ出す。その中で、黒いローブをまとった魔術師は、傍らで倒れたエルフに構うことなく、その場から逃げ出した。

 倒れたヴィスタを放って逃げ出すということは、大帝国の刺客と見て間違いないだろう。留まると困るから逃げるのだ。


『リアナ、奴を撃て!』

『ネガティブ。一般人が射線に入った』


 通路に入り込んだか。しかしここで奴を取り逃がすわけにはいかない。だが今、遊撃に向くヨウ君は闘技場を離れている。身軽なのは俺だが、果たして試合のほうはどうだ?

 いま第五回戦の第四試合――軽戦士ガルフと格闘魔法士ギュンターが戦いを始めた。五分で戻れるか? 準決勝開始までのインターバルはどれくらいある……?


「わたくしが行きますわ!」


 傍らにいたサキリスが声を張り上げた。


「ご主人様は、試合のほうを!」


 そういい残すと、豪奢な金髪のメイドはエアブーツでの加速、そこからの跳躍で待機所と観客席を隔てる壁を飛び越えた。

 階段通路に降り立ったメイドに、近くの客たちはギョッと驚く。サキリスはそれを無視し階段を駆け上がる。そのあいだに彼女のメイド服――SS装備は胸と肩部の形状を胸甲と肩当に変化させ、戦闘形態になる。

 人が倒れたと聞いたのだろう。近場の警備兵が急行するのが見える。そんな中、俺に新たな魔力念話が届く。


『奴を追うの、あたしも手伝ってやるよ!』


 リーレだった。五回戦で負けたので、参加者らから離れ客席側へと回っていたのだ。


『あの魔術師と関わってトモミがやられたんだろ? 仇をとってやるぜ!」


 死んでねえっての……! まったく、縁起でもない。

 彼女らに逃げた魔術師を任せることにして、俺は視線を王室観覧席へと向ける。


『オリビア、そっちはどうなってる?』


 先ほど防御魔術師がどうの、と言ってから、襲撃を潰すのに気をとられていたから、近衛隊長殿が何を知らせようとしたのか気になる。


『あ、ジン殿、そちらで何かトラブルがあったようですが――』

『防御魔法の隙をついて敵が狙撃しようとしたのを防いだところだ。俺の仲間が逃げた魔術師を追っている。……防御魔術師がどうなったって?』

『はい、一名が催眠魔法にやられていたようで、もう一人を昏倒させたのが原因で、観覧席の防御魔法が切れたようです。今は控えの二名が、防御魔法を展開させたので、国王陛下、アーリィー殿下ら全員無事です――』


 王室観覧席の防衛担当にも、リンネガードが手を回していたようだ。手の込んだことをしてくれる。観衆らの前で王を暗殺、か。俺は静かにため息をついた。


『……引き続き警戒を。大帝国の刺客は最低二人いる。仲間がしくじったのを見て、次の手に出てくるかもしれない』

『承知しました。これ以上、騒ぎになるようなら避難も――』


 言いかけて、不意に魔力念話が途絶えた。オリビア……?


『――何の音だ?』


 念話から近衛隊長の怪訝な声がした。


 音? 王室観覧席側で何かあったのか? 俺は目を細めて凝視するが、決闘場側からは特に何かあったようには見えない。

 アーリィーがいて、エマン王がいて、ジャルジーがいる。……ん? 皆、こちらではなく出入り口側を見ている?

 何があった……?



  ・  ・  ・



 何やら外が騒がしいな。

 アーリィー嬢ちゃんの膝の上に寝そべっていたオレ様は、王室観覧席を覆う防御魔法の魔力が切れ掛かっているのを見て、念話を飛ばした。


 ジンが他の奴らと慌しく魔力念話を飛ばしていたから、大帝国の刺客が何やら仕掛けてきたのだろう。おうおう、いよいよオレ様の出番かな?


 すっと嬢ちゃんの膝から、観覧席前の台――飲み物やつまみ用の菓子が並んでいるその隙間に飛び乗る。


「ベルさん?」


 アーリィー嬢ちゃんが驚いたようだが、とりあえず無視だ。いざって時は俺様が、消えた防御魔法の代わりのモン出してやるからな。

 が、どうやらリアナが銃撃して、事なきを得たようだった。消えていた防御魔法が復活し、何やら逃走する黒っぽい奴を、変態――もといサキリスが追っていくのが見えた。


 エマンの奴やジャル公は、試合のほうを観ていて、その騒動には気づいていなかった。まあ、大半の客どももそうなんだけどな。


「何か、裏が騒がしくないかな……?」 


 嬢ちゃんが、観覧席出入り口のほうへと視線をやる。近衛が少々争ったのは少し前。だが試合に一喜一憂する観客どもの声で、あまりよく聞こえなかったんだよなぁ。


 と、その出入り口の扉が開いた。近衛騎士の報告か? オレ様も視線をやれば、入ってきたのは二十代の女。

 緑のベレー帽、銀髪をショートカットにしたその女は、ケーニギン家の紋章入りマントをまとう。

 ジャルジーがちらと視線をやる。


「イルネスか。どうした?」


 ジャルジー配下の魔術師――少なくとも、そう見えた。だが、オレ様の魔力サーチ内でそいつは識別前の色を示した。


「おい、お前! いったい誰だ!?」


 オレ様が鋭く問いかけたことで、試合を観ていたエマンがビクリとした。ジャル公もまた何だ、と言わんばかりに振り返る気配がし、アーリィー嬢ちゃんも目を瞬かせる。

 イルネスと呼ばれた女は、わけがわからず硬直している。


「お前は誰だ? 格好だけ変えても、中身が違うぞ!」


 本物のイルネスって女は、ジャル公のクロディス城で見ているからな。オレ様のサーチ内で、識別前の色をしているわけがない。つまり、この外見だけイルネスって女であるコイツは、オレ様はここで初めて会っているわけだ。


「上手く化けたな。擬装魔法の類じゃねーな! 変装か!」


 ちっ、とイルネスの姿をしたそいつは、両腕を前に突き出した。その先には、エマン王。させるかってぇーの!


 奴より早くオレ様の放った衝撃波がヒットし、イルネスの姿をしたそいつは壁に激突した。凄まじく腹を強打したようで、そいつはぴくぴくしながら何とか起き上がろうとする。

 その間に異変を察知したらしいオリビアら近衛騎士らが入ってきた。


「おう、お前ら、不審者だぞ。エマンの暗殺を企てやがった。そいつをつまみ出せ!」


 近衛たちが、倒れているイルネスの偽者を無理やり立たせようとする。偽者は苦悶に顔をゆがめ、手に持った魔石らしきものを強く握った。

 オレ様は気づいた。野郎、自爆する気だ――


 ダークホール!


 とっさに唱えた魔法は、その瞬間、偽者の両腕を闇に包み込み、そのまま喰らった。一瞬何が起きたかわからない周囲をよそに、闇が消えると偽者の両手が魔石ごと消えていた。偽者は突然、両手がなくなり、悲鳴を上げた。血が噴き出し、観覧席の床を赤い液体が汚す。

 近衛騎士らは困惑しつつ、顔面蒼白のイルネスの偽者を観覧席から連れ出した。

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