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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第一部

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271/1885

第271話、大会当日、そして心配事の種  

 

 暗殺者の話をベルさんに話した。大会中は、アーリィーのそばにいるように頼んだ。基本的に王室専用観覧席に彼女はいるが、エマン王も同じ場所にいるのだ。王に何かあるときは、アーリィーもほぼそこにいる。


「やれやれ、オイラは嬢ちゃんだけじゃなくて、エマンのお守りもするのかよ」


 愚痴(ぐち)る黒猫に、俺は皮肉げに言った。


「頼むよ、ピレニオ先王殿」


 その後、俺はアーリィーにも、暗殺者が王を狙っている件を伝えた。


「父上に伝えないと!」


 まあ、こちらが秘密活動で得た情報だから、いまいち説得力に欠けるのが問題だけどね。キャプターって誘拐組織を潰しました、って言ったら、どうしてそいつら潰したの、とかいらぬ詮索を呼ぶだろうから、正直面倒くさい。

 実際、そのあたりの事情はどうでもよくて、肝心なのは警戒を厳重にして、王の御身をお守りすることなのだから。



  ・  ・  ・



 城のほかの人間に見られる前に、俺は早々に退散する。それでなくても今日は大会初日。俺はそっちへ行かねばならない。


 青獅子寮で、メイドのクロハが作ってくれた朝食をとりつつ、頭を働かせる。

 DCロッドで闘技場をダンジョン化させて見張るという手もあるか? いや、人が多すぎるからさすがにそれ全部を監視することはできないか。それに俺は選手として参加するから、試合中は見張れないしな……。


 王室専用の観覧席は、まあこうした暗殺に対処するべく防御魔法などが張り巡らされているだろう。それがどの程度の強度かは知らないが、敵もそれらの対抗手段を考えた上で狙ってくるに違いない。


 王の近衛兵たちは会場の内側、外側も警戒し、要所には見張っているだろう。だから派手に動けば、暗殺どころではないが、問題は万全な警戒態勢などありえないということだ。必ずどこかに死角があったり、あるいは見落としがある。想定外の事態はあるのだ。


 俺のほうで、その死角となりそうなところを潰すか。闘技場の中での近衛や警備の目の届かないところをこちらで補い、不審行動を見張るのだ。

 朝食の後、俺は本日の衣装であるホワイトオリハルコン製の武具を身に付ける。ひとりでやれるように作ったのだが、サキリスがメイドらしく俺の装備付けを手伝った。


「頑張ってくださいまし、ご主人様」

「お前の分もな」


 本当なら参加していただろう元キャスリングのお嬢様に言えば、彼女は恥ずかしげに頬を赤く染めた。


 兜はとりあえず被らず、それ以外の装備を身に付け、黒いマントを身に付ける。SSマント――シェイプシフター装備である。会場に着くまでは外套(がいとう)代わりに装備を隠していく。ホワイトオリハルコン装備には塗装をしたので、鉄色のそれは、一般的な鎧兜一式に見えるだろう。


 メイド服にSSマントをまとったサキリスをお供に、俺は青獅子寮を出た。マルカスがこちらも装備一式をまとい、待っていた。フロストハンマーにサンダーシールド、霜竜の鱗を使った鎧など、俺が以前作った装備で固めている。


「おはよう、ジン」

「おはよう、マルカス」


 今日はがんばろう、というクラスメイトだが、その表情には緊張の色が見て取れる。……やめろよ、こっちまで緊張するじゃないか。


 二人の騎士生、そして元騎士生で現メイドは、魔法騎士学校を出て、闘技場へと向かう。早めの移動だが、人の往来はいつもより多かった。皆、一大イベントである武術大会に胸躍らせているのだ。……何だか喧嘩らしき騒動を、二、三件見かけたが、すでにおかしなテンションになっている者もいるのだろう。


 闘技場会場に到着。俺は脇に抱えていた兜を被る。バイザー部分を下ろして、さっさと顔を隠す。そんな俺に、マルカスは小首をかしげる。


「まだ早くないか?」

「いいんだよ。知り合いに見つかって声をかけられたくない」

「なんだそれ。……それはともかく、周囲が見え難いだろう?」

「……まあな」


 嘘をついた。魔力を通せば、バイザーの内側から外は、まるで透明なガラス窓から見ているようにクリアである。……いま、それを教えるとマルカス君も欲しがって騒ぎになりそうだから、黙っているがね。


 参加者と観客で入り口が違うらしい。だが従者は参加選手と同じでいいらしく、サキリスは俺とマルカスの後についてきた。俺とマルカスは参加リストで確認された後、闘技場内へ。

 案の定というか、冒険者ギルドのギルド長であるヴォード氏、副ギルド長のラスィアさんが、参加者入り口の近くにいた。……ラスィアさんはともかく、ヴォード氏に絡まれると面倒だ。


「――それにしても、ジンが参加していると知っていれば、おれもエントリーしたのに」

「大人げないですよ」


 ……うん、これ見つかったら一言あるやつだ。俺は見ないフリをしてその場を抜けようとするが。


「おや、マルカス君」


 ラスィアさんが、マルカスに気づいた。ラスィアさん、と魔法騎士生は姿勢を正し、騎士らしい会釈をした。俺はそのまま気づかれていないことをいいことにすたすたと先に行き、サキリスもそれに続いた。


「……よろしいのですか?」

「うん、今はいい」


 どうせ、後で声をかけられる機会などいくらでもあるし。少なくとも、ドラゴンスレイヤーで英雄でもあるヴォード氏から声をかけられ、しかも一目置かれているなんて、他の参加者に悟られたくない。……何のために装備の色まで変えたと思ってるんだ。


「……なあ、あのメイド」

「ええ、サキリスですよ」


 後ろでかすかにヴォード氏とマルカスの声が聞こえた。無視だ、無視。


「あの兜を被ってるのが、ジンか?」

「そうです」


 離脱だ、離脱。ヴォード氏やラスィアさんは大会にエントリーしていないのは対戦表で確認済み。闘技場の中央、参加選手らの集まりまで近づかないだろう。


「……それでは、ご主人様」


 サキリスが足を止めた。彼女も試合が始まるまでは、待機所のほうで待つ。俺はマントの下から、姿形の杖(シェイプセプター)を出して、メイドに渡す。


「手はず通り、会場内にシェイプシフターたちをばら撒いておいてくれ。スフェラもいいな?」

『はい、(あるじ)様』


 杖が答えた。サキリスが深々と頭を下げると、シェイプセプターを持ってその場を離れた。


 参加選手たちが続々会場入りし、集まってくる。体格も装備もバラバラ、種族も人間以外にもトカゲ顔や狼顔の獣人や亜人もいる。デカイの、小さいの、男も女も、騎士も魔術師も様々だ。だが注目選手というのはいるもので、やはり他の参加者たちから噂されているようだった。ナンパな野郎が、女性参加者に声をかけているのがちらほらと。

 その中には橿原(かしはら)もいた。長身の冒険者風の男に声をかけられている。隣にはリーレがいて、ナンパ野郎を挑発している。……試合前に喧嘩なんか始めるなよ、まったく。


 観客席も人が溢れ、ざわめきが会場内を満たしていく。気の早い客が、自分が注目する参加選手に声援を送ったりしていた。優勝候補や、あるいは見た目のよいイケメン、美女などに。……ふむ、今のところ、俺の聞こえる範囲で声援はなし。よしよし――


 やがて、闘技場に銅鑼(どら)にも似た音が響いた。一同の注目が集まる。王室観覧席に、国王と王子様ご一行が姿を現したのだ。

 あと、ジャルジー公爵も。え、あんたもいるのかよ……。


 兜を被って周囲には表情がわからなかっただろうが、俺は顔をしかめていた。

 なんで王様狙われている時に、継承権一位と二位が一緒にいるんだよ! お前らまとめて吹っ飛ぶなんてことになったら、どうするんだよっ!

 ……そうだよな、たぶん知らないんだな、きっと。


 アーリィーが王と一緒にいるのは仕方がない。最初からそういう予定だと聞いていたからな。だが、ジャルジーがいるのは聞いていなかった。


 アーリィーは俺が個人的に防御魔法具を渡したから、何かあっても生存の可能性が高いが、次の王であるジャルジーがエマン王と一緒にくたばったら困るじゃないか……!

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