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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第一部

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261/1940

第261話、王たちの密談


 王都スピラーレにある王城こと、モーゲンロートの城。

 エマン王の私室には、先王たるピレニオがいて、他には誰もいなかった。魔石灯の明かりが室内を照らす中、両者は机を挟み対峙している。


「いよいよ、準備が整いつつあるぞ、我が息子よ」


 フードを深々と被ったピレニオ先王は、そのたっぷりある白い髭を撫でた。


「かの魔術師、フォリー・マントゥルは、ついにその命脈が尽きた」

「あの忌まわしき魔術師が生きていたとは……」


 エマン王は眉間にしわを寄せた。


「先日のゾンビ騒動には、正直肝を冷やしましたが、冒険者ギルドが早期に動き、大事に至る前に鎮圧されたとか」

「マントゥルの過ぎた野心が招いた事態よ」


 ピレニオ先王は低い声で言った。


「奴について予め調べておったからこそ、この程度で済んだというもの。下手をすれば取り返しのつかぬ事態に陥っていたやもしれぬ」

「不幸中の幸いでしたな」


 エマン王は、グラスのワインを口に含む。


「しかし、まさか自らをアンデッドと化し、不老不死を企むとは……」

「魔術を志すもの、いや権力者ならば、誰もが一度は考えることだろうて」


 先王は、そこでふと笑った。


「まあ、わしもすでに死人ゆえ、あまり人のことは言えんがな」

「そう……ですな」


 エマン王の目じりが下がる。何と言葉にすればいいのか迷ったのだ。父の姿をしていても、目の前にいる老人は幽霊なのだ。

 その亡霊は言った。


「わしが現世に留まれる時間も残り少ない」

「そんな……」


 エマン王は視線を落とした。


「父上には、私を導いていただきたかった」

「今の王はおぬしぞ」


 じっとピレニオ先王は、エマン王を見つめた。それは咎めるような目。現王は「そうですな」と静かに頷いた。

 先王は話題を戻す。アーリィーの性別を明らかにするその策の話題に。


「マントゥルに扮し、王子の性別を変える――それは多くの者が目にする場でなければならない」


 誰も見ていないところでやっても意味がない。


「諸侯らが集まる行事がよい。それで多くの者が、目の当たりにすることになろう」

「一番確実なのは、アーリィーが学校を卒業し、そのまま成人の儀を迎える時でしょうか。主な貴族たちはほぼ出席します」

「卒業後……」

「半年ほど先ですが」

「長い。最近、北のほうが怪しい……。できれば早いほうがよい」

「北、ですか……?」


 エマン王は首をかしげた。ピレニオ先王は眉をひそめる。


「もう間もなくおぬしの耳にも届くであろう。ケーニギン領で大量発生した虫の魔物どもと衝突が起きた」

「何ですと!?」

「幸い、そちらはすでに片が付いたがな。その出所について、まだ明らかになっておらん。警戒はするべきであろう」


 片が付いた、と言う言葉に、いちおうの安堵を見せるエマン王。だがすぐに表情を引き締めた。


「きな臭い情勢とあらば、確かに急いだほうがよいかもしれませんな。そうなると……武術大会はどうでしょう?」

「武術大会」

「王子の成人の儀ほどではありませんが、多くの貴族や有力者が集まります。大会優勝者たちの武勇を称える祝賀会などは、格好の場となりましょう」

「……よかろう。では大会後の祝勝会にて、出席した王子を魔術師の手で女とする芝居を打つとしよう」

「承知しました。して、マントゥル役ですが……」

「そちらはすでに手配してある。とびきりの役者を用意した。安心するがよい」


 意味ありげにピレニオ先王は笑みをこぼした。

 先王は、大まかな芝居の段取りを説明した。会場を襲撃するマントゥルと、彼がアーリィーに魔法をかけた後、会場にいた魔術師が討ち取る――


「マントゥルには浮遊させようと思っておる。場にいるすべての者に、その異様な姿を見せるために」

「名案です。せっかく人を集めても見てくれなくては演出も半減してしまいます」


 エマン王は同意したが、眉根を寄せる。


「しかし奴を討つのが魔術師というのは……?」

「浮遊している相手に剣は届くまいて。会場はおそらく屋内となろう。祝賀会にクロスボウなどを持ち込むわけにもゆくまい?」

「確かに。して、魔術師は、こちらで手配すればよろしいでしょうか?」

「いや、そちらもすでにわしが適役を用意してある」

「いやはや、父上。死後十年も経つのに、手回しがよろしいですな」

「今のは皮肉か、我が息子よ」


 ピレニオ先王がくっくと笑えば、エマン王も意地の悪い笑みを返した。


「その魔術師のことを聞いてもよろしいでしょうか?」

「ふむ、ジン・トキトモという魔術師だ。いま、王都を中心に冒険者をしておる」

「冒険者。……ランクのほうは?」


 あまり低くても困る、と言いたげなエマン王。


「今のところはBランクだ。だが王都冒険者ギルドの評価は高く、限りなくSに近いAランクだ」

「ほう……。腕がいいのですが?」

「抜群にな。王都をオークの軍勢が攻めて来た時があったであろう? あの時も活躍したし、古代竜討伐にも参加しておる」

「あのエンシェントドラゴン討伐に……!」

「ギルド長のヴォードを助け、彼が竜を討つのに不可欠な働きを示した」

「そのような……。しかしその者が、あまり話題になっていないような」

「ギルドでは一目置かれておるよ。ただ城への報告では、かなり活躍を目引いておるからな」

「何故です?」

「目立ちたくないからであろうな」


 ピレニオ先王はあごひげを撫でた。エマン王は変わらず難しい顔をしている。


「父上が見込んだのです、実力は問題ないでしょう。……しかし、アーリィーの性別が絡んでいる問題。部外者を巻き込むのは、あまり賛成できませんが」

「そうであろう。だが、その点は問題ない。というより、アーリィーの性別について奴はすでに知っておる」

「何ですと!?」


 ガタン、とエマン王が席を立った。ピレニオ先王は薄く笑う。


「奴をこの役に当てるのも、すでに秘密を共有しておるからだ。アーリィーはすでに奴を信用しておる。それどころか恋心さえ抱いておるわ」

「恋、ですと……!?」


 エマン王の驚きは止まらない。


「ど、どういうことですか、父上! 何故そのようなことを知っているのですか!?」

「孫娘を見守っているのだ、それくらいのことは知っておる」


 平然とピレニオ先王が言うのである。さも当たり前のように言われ、何だか一人騒いでいる自分が虚しくなり、エマン王は腰を下ろした。

 そう、目の前の老王はすでに霊である。先祖の霊が一族の者を見守るなど、よく言われているではないか。……本当にそうなのかについてはわからないのだが。


「娘と聞いて思い出しましたが、父上。アーリィーが女になった後のことはいかように扱うがよろしいか?」

「おぬしの考えは?」


 ピレニオ先王は牽制した。父親からそう言われてしまえば、答えざるを得ない息子である。


「しばらくは娘として置いておきますが、年齢を考えますと、そのままというわけにもいきますまい」

「婚約、か……。しかし元は男と思われておるからのぅ。それも難しいのではないか」


 ピレニオ先王は片目をつむる。が、どこか白々しいとエマン王は感じる。その父は、さも悩む仕草をしながら言った。


「……どうだろうか? ここはひとつ、当人に聞いてみるというのは」

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