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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第一部

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260/1885

第260話、北部国境線


 魔法装甲車(デゼルト)は、ズィーゲン平原を離れる。途中、スフェラのシェイプシフターが捕獲したキャプターの一員と思われる女を回収。その後、ケーニギン領の中心であるクロディスへ帰還した。


 蟻亜人集団との戦いに備えていたクロディスのケーニギン兵らだったが、ジャルジーの口から脅威が去ったことを知らされた。

 ジャルジーは、俺たち一行を客人として扱うようにと配下の騎士たちに告げ、周囲を驚かせた。さらに俺と公爵が、まるで友人のように気安いやりとりをしているのを見て、さらに驚愕するのだった。

 ともあれ、俺はジャルジーとアーリィーの三人で、クロディス城の会議室へと場を移した。


「フェリート伯爵領より北は、もう別の国なんだな」


 俺は移ってきた人間だから、このあたりの地理や情勢はさほど詳しくない。ジャルジーは頷いた。


「シェーヴィル王国と言ってな。隣国だが、あまり仲はよろしくない。これまでも幾度となく小競り合いがあった」


 ヴェリラルド王国北方の守りの要であるケーニギン領の領主である。このあたりのことは、すらすらとジャルジーは答えた。


「ただ、最近、大帝国の手がこの地方にも伸びてきていてな。確か、一月ほど前だったか、シェーヴィル王国の東国境で大帝国と衝突したらしい。我が国とは関係がよろしくないせいか、そちらの情報があまり入ってきてないが」


 俺の隣に座るアーリィーがヒスイ色の瞳をこちらの向けてくる。


「今回の蟻亜人は、シェーヴィル王国から来たと?」

「まだ証拠はないがね。突然現れた蟻亜人によるヴェリラルド王国北部での蹂躙(じゅうりん)行動……大帝国お得意の、使い捨て魔獣を尖兵にする戦術に酷似している」


 俺は大理石の机の上に、壊れた球体もどきを置く。


「ズィーゲンで拾ったんだが、ダンジョンコアもどきと思われる。これを使って、単一の魔獣を生成して、今回の蟻亜人の大集団になったと俺たちは見ている」

「本当か?」


 ジャルジーが、焦げた球体をじっと見つめる。俺は球体を手に持った。


「まだ推測の域を出ないがね。だから、こちらから使い魔を出して、国境を探らせている」


 人に行かせるよりは断然早く結果がわかるだろう。


「フェリート伯爵領は蟻亜人に踏み潰されたから、いまやそこは空白地帯だ。もし大帝国とかシェーヴィルの軍隊が展開していても、こちらのルートからの報告は来ない」

「蟻どもの対処でそれどころじゃない――本当ならそうなっていた」

「ジンがやっつけてくれたから、こっちには余裕があるけどね」


 アーリィーが相好を崩す。ジャルジーは同意した。


「まったくだ。だが……くそ」


 若き公爵は栗色の髪を乱暴にかいた。


「シェーヴィルの状況がわからないからな。大帝国があの国を落として、こちらに攻めてきたなら、これは大問題だぞ」

「まだ決まったわけじゃないよ」


 俺は気休めを言った。


「ただ、早々に王位継承権の問題は解決しておいたほうがいいだろうな。戦争になる可能性が高いのなら、その前に国内の問題は処理しておくべきだ」

「アーリィーが王位継承権からはずれ、オレが次の王になる」


 ジャルジーが、ちらと王子さまに扮しているアーリィーを見やる。俺も彼女を見た。


「君はそれでいいな? もし意見があるなら聞くが」

「ううん、ボクはそれでいいよ」


 アーリィーは背筋を伸ばした。


「女を隠しているのも、最近とくにしんどいから。……それにこの秘密が望まない形で露見するようなことになったら、王家に対する信用にも関わる。大帝国が付け入る隙になると思う」

「賢明な判断だ」


 ジャルジーは首肯した。


「意外に、考えてるなアーリィー」

「意外って失礼だよ」


「ん?」とジャルジーが睨んできたので、アーリィーは俺の影に隠れるように身を寄せてきた。あ、よしよし……。苦手意識はそう簡単になくならないよな。


「とにかく、継承権問題に関しては必要な条件は大方揃った。あとはエマン王にお会いして、段取りを決めないとな」


 あと決めるのは、タイミングだ。何か公的な行事で諸侯が集まる場が望ましい。ふむ、とジャルジーが顎に手を当てた。


「親父殿に話をつけるツテがあるのか?」


 面識があるか、と言われたら俺はない。普通に考えれば、むしろアーリィーやジャルジーに話を通してもらわないといけないくらいだ。

 だが。


「そちらにはすでに手を回してある」


 我らがベルさん――ピレニオ先王の亡霊殿が、エマン王に会談の段取りを整える。その手はずとなっている。だからこの場にベルさんはいない。俺のポータルを利用して、すでに王都へ跳んだのだ。


「ほう、手回しがいいな」


 ジャルジーは腕を組みながら感心を露わにする。


「オレがいよいよ継承権1位になるのか」

「まあ、実際に王になるのがいつかは、エマン王次第なんだけどね」


 あくまで継承権の順位が変わるというだけである。

 その後、二、三ほど懸案を話し合い、ひと段落付いた頃、ジャルジーがこんなことを言い出した。


「それで、ジンよ。魔法機関銃と言う武器なんだが、あれを調達したいんだが、どうすれば手に入るだろうか?」


 む、機関銃か……。聞けば、先日のズィーゲン平原での戦いで、デゼルトに車載した魔法機関銃の働きをつぶさに見ていたらしい。なるほど、あれを見たら……まあ、そうなるよな。

 普通なら、渋るところだが、ちょっと国境線が騒がしくなりつつあるからなぁ。しかも相手が、大陸支配を目論むかの大帝国かもしれないとなると……むしろ、必要ではないかとさえ思えてくる。

 ……悩ましい問題だ。



  ・  ・  ・



 その頃、索敵中の鷹型シェイプシフターは、その翼を羽ばたかせてフェリート伯爵領上空を飛び抜けて、国境線に近づいていた。


 姿形の杖であるスフェラの命を受けたシェイプシフターは、蟻亜人の大集団が通過したと思しき破壊と荒廃の跡を辿って北を目指す。


 建物はすべて崩れ去り、木々はへし折れ、人や動物の姿はない。それを無感動な目で眺めつつ、鷹の姿のシェイプシフターは飛ぶ。


 やがて、ようやくと言うべきか、地上に人の気配と遭遇する。


 それは大規模なキャンプだった。数百を超える天幕に、数千を超える馬、万を上回る人の姿。

 その所属する組織を現すシンボルである旗が風になびいている。赤地に黒い三つ首の竜――それは、大陸制覇を目論むかの大帝国の旗。


 ディグラートル大帝国の軍勢とその宿営地が、フェリート領の北に展開されていた。その数、数万規模の大軍勢だった。

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