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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第一部

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257/1940

第257話、公爵の見た光


 光が走った!


 ケーニギン領の領主にして、このオレ、ジャルジー・ヴェリラルド・ケーニギンの目の前で、これまで見たことのない光が平原を青白く染めた。煌々たる光が円を描き、広大なズィーゲン平原を光で満たしたのだ。


 これが極大魔法!


 最初の一撃で、14、5万の亜人どもが消滅したらしい。数十キロもの範囲を覆う大群である。地上からではどの程度、吹き飛ばせたのか、ここからではいまいち判別がつかなかった。だが全体像は見えずとも、あれだけひしめいていた蟻が、きれいさっぱり消える様は絨毯(じゅうたん)から不快な染みが取り除かれたようで気持ちがよい!


 ややして、ジンは二度目の極大魔法による掃射を行った。先ほどより範囲が狭かったようだが、これで我が領内に侵入した蟻亜人の集団はほぼ壊滅した。……何たることだ。ジンはたった一人で20万以上の敵を蹴散らしてしまったぞ!


 これはぜひ、我が配下にジンを加えたい。ジンがいれば、ヴェリラルド王国を強国たらしめ、大陸を制覇することもまた夢ではない……!?

 

 唐突に頭が痛くなる。なんだ……? 思わず頭を押さえると、不意にジンの顔が脳裏をよぎった。恐ろしく冷酷な目で俺を見下している魔術師――


 奴とは絶対に対立してはならない。


 心臓が痛くなり、背筋が凍った。

 だが痛みはすぐに引いた。オレは何を考えていた……?


 思い出せない。何か大事なことを忘れているような気がしたが、まあよい。オレがそんなことを考えていると、アーリィーが手を叩いて、みなの注意を集めた。


「ジンの許可はとった。これから残敵の掃討にかかる。ズィーゲン平原は広いから、デゼルトに乗っていく。全員、乗車!」


 アーリィーが仕切る。なんでお前が仕切るんだ、と口から出かけるが、奴は王子でオレは公爵だからな、うむ。何もおかしくはない。……なんだろう、また何かひっかかったが、やはり思い出せなかった。


 ちなみにここにはアーリィーとメイドがひとり。人間とダークエルフの魔術師がひとりずつ。そしてオレと部下のフレックがいるのみである。


 アーリィーがさっさとデゼルト――魔法装甲車に乗り込む。オレが車に乗ろうとするのを、フレックが止めた。配下の騎士団も兵もなく前線に出るのは危険だと言って。話は分かるが、ここはオレの土地だ! 領主たるオレが動かないでどうすると言うのだ!


 デゼルトの後ろから乗り込み、ルーフとか言う天井の蓋を開けようとする。やはり未来の王たる者は、高みより見下ろすのがよい――などと思っていたら、アーリィーがこのデゼルトを操っているではないか!?

 ぐぬっ、オ、オレも動かしたいぞ……! 猛烈に羨ましい!


 動き出したデゼルト。アーリィーは「重いな」とか言いながらも車を操っている。するとアーリィーの隣の席にいた金髪メイドが天井の蓋を開けた。あそこもルーフとやらになっていたのか。


 あっちがよかったな、と思いつつ、オレはルーフを開けて頭を車外に出した。座席を踏み台に上半身をさらせば、夜風が心地よかった。

 斜め前の位置で同じように上半身を出している金髪メイドが、何やら不思議な形をした石弓のようなものを操作し始めた。あれは武器か? 城の防衛用に備え付けられている射撃武器に似ているが……弓ではなさそうだが。


 その間にもデゼルトはズィーゲン平原を突き進む。月が出ているとはいえ、こんなに速度を出して大丈夫なのか。オレは疑問に思ったが、これだけ頑強そうなデゼルトである。むしろ障害物など粉砕してしまいそうだ。


「アーリィー様! 左方向に敵の斥候(せっこう)!」


 例の金髪メイドが報告した。石弓のような武器をそちらへと向けるさまがあまりに自然で、このメイド、戦闘もこなせるのかと感心してしまった。

 だが驚くのはここからだった。メイドの構えていた武器から電撃の弾が連続して放たれたのだ! ライトニングの魔法に似ているが、少し違うか? しかし、何とあのメイド、魔法を使うのか!? 

 魔法、特に攻撃魔法を使う侍従は、ごく一部を除けば珍しい。……さすが王子、付けられるメイドも一流ということか。


 オレの後ろでルーフから姿を見せた魔術師二人。


 銀髪に胸の大きな美女がユナ・ヴェンダート。かつて天才魔法少女と名を馳せた人物で、実際に会うのは初めてだったが、名前は知っている。

 もう一人は、ラスィアというダークエルフの魔術師で、褐色肌の美女である。ユナ・ヴェンダートと同じパーティーにいて、かのドラゴンスレイヤー、ヴォードの仲間だったという凄腕だ。


 ……いったいどういう経緯で、彼女たちがここにいるのかよくわからないが、ジンの周りには、自然とツワモノを集めてしまうのかもしれない。


 デゼルトで平原をかける間、見つけた蟻亜人をユナ、ラスィアの魔法が吹き飛ばしていく。……あれ、オレの知ってる魔術師ってこんなんだったっけ? ユナがファイアボールを十何連発も放てば、ラスィアは電撃を糸のように操り、敵を絡めとり焦がしていく。こいつら、普通の魔術師とは格が違う!


 なるほどな、魔術師が戦場で恐れられる理由ってのが、改めてわかった気がするぜ。まあ、一番ヤバイのは極大魔法なんて使うジンだけどな……。


 デゼルトはさらに進む。前方の敵は、金髪メイドが魔法武器で撃ち倒していく。

 サキリスと言う名の美少女メイド、彼女が使っている魔法武器――あれは機関銃というらしい。魔石の魔力を電撃弾に変換して撃つ魔法使いの杖、それを扱う者の魔力を消費せずに撃つ代物らしい。


 つまり、魔法が使えない一般兵でも、魔法使い並に電撃弾を撃つことができるということだ。……なにそれ欲しい。


 オレでも使えるのか、と問えば、サキリスは恭しく一礼した。


「もちろんです、公爵閣下」

「ではオレにやらせろ」


 物は試しだ。サキリスのいるルーフにお邪魔して……少々狭いためメイドはルーフから出て、デゼルトの上に乗るとオレに使い方をレクチャーした。……なんだ、簡単ではないか!


 狙いを定めるのはクロスボウとさほど変わらない。矢を番える必要がない上に連射できる。引き金を引けば、連続して放たれる電撃弾。それが亜人を撃ち抜く……なんだこれ、楽しくなってきたっ!


 これは我が軍に導入したい。一般兵でも扱えて、従来の投射兵器以上の連射性能と射程、威力を持つ。城や陣地などに置く迎撃兵器としても、野戦でも使える。これがあれば――


 結局、その日は徹夜でズィーゲン平原を駆け回ることになった。途中、飛竜に乗ったジンが戻ってきたが、奴も残敵の処理に飛び回っていた。


 オレはこの日を生涯忘れることができないだろう。

 我がケーニギン領に攻め寄せた蟻亜人の大群を、ひとりの魔術師が一掃してしまったこと。魔法装甲車や魔法機関銃といった新技術に兵器……。


 朝日を浴びる頃には、これまで感じたことのない高揚感に満たされていた。そう、今までとまったく違う何かだ……。まわりにいる凄い奴らと一緒に戦った。一員になれた気がした。オレ自身、よくわからないんだが……もしオレが公爵以外になっていたら、などと考えてしまったわけだ。


 陳腐な言い方だが『仲間』というか、まわりが部下じゃなかったせいか、そう感じたんだ……。

 ほんと、何故そうなったのか、まったくわからないのだが。

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