第255話、数人対20万なんて死亡フラグですって
ラスィアさんを連れて、俺はヤール村へ戻った。
ダークエルフの副ギルド長は、ポータルで着いた先に、アーリィーやジャルジー公爵がいることに驚き、固まってしまった。
黒猫姿のベルさんが言った。
「お前さんが王都に言っている間に、ジャル公がクロディスに伝令を走らせたいって言ったから、スフェラのシェイプシフターをグリフォンにして貸した。それ以外は特に何もない」
「留守番ありがとうよ、ベルさん」
「どういたしまして」
尻尾をゆらゆら。
「お帰り」
アーリィーが声をかけ、サキリス、スフェラも「お帰りなさいませ」と頭を下げる。ユナは、俺がラスィアさんを連れてきたことに目を丸くしていた。
「お師匠、何故彼女を?」
「ジンさん、私も詳しく話を聞きたいのですが……?」
業務スマイルを浮かべるラスィアさん。どうやらデートと言う言葉をそのまま受け取ったようだった。冒険者特有の遠まわしのジョークを本気にするということは、実は脈があったのかな。後で謝っておこう。
「詳しい話はデゼルトの中で。それとアーリィー、サキリス、君たちも来てくれ。ベルさんとスフェラ、車に近づけないように見張っていてくれ」
「あいよ」
「承知いたしました、主さま」
黒猫と、黒髪美女の返事を聞いたあと、俺はデゼルトの後部ハッチから車内へ。ラスィアが呆然と、魔法装甲車を見やる。
「これが、デゼルト……ですか」
「そう」
ユナが促し、ラスィアさんも中へ。女性陣が乗り込んだのを確認してハッチを閉める。
革のカバンからDCロッドを出し、次いで運転席のコンソールパネルのダンジョンコア『サフィロ』も取り外す。
DCロッドをサキリスに持たせ、アーリィーにはサフィロを持たせる。悪いけど、君たち『魔力の泉』スキルを持ってる二人には、ダンジョンコアの魔力チャージをお願いする。
「持ってるだけでいいの?」
アーリィーが胸もとに抱くように持った球体を見ながら言った。ほのかに輝くコアが、それぞれ魔力を少しずつ吸う。
「調整はしてあるけど、ふらつくようなら、すぐに胸から離してな」
「わかりましたわ」
サキリスがコクリと頷いた。魔力の自然回復量が早い『魔力の泉』能力。人間で持っているのは希少であるが、幸いここにいる面々は俺以外、みな持っている。……ちと羨ましい。
コアの魔力充電を行っている二人をよそに、俺はユナとラスィアさんに今後の説明。特にラスィアさんには、いまケーニギン領に蟻亜人の大群が押し寄せていることを伝える。ダークエルフの美女魔術師は愕然とした。
「わ、私をそんな危ない戦いに巻き込んだのですね……!」
ショックを受けておられる……。うん、突然だとは思うが、正直すまないと思っている。連れてきてなんだが、帰っても文句は言わない。できれば手伝ってもらえると助かるのだが……。
「何故、私なんですか?」
「俺のことを知っているからかな。これから使う極大魔法は初めて見るだろうが、俺の正体を含めて、色々知っているから」
「お師匠の正体」
ぎらっ、とユナの目が光った。その視線にさらされたのはラスィアさんで、当のダークエルフは気まずげに視線を逸らした。
「ラスィア……あなた」
「いや、その――」
ジン・アミウールだってことや、その他色々、俺から以前話を聞いたラスィアさんである。ユナは俺を師と仰いでいるが、かつて英雄だったことなどは話していない。
ラスィアさんには、残敵掃討のお手伝いか、直接戦闘が無理ならコアの魔力補充を手伝ってもらえたらと思っていたが、今回は強引過ぎたと自己反省。マジックポーション購入のついでに、ふと思ったのがマズかった。
ヴィスタならこれくらい強引に連れ出しても問題なかっただろうが、ラスィアさんはな……。思いつきで行動するもんじゃないな。ほんと、申し訳ない。
ユナの視線を逃れ、ラスィアさんは、こほんと咳払い。
「……まあ、今回の蟻亜人でしたか? その襲来は放って置いたら王都にも報せがきたでしょうし、ケーニギン領ほか北部が蹂躙されたら遅かれ早かれ巻き込まれたでしょうから、今回のことは水に流します」
ありがとうございます。
「個人的には、ジンさんの極大魔法にも興味があります。……私も、魔術師の端くれですから」
「そう言っていただけると助かります」
ひとまず落ち着いたところで、より具体的な作戦計画を明かす。ユナ、ラスィアさんを正面に、コアに魔力を注いでいるアーリィーとサキリスはやや離れた場所で俺の説明に耳を傾けた。
一通り話し終わった後、最初に口を開いたのはラスィアさんだった。
「公爵の軍には関わらせないのですか?」
「ええ、召集はかけているようですが、待っている余裕はない」
「ほぼ、私たちだけで戦うことになりますが……」
「ラスィア」
ユナが淡々と首を横に振った。
「ほぼお師匠とベルさんが片付ける。私たちは残敵掃討レベル」
俺も頷いた。
「全滅させるつもりだが、残った敵が手に負えないようなら日を改める」
できれば、ジャルジーのところの兵力が使えるなら利用したいものだが、何事もそう都合よくいかないということだ。集結した頃に本城決戦では、途中集落は全滅だろうしなぁ。
まあ、やるしかない。
ということで、コアの魔力チャージが終わり、俺も王都で魔力補充をやってきたので、全力全開の極大魔法を使用する準備が整った。
いちおう、勝手に動くと逃げたとか言われると面倒なので、領主であるジャルジーに、これから攻撃を仕掛けると通告した。
村長の家に、お泊り予定だったジャルジーは声を張り上げた。
「いやいやいや、待て待て待て!」
「……」
「今から!? 夜だぞ! しかも、こっちは応援も到着していない!」
「到着を待っている余裕はありません」
俺は事務的に告げた。
「戦には好機があります。それが今なのです」
「勝てるのか?」
「もちろん、そのつもりです」
勝ち目のない戦はしない主義なんだ。ある程度の勘定して弾き出した結果、圧倒的な兵力差をチートで潰すと判断しただけである。
戦いはやってみないとわからないものである。想定外の事態は起こりえるものだが、とはいえ、俺も昨日今日戦場に関わった素人でもない。
英雄魔術師の戦いをとくとご覧に入れる。
まあ、一方的な蹂躙ではあるが。




