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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第一部

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244/2018

第244話、クロディス城へ

 

『ジン……ジン? 聞こえる?』


 アーリィーの声が、シグナルリングの通話機能を通して聞こえた。魔法装甲車(デゼルト)で移動中の俺たちである。

 俺はすぐに指輪の対応キーを押した。


「聞こえてる。アーリィー、無事か!?」

『うん、今のところは……』


 そうか。ひとまずは安堵。本当のところは、早く声が聞きたくてたまらなかった。向こうの状況がわからない以上、こちらから声を聞くのが憚られたのだ。少なくともアーリィーのほうから声がかけられるということは、敵が近くにいないことを意味している。


「今そちらに向かっている。必ず助け出すから待ってろ」

『うん!』


 アーリィーの嬉しそうな声が返ってくる。


「それで、君をさらった奴は何者だ? あと今の状況と、可能なら自分がいる場所はわかるか?」

『ボクを連れ出すように命令したのはジャルジーだよ。いま、彼の城にいる』


 やはりりジャルジーだった。奴の城というのは――俺が助手席を見やれば、ユナが頷いた。


「本城だとすると、ケーニギン公爵領――クロディス城かと」

「……わかった。そちらへ急ぐ」


 俺は、シグナルリングに呼びかける。


「それで、いまは一人か? どんな様子だ?」

『うん、城の上層階の部屋に閉じ込められている』

「牢屋か?」

『ううん、結構いい部屋。……広いし、天蓋付きのベッドがある。来賓用だと思う』

「お客様待遇か」


 今すぐ、どうこうということもなく、丁重に扱われているようだ。……まあ、以前アクティス校を訪れた時は、本気で女版アーリィーに惚れていたようだったからな。


『あ、誰か来た……! 一度、切るね』

「あ、待て――」


 ぷつ、と通話機能が切れた。別に切らなくても、と思ったが、それだとこちらの声が漏れ聞こえてしまうかもしれないから、それでよかったかもしれない。


「とりあえず、今のところアーリィーが無事なのはわかった」


 俺が言えば、後ろで聞いていたサキリスがホッと息をついた。助手席で地図を広げていたユナが、道に立っていた看板が流れていくのを目で追いながら言った。


「お師匠、ケーニギン領に入りました」

「よし。このままアーリィーのシグナルを頼りに先を急ごう」


 目指すはクロディス城とやら。ケーニギン領に来るのは初めてだが、シグナルリングの誘導があれば問題はないだろう。

 ……待ってろよ、アーリィー。



  ・  ・  ・



 屈辱だ――アーリィーは唇を噛んだ。


 思えば波乱万丈な半日だった。授業中に誘拐され、王都の外へ転移して、そこからグリフォンの背に乗せられて空の旅。捕まってなくて、行き先がジャルジーの居城でなければ最悪ではなかったのだが。

 手を縛られ、クロディス城の上層にあるグリフォンの発着場に降り立ったアーリィーを、ジャルジーとその配下が出迎えた。


「ようこそ、アーリィーの影武者くん!」


 ジャルジーは芝居がかった仕草でそう言うと、アーリィーのそばまできて、気安く肩に手を置いた。


「……お前は、ここでは王子の替え玉であるという扱いだ」


 小声で囁いたジャルジーは、アーリィーを城内へと招き入れた。


「性別のことは親父殿から聞いた。だからオレは、ここではお前を女として扱う」

「……!」


 気がかりである性別のこと、それをすでに知っている――アーリィーは心臓をつかまれたように身体を強張らせる。それが伝わったのか、ジャルジーは笑った。


「心配するな。まわりにも替え玉は女だと伝えてある。お前を裸に剥いて女だとわかっても、誰も騒ぎはしない」


 その言葉にめまいを覚えたのは仕方のないことかもしれない。


「それは、感謝すべきなのかな……?」


 素直に喜べないから皮肉げな調子になってしまうアーリィー。ジャルジーはニヤついた。


「何なら影武者であることを否定してもいいぞ。その時はお前を裸で城内を連れまわすから」


 逆らえるはずもない。ジャルジーの言うとおり、王子の替え玉であり、女を演じるほうがよさそうなのは理解した。

 ジャルジーは、アーリィーの顎に指を当てた。


「今日からお前はオレのモノだ」

「気安く触らないでくれないか?」

「ご主人様に意見する気か? まあ、それもいい。せいぜい突っぱねてオレを愉しませてくれ。お前はオレの女であり、ペット、奴隷――」


 自然とアーリィーは表情を曇らせた。だが、ジャルジーは顔を近づけ、擦り寄う。


「ああ、アーリィー、可愛いよ。アーリィー……」


 気持ち悪い。本気で逃げたいアーリィーだが肩をがっしり掴まれ、手首を縛られてはそうもいかない。


「いいよ、そのおびえた表情。悔しがるところなんか最高だ……。苛めたいなァ」


 その後、アーリィーは個室に通された。お前の部屋だ、というジャルジー。てっきり牢屋とか粗末な部屋を予想したのだが、普通に来賓用の部屋のようだった。


 石の床には赤い絨毯が敷かれている。天蓋付きのダブルサイズベッド。アンティーク調の丸テーブルに、椅子が二つ。窓にはガラスがはめられていて、外からの明かりを取り込んでいる。照明は蝋燭(ろうそく)ではなく、魔石灯だった。


 縄を解かれ、痕の残った手首をほぐすアーリィー。一度ジャルジーは配下と共に部屋を出て行った。その隙にアーリィーはシグナルリングの通話機能で、ジンと連絡をとった。


 すでに救出のために動いているのがわかり、すぐ駆けつけると言ってくれたジンの言葉に、アーリィーは勇気づけられた。彼なら絶対に助けに来てくれる、と。

 そうであるなら、その時が来るまで自重しなくてはならない。助けの望みがなければ、攻撃魔法の類を使って、武器を手に入れたりしながら自力脱出の道を探るが、ここはジャルジーの本拠。多数の兵士がいるこの中を単独突破できると思うほど、自惚れてはいない。


 チャンスを待つ、それまでは極力自由を確保しなくてはいけない。


 ややして、ジャルジーが部屋に戻ってきた。

 彼は椅子に座ると、連れてきた召使いたちに命じて、アーリィーの衣装を着替えさせるように命じた。


「いつもの王子様も凛々しいが、やはりお前には女らしい格好をしてもらわないとな」

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