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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第一部

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第229話、それぞれの解決方法


「転移魔法陣?」


 リアナは、仮面のネクロマンサーの言葉をおうむ返しした。

 うむ、とフィンは片膝をついて、床にうっすらと魔力を流す。すると床にいくつもの魔法陣が淡い光を放った。


「これを踏んだがために、この廃城のどこか、あるいはダンジョン圏内のどこかに飛ばされてしまったのだ。古典的な罠だよ」

「魔法の罠は、見分けがつかない」


 ふだん表情に乏しいリアナが、珍しく眉をひそめた。特殊部隊の人間として『トラップ』と名の付くものの判別がつかないのが気に入らないのだ。


「どうする? トラップは壊す?」

「これは片道専用の転移だ。そうだな、壊しても問題ないだろう」


 双方向なら戻ってくる可能性も考える必要があったが、飛ばされるだけなら消してしまうのがよいだろう。


「しかし……これは、面倒だな」


 フィンは顔を上げる。床に敷き詰められるように無数の転移魔法陣が並んでいる。いま魔力を流し込んでいるから発光しているが、それをやめれば見分けがつかなくなるだろう。問題なのは、部屋全体にそれがあること。ひとつずつ潰していくと手間だった。


「そういえば、そのゴーレムたちは浮遊できなかったか?」

「できるはず。確か」


 リアナが振り返れば、ブラオをはじめ三体のスクワイア、そして青藍(せいらん)が立っている。


『ボクたち三体は浮遊可能です』


 ブラオが答えた。フィンは頷いた。


「では私やリアナを乗せて浮遊できるか?」

『可能です』

「ちょっと待って」


 リアナは首を傾げて、一番後ろにいる人型ゴーレムを見た。


「あの子は?」

『青藍には浮遊機能がありません』


ブラオは即答した。

『ですが、ゲルプがサポートすることで浮遊での輸送も可能です』

「素晴らしい」


 仮面の死霊使いはブラオのもとへと歩いた。


「リアナ。彼らに乗ってこの部屋を越えよう。魔法陣を潰すのが面倒だ」

「了解」


 フィンはブラオ、リアナはグリューン、青藍はゲルプの背に乗る。……青藍がやや窮屈そうであったが。ふわりと浮き上がり、床の魔法陣に触れないように進む。


「飛ばされた皆は……」


 リアナが言えば、フィンは視線を前方に向けたまま言った。


「飛ばされた先は、大抵ろくでもない場所だろう。しかし、ただ殺すだけなら転移などを設置しない。そうであるなら、心配いらないだろう」


 あの面々なら。



  ・  ・  ・



『おーい、ジン。聞こえるか?』


 ベルさんは魔力念話を飛ばす。だがうんともすんとも返事は来ない。やられた、とは思わないが、どうも壁に魔法を通さない加工が施されているようだ。


「やれやれ……どうするか」


 狭い部屋に閉じ込められている。窓はなく、緑色の魔石灯。ベルさんは知らないが、ジンがいるのと同じ型の部屋だ。


「まあ、せっかく誰も見ていないんだし」


 もぞもぞと、黒騎士だった姿が変わる。


「……とりあえず、喰うか」


 すっと手を伸ばしたベルさん。触れた石壁がごっそりえぐれる。

 通路か別の部屋にぶつかるまで喰うか――生憎とこっちは決して満たされない腹があるのでな。

 暴食王の本領発揮である。



  ・  ・  ・



 リーレは、自分が閉じ込められた石壁の部屋を、剣の柄でコンコンと叩きながら一周した。

 狭い部屋である。何もない。緑色の魔石灯が四つある以外は。


「さて、魔法も効かない。剣で石壁を斬るってのもできなくはないが――」


 眼帯の女剣士は、自らの剣――千人斬りの魔剣グローダイトソードを見やる。リーレがいた世界では最大の硬度を持つ魔法鉱石から作られた希少な剣である。

 文字通り千人以上を切り裂き、無双したとある魔獣の武器として恐れられた。決して刃こぼれせず、欠けない、折れないという剣と聞けば、その異常性もわかる。


「斬れなくもないんだけどなぁ……」


 しかし剣で壁を切るというのも、あまり効率がいいとも思えない。自身の『力』を持ってすれば、力技でこの場を脱することもできるとは思う。だが、そのやり方は――


「スマートじゃねえんだよなぁ……」


 かといって魔法を弾く細工がしてある壁である。魔法使いもお手上げだろうし、普通の人間なら、この石壁の前になす術がないだろう。


「ま、あいつら、普通じゃねえしなぁ。もし皆ここみたいな部屋に個別で飛ばされたとしても、何とかしちまうんだろうな」


 いそいそと、魔石灯のひとつに手を伸ばす。

 緑色の室内灯、そのひとつを掴み、ちょっと力を入れもぎ取る。ちぎれた箇所を覗けば、魔力を流す線が壁の中を通っているのが見えた。この伝達線を通して魔力を流すことで、魔石灯が光っていたのだ。


「まあ、そうだよな。ここに転移した時は明かりついてなかったわけで」


 リーレはすっと手を伸ばし、魔力伝達線の切れ目に指を当てた。


「ひとまず、この魔力の流れがどこから来ているのか、ちょっと見てみようか……」


 魔力を送ってみる。室内に残る三つの魔石灯が、それに合わせてパチパチと点灯を繰り返す。


 ――ふむ、部屋の魔石灯全部に繋がっているのか。……それなら、他にこの部屋の仕掛けとも繋がってるかもな。であれば、それを動かす信号を、ちょいちょいと。


 リーレは魔力の波長を変えて、伝達線に送ってみる。しばらく操作をしていると、唐突に壁の一角が上へとスライドして、隠し扉が口を開けた。


「……ほらな」


 やれやれ、とばかりに、リーレは開いた出口へと向かう。その直後、ドォンという破砕音と共に小さな震動が足元を震わせた。


「ん? なんだ?」


 小首をかしげ、眼帯の女剣士は顔を上げるのだった。

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リメイク版英雄魔術師、カクヨムにて連載中!カクヨム版英雄魔術師はのんびり暮らせない

ジンとベルさんの英雄時代の物語 私はこうして英雄になりました ―召喚された凡人は契約で最強魔術師になる―  こちらもブクマお願いいたします!

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