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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第一部

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214/1945

第214話、男か女か

 

 夕食の後、ジャルジーはVIP専用の寝室へと戻った。

 護衛騎士長のフレックと、魔術師のイルネスを残し、侍女や騎士らを下がらせる。


「報告しろ」


 ジャルジーはベッドに腰を下ろして、イルネスを見た。


 二十代と思しき女性である。銀髪をショートカットにしたその女性の頭には緑のベレー帽。同色の服にミニのスカートは活動的であり、赤と青のケーニギン家の紋章の入ったマントをまとう。一見すると魔術師に見えないが、それが彼女の本来の職を悟り難くさせるカモフラージュである。


「寮内の人間を何人か催眠魔法で当たりましたが、いずれもアーリィー殿下が『女』であるという証言は得られませんでした」

「ふむ」

「私見を申してもよろしいでしょうか?」

「構わん、言ってみろ」

「はっ、恐れながら。アーリィー殿下が仮に女性だった場合、それが現在まで秘匿された事実を鑑みますと、おそらく、性別について知っている人間はごく一部の限られた者のみと思われます。寮にいる人間でも――」

「知っているのは数人。もしかしたら一人か二人しかいない可能性もある、ということだな」


 ジャルジーは腕を組んだ。晩餐の場でも、それとなく探りを入れてみたが、アーリィーの反応はいまいちだった。

 せめて、反乱軍陣地で会ったアーリィーが本物か影武者かはっきりすればよかったのだが……。


「それで、アーリィーの部屋に仕込みは?」

「強力な魔法結界が張られているため、手出しができません。無理に潜入すれば、近衛の知るところとなりましょう」

「オレが滞在している間にそんなことをすれば、こちらが怪しまれる、か」


 露骨に手だしは出来ない。本物か影武者か知らないが反乱軍陣地で直に顔をあわせている手前、国王(親父)殿が口裏を合わせてくれたから大事にならなかったとはいえ、アーリィーも本当のところは、警戒はしているはずだ。


 ――歯がゆいな。


 ジャルジーが顔をしかめれば、フレック騎士長が口を開いた。


「アーリィー殿下も警戒心が強いようですからな。閣下が風呂場へ向かった際も、かなり慌てて出てきた様子でした」

「あれな」


 ジャルジーはため息をついた。王子が風呂に入っていると聞き、これはチャンスと思って踏み込んだのだが……。


「もう少し早く気づいていれば、あそこで奴の裸を目撃できたやもしれん。それならば一発で、男か女かわかったものを――」


 ん、今、フレックは『かなり慌てて』と言ったか? ――ジャルジーは騎士長を見た。


「どういうことだ?」

「恐れながら。アーリィー殿下は身体についた水滴をほとんど拭き取らずに脱衣所を出たようで。殿下の歩いた後のほか、水滴が多数、床に落ちていました」


 そんなに慌てて出てきたのか。何故だ? 怪訝に思うジャルジー。男であるなら、それほどまで急いで出てきた理由は? 実は女だから、その身体を見られるのを阻止するために、身体を拭くのも惜しんで出てきたのか?

 そういえば、脱衣場へ入った時、扉の上にある魔石灯が砕けるというアクシデントが起きて、みなの注意がそちらへ動いた。


 もしや、人為的に起こしたものとでもいうのか? いや、魔石灯だぞ? ピンポイントで破壊するにはそれなりのことが必要だが……。しかし、これ以上ないという完璧なタイミングだった。

 逃げるように出て行ったアーリィー。あそこで引き留めていればあるいは――


「あ……」

「どうしたのだ、イルネス?」


 声をあげた女魔術師に、フレックが眉をひそめる。イルネスは視線をジャルジーに向けて、発言を求める。


「よい。言ってみよ」

「実は、脱衣所からアーリィー殿下が出た時、その身体に強力な魔力層が見えたのです」

「マリョクソウ……?」


 なんだそれは、とジャルジーが首をかしげる中、イルネスは続けた。


「わたくしは、てっきり、防御魔法がほどこされた衣服か何かかと思ったのですが、今にして思えば不自然。断定はできないのですが、擬装魔法の一種ではないかと……」

「擬装魔法、だと……?」

「それを看破できなかったのか、お前が……?」


 ジャルジーに続き、フレックも驚く。イルネスとて高レベルの魔術師。とりわけジャルジーの手駒では一、二を争う逸材だ。その彼女をもってしても、瞬間的に見破れなかった擬装魔法となると……。


「つまり、あの時、バスローブを着ていたように見えたのは見せ掛けで、実際は裸だったと……?」


 馬鹿な、なんだそれは! そんなことをして何の意味があるというのだ? わけがわからなくなるジャルジーである。


「……アーリィーを警護する近衛には、よほど優秀な魔法使いがいるらしいな」


 それも当然か。女であると仮定した場合、それがバレないようにエマン王(親父殿)が細心の注意を払うのは無理らしからぬこと。


 ――ここはやはり、親父殿に直接聞いたほうが早いか……?


 だが確固たる証拠もなく聞いても、相手にされない可能性はある。それに勘違いだというのなら、馬鹿なことを聞いて恥をかくのもジャルジー本人である。やはり、何か手がかりというか、とっかかりが欲しい。


「何とか、アーリィーの裸を見れないものか……」


 ジャルジーの呟き。フレックとイルネスは口をつぐむ。こういう時、いったいどういう顔をすればいいのだろう、と二人は思った。


 はたから聞くと、若き公爵閣下が、やはり若い美形の王子の裸を見たいというのは、男色を疑われてもしょうがないのではないだろうか? もちろん、ジャルジーの言葉は、アーリィー王子が女ではないかと疑った上での発言なのはわかるが……。

 


  ・  ・  ・



 翌日の朝。ジャルジーは青獅子寮の裏で意外なものを見る。


 それは、アーリィーが剣術の練習をしている光景だ。朝早くから鍛錬を欠かさずにやっていた――それを意外に思う間もなく、ジャルジーはその光景に食いついた。


 何故なら、アーリィーは上半身裸で、素振りをしていたからだ。

 どう見ても男の胸だった。服を着ていると華奢ではあるが、意外と筋肉質なその身体つき。あの細い身体で、昨日は機敏に動いて見せたが、なるほど。それも納得である。

 だが同時に、物凄くがっかりするジャルジーだった。

 イルネスを呼んで、例の擬装魔法がかかっていないか確認させたが、魔力層はなく、魔法の類はないと証言されたので、なおのことだった。


 アーリィーが男だった。女顔ではあるが男。それはかすかに抱いていた希望を打ち砕くものだった。


 その後、昨日と同じくアーリィーと朝食を摂ったジャルジーだったが、終始不機嫌で、いつにも増して敵対的だった。


「なあ、女の影武者いるだろう? 何も言わずにそいつをオレにくれ!」


 その言葉に、ただただアーリィーや、ビトレー執事長ら従者たちは困惑したという……。

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