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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第一部

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212/1945

第211話、勝者なき戦いの後


 間一髪だった。


 アーリィーとジャルジーの戦いは大詰めだったが、守りのペンダントの効果が切れかかっているのを見やり、俺は両者の間に割り込んだ。


 双方の攻撃を止めるために、自らの腕に魔力の層を形成し、間に突っ込む。一瞬の間に麻痺の魔法などを放つことも考えたが、守りのペンダントが切れる直前に干渉して失敗する恐れがあったのだ。

 まさにギリギリだった。おかげでアーリィーの剣を右手に、ジャルジーの拳が左手の魔力の壁に激突した。これがなかったら、俺がやばかった……。


「ジン……」


 アーリィーの驚いた声。ジャルジーも息を呑んでいる。


「終了です。この戦い、引き分けです」

「引き分けだと!?」


 我に返ったようにジャルジーが声を荒らげたが、それも一瞬だった。腕を引っ込め、嘆息した。


「ああ、守りのペンダントの効果が切れたんだ。これ以上はできんな」


 ちら、とアーリィーへと目を向ける。


「腕を上げたな、アーリィー」


 それだけ言うと、憮然(ぶぜん)とした顔のままジャルジーは踵を返した。周囲の生徒たちから拍手が始まり、それは次第に伝染していく。王子と公爵の健闘に対する惜しみない称賛が広がる。


「……引き分けなものか」


 ボソリとアーリィーがわずかに呟いた。悔しさをにじませたのは、ほんの少し。すぐに周囲の声に応えるように微笑を浮かべた。そのあたりの切り替わりは、さすが王子様と言ったところだ。


 防具を外すために天幕へと戻るアーリィー。それに付き添う俺。


「初めて、勝てると思ったんだけどな……」


 アーリィーは天幕に入ると、控えていたメイドたちに「自分でやるから下がっていいよ」と言って、俺だけを残した。


「引き分けなんかじゃない。彼の拳のほうが速かった。ボクは、負けた……」


 途端に悔しげに顔を歪ませるアーリィー。人が見ていないのをいいことに、彼女は身をひるがえすと、俺の胸に顔をうずめてきた。


「勝ったと、思ったんだ……」


 でも負けを悟った、と。俺はアーリィーの細い身体をそっと抱きしめてやる。


 こんな華奢(きゃしゃ)な女の子が、あの戦士として鍛えられた公爵と戦ったのだ。ここ最近、一緒にダンジョンに行ったり、練習に付き合ってアーリィーはめきめきと腕を上げていた。

 フロストドラゴンや黒の巨人(シェイプシフター)と戦い、度胸もついた。ずいぶんと逞しくなってきたと思うし、ジャルジーもあれで相当な実力者だと見てわかった。それに互角以上に渡り合った。


「君はよくやったよ」

「でも勝てなかった」


 アーリィーは俺の胸で顔を動かした。


「ボクはエアブーツを多用した。それでも勝てなかったんだ」

「武器や魔法に制限なしなんだ、恥じることはないよ。それにジャルジーだって、剣の魔法を使っただろう?」


 それにしても――俺はアーリィーの背中を撫でる。


「ジャルジーは強かったな。両手剣であの斬撃。相当振り込んでいるし、何より速かった。よく避けたね」


 偉いぞ、と褒める。するとアーリィーは顔をあげて、俺を見つめた。


「確かに速かったけど、ジンほどじゃないよ。普段からジンの動き見てるから、避けられた」


 ありがとう、とアーリィーは、はにかみながら言った。俺も胸の奥が温かくなって、思わず彼女をぎゅっと抱きしめた。



  ・  ・  ・



「くそっ、負けだ。オレの負けだ!」


 天幕にて、装備を投げ捨てるようにはずすジャルジーは、不機嫌な声をあげた。


「あのアーリィーが、あそこまで腕をあげていたとは……!」


 圧倒的な実力差で、王子を打ち負かし、周囲にその無様な姿をさらしてやるはずだったのに。これでは予定が台無しだ。


 幼少の頃から、幾度となく剣を交えてきたが、一度たりとも負けたことがない相手。男の癖に貧弱で。過去に何度か泣かせたことがあるが……。この肝心なところで、まさか互角以上に立ち回られるとは。

 歳を重ねても、その身体つきは細く、それどころか顔立ちも女のようで――


 そう思ったところで、反乱軍陣地で捕虜になったアーリィー、その服の下から出てきた女の胸を思い出す。


 ……てっきり影武者だと思ったのだが。ああ、まただ。あの女の姿のアーリィーのことがよぎって、胸の奥が熱くなる。……あの女を抱きたい!

 影武者だろうが、本物だろうが。


 先ほど戦ったアーリィー。あの服の下には、女の身体が隠されているのではないか。そうであってくれれば、オレは全力であいつを手に入れに行く――!


「閣下?」

「……何でもない」


 フレックが怪訝そうな顔を向けてくる。ジャルジーが黙り込んだので気になったのだろうか。女であるアーリィーを弄びたいなどと思っていたなどとは言えず、ジャルジーは首を振った。


「それにしても、最後のあの瞬間に割り込んできたのは何者だ?」


 近衛のマントをつけていたが、それにしては若かったように思う。激しい決闘の場に割り込んで、双方の攻撃を防ぎ、無傷で止める。思い出してみれば、何という非常識な止め方だ。


「ペンダントの効果が切れかかっていた」


 ジャルジーは唸る。


「戦っていたオレたちでさえ忘却していたそれを見逃さず、飛び込んでくる大胆さ、いや無謀さか。……貴様に出来るか、フレック?」

「私めには無理でございます、閣下」


 四十代半ばの騎士長は否定した。


「もっと他の方法で止めようとするでしょうが、それではおそらく間に合わなかったでしょう。神業……。これ以上ないタイミングでの介入でした」

「ふむ……。あの者、アーリィーの近衛か」


 別の意味でジャルジーは苛立ってくる。あのアーリィーにつける護衛に、そのようなツワモノがいるというのが。


「武器を素手で受け止めておりました」

「オレの拳はそれだが、アーリィーの剣もか?」

「はい、閣下」


 それはますます無視できない、とジャルジーは思う。アーリィーなんかのところにいるよりも、ぜひ自分のところで、その腕を揮って欲しいものだ。


 いや、それは早計かもしれないと考え直す。そもそも、名前すら知らない。いったいどのような者かわからないのでは。


「フレック。あの介入した近衛が何者か調べろ」

「御意」


 ジャルジーの意を理解する騎士長は、頭を下げた。

 もし、あの名前も知らない近衛の実力が本物なら――ジャルジーは本格的に引き抜きを考える。

 公爵は優れた者には寛大かつ贔屓(ひいき)をする主義なのだ。

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