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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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1948/1966

第1938話、後悔と後悔


 ジュワンは、冒険者試験の不合格でラッタやレオナが愕然としていた様を見た。自分の軽率な行動が、兄や妹に迷惑をかけたことを理解し、より深い後悔に苛まれた。

 ディーシーの通告に反発するラッタとレオナだったが、裁定官は非情であった。ジュワンの振る舞いを正しくないと糾弾し、恥を知れとも言った彼女は、残る三人にも。


『見ていたお前たちも同罪だ』


 仲間だろう、何故止めなかった? 何故、と言われてその場の自分はどうしていたか考えてしまう14歳組だった。

 ジュワンは自分が余計なことを言ったことが悪いのであって他の三人は関係ないとディーシーに言った。このまま巻き添えにしたくない一心だったのだろう。


 だがディーシーは突っぱねた。連帯責任だと、抗議を受けなかった。

 それぞれが部屋に戻る時、レオナが怖い顔でジュワンを睨んだ。ジュワンは一言――


「ごめん」


 呟くように謝り、部屋にこもった。レオナは納得していない顔だった。


「どうして、わたしまで不合格なのよ……! 何もしていないのに。言ったのはジュワンじゃない」

「何も言わなかったからだろう」


 ずっと沈痛な顔をしていたラッタは低い声を出した。


「ジュワンが言った時、僕らは皆ニヤニヤしていたんじゃないか? 調子に乗っていたのは彼だけじゃない」

「ラッタ……」


 ユーリは見れば、ラッタは唇を噛んだ。


「僕は、ディーシーさんに怒られるまで何が悪かったのか気づかなかった。それに原因がジュワンだって聞いた時、じゃあなんて僕まで不合格なんだって思ってしまった」

「それが自然な感情でしょ!」


 レオナは言ったが、ラッタは首を横に振る。


「違うんだよ。僕は、反省より先に、自分が助かることを考えてしまったんだ。仲間なのに、ジュワンのことを切り捨てて、どうすれば不合格から逃れられるかって」

「それは……」


 レオナは黙り込む。己の保身をまず考えてしまったのは、レオナも同じだ。仲間なのに、というジュワンの言葉に彼女は俯く。


「失敗した。リーダー失格だ」


 そう言い残し、長男であるラッタは自分の部屋に戻った。残ったユーリとレオナだったが。


「ユーリ、ごめん――」


 言うなり、レオナは抱きついてきた。


「ごめん……ちょっと」

「いいよ」


 ユーリが優しく言えば、レオナは声をあげて泣いた。抱き癖がある彼女も、今回のことは感情がぐちゃぐちゃで整理できていないのだろう。ユーリだって色々思うところはあるが、生まれの近い兄妹だもの、と妹を抱きとめた。


 彼女がある程度落ち着いて……落ち着いたら今度は背中から抱きついてきたので、そのまま彼女を連れたまま、先にジュワンの部屋に行った。


「ごめんよ……ごめんよ、ユーリ」


 ジュワンは部屋に戻ったきり、ずっと泣いていた。

 一番仲のよいユーリは、部屋に戻る前のジュワンが、リン姉さんたちを煽ったことを凄まじく後悔しているのを表情だけでわかっていた。


 普段の自信家の彼は見る影もない。泣きはらして目は真っ赤だ。ユーリとレオナを前にしても、ひたすら泣いて謝っていた。

 ここまで弱っているジュワンを見るのはユーリも初めてだった。正直、ほとんど話にならなかった。しゃくりあげる彼は、後悔の念をポツポツと漏らしたが、ユーリとしては聞いてやることしかできない。


 ラッタやレオナ、もちろんユーリが不合格になったこと。自分がやるまいと思っていた駄目な冒険者の振る舞いをしてしまったこと。情けなさと申し訳なさを、ジュワンは後悔と共に吐き出した。

 君のせいじゃない、とはお世辞にもユーリは言えなかった。抱き癖で後ろにくっついているレオナがいる前では。


 だがジュワンの痛みは辛いほど伝わった。兄弟として、見ているのも辛かった。同時に自分にあの時何かできることはなかったのかと、ユーリもまた後悔する。

 あの流れで、親友であり兄弟であるジュワンを注意することができたか? 答えはノーだ。いつもの兄弟姉妹の間の軽い冗談――そう頭が認識してしまえば、むしろ自分も兄弟であり親友であるジュワンに加担する方だ。

 コンビだと思われるくらいに親しいのだ。大抵の時は彼の肩を持つものだ。


 では今回は何故、あんなことになったのか?

 冗談では済まない事を、いつもの冗談のノリで言ってしまったことだ。兄弟姉妹であることの甘え、冗談が許される関係が、本当に大事な時に相手の気持ちに思いやれなかったのが失言、たちの悪い冗談になってしまったのだ。


 ユーリは考える。何か落ち度があったのだと考えることで客観的になり、そこでようやくあれはないな、と脳が理解する。


 ――本当、なりたくないモブ冒険者ムーブだったな。


 ドラマや映画を観たああいう風にはなりたくないパターン。自分でやってみると意外と気づかないものなのだなと新たな発見をする。本番では絶対にやらないぞ、とユーリは心に誓うのである。


「ただいまー」


 その時、小さな声が聞こえ、ユーリは振り返る。ついでにレオナも。


「父さん!」

「パパ!」

「ケーキ、買ってきたぞ」


 紙で作ったパックの中に、チョコレートクリームのケーキが入っている。


「大変だったな」

「うん……」


 ユーリは泣きそうになる。ジュワンはもう泣いている。


「試験を観ていたよ。お前たちの実力なら、もう冒険者と引けを取らないな」


 観ていたと言われ、ユーリたちは赤面してしまった。恥ずかしくもあり、嬉しくもあった。何せ自分たちの父親であり、伝説級の冒険者であるジン・アミウールなのだ。冒険者としての腕を褒められたことは、さらに胸を弾ませた。


「それはそれとして、人との繋がりは大事にしような」


 叱るでもなく、やんわりと彼らの父は言った。

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