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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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1947/1966

第1937話、冒険者不合格


 月面に未知の文明の遺跡……。何ともワクワクさせてくれる。ユナから話を聞いた俺は、さっそくベルさんに連絡を取り、月面探索に誘った。

 十年前の地下世界の発見以来、こういう大きな事例はなかった。退屈しているかと思い連絡したら、案の定だった。


『遺跡探索か、そいつは楽しみだ』


 明日、会うことにして、その日の通話は終了。……さて、子供たちのダンジョン試験の合格祝いにケーキを買っていこう。

 リンちゃんたちが撤収したのは残念ではあったが、きちんと引き際を見極めたのは上出来だ。追試という形で、次に最深部をクリアすれば冒険者デビューしても構わないと俺は考えている。

 一方の14歳組は、一発クリア。連携もとれていて、経験は必要とはいえ、冒険者デビューさせるに最低限の準備はできているとみた。


「冒険者かぁ……」


 あの子たちにとっては、小さい頃からの憧れでもあったからな。上手くできるか心配ではあるが、準備ができているなら本人たちの意思は尊重しないとな。

 ただ命を失う危険性があることはしっかり認識してもらわないといけない。遊び感覚でできる仕事ではないし、命懸け。いつ死んでもおかしくないのが冒険者であるから。……親のエゴを言えば、冒険者なんてやらずに安全な仕事をやってもらいたいんだがね。


 そして帰宅。


「ただいまー」

「お帰りなさいませ」


 シェイプシフターメイドのヴィオレッタが出迎えた。ちょっと家の中が静かな気がするな。


「こちらは?」

「ケーキ。皆で食べようと思ってね」


 お持ちします――とメイドさんは預かった。居間を覗くと、エミールとシエルがテーブルで何やら書き物をしていて、リザベッタとアリーシャが携帯ゲームで遊んでいた。……下の子ばかりだな。

 今日の主役になりそうな14歳組やリンちゃん、リュミエールの姿が見えないが――


「ただいまー……?」

「ジン」


 アーリィーとお母さん会が食卓を囲っていた。何やら深刻なご様子。こっちへきて、と手招きするアーリィー。……嫌な予感がしてきた。


「どうしたの?」

「今日、子供たちが冒険者試験を受けたの」


 アーリィーは真剣そのものだった。俺は頷く。


「聞いている。途中から見ていた。ラッタたち、合格したんだろう?」

「……」


 なに、その沈黙。お母さん方の視線がガチでちょっと引く。……俺、何もしてないよ?


「不合格」


 エレクシアが言った。不合格……?


「ん? どういうこと」


 クリアしたよな? 俺も見たから知っている。ちゃんとクエスト果たして不合格とは、本当に何があったんだ?


「リンとリュミエールは、追試験という形になってる」


 リムネが、軍人だったころの癖か事務的に告げた。そうだろうね。道中の判断は正しいが、実力面の評価のためにも一応、最深部までクリアしてもらわないとね。


「不合格って、14歳組が?」


 俺が改めて聞くと、アヴリルが嘆息した。


「うちのジュワンがね。余計なことを言ったのよ」

「つまり――?」

「途中撤退したリンちゃんたちを、煽ったの」

「ほぼ合格だったんだけど、ディーシーが最後の最後で、あの四人を落としたのよ」


 エレクシアがコーヒーを啜る。


 あー……。自分たちが試験を達成して有頂天になっているところに、道中撤退をしたリンちゃんたちに言わなくてもいいことを言ってしまった、と。

 裁定官でもあるディーシーが、それで一発アウトを出したということは、当人たちが口論するような状況になったのだろう。


「何て言ったの?」

「全部は知らないけど、『ダセェ』って言ったみたい」


 アヴリルは頭を抱えた。


「リンちゃんたちだって苦渋の決断だったはず。そういう気持ちも知らないで、ジュワンったら、自分たちはクリアしたから調子に乗ってしまったのね。口調が完全に煽っていたからね。ディーシーがぶち切れた」

「ディーシーが?」


 キレたのはリンちゃんたちじゃなくて、ディーシーだった?

 サキリスが口を開いた。


「彼女は、こう言っていました。『アミウール家の人間として恥ずかしい真似をするな。三流のクズ冒険者ムーブなど、恥を知れ』と」


 手厳しいお言葉。だが確かに、冒険者ギルドで、新人に絡むよろしくない冒険者のする振る舞いだったかもしれない。

 これにはお父さんお母さんが、王族貴族である子で考えれば、ディーシーの言う通りではある。ジュワンの言動は、褒められた振る舞いとは言えない。ジャルジーだって、ボルク君がそういう振る舞いをしたら容赦なく叱るだろう。


 若いから、というのはそうなんだろうけど、家柄が有名なだけにこういうネガティブなことって、すぐ悪評になるからな。親、親族に迷惑がかかるのもそうだろうけど、こういうの本人が一番後で傷つくパターンだから、早いうちに注意してわからせておくのは正しい。

 だけど……ううーん。


「それで……あの子たちは?」


 お母さんたちが押し黙る。大体お察しというところだろうか。


「リンちゃんとリュミエールは部屋に戻ったわよ」


 エレクシアが、何とも言えない表情を浮かべたまま告げる。


「ボルク君とアグナちゃんは帰った。14歳組は――」


 プロヴィアの女王様は、周りのお母さんたちを見回した。言っていいの、という顔である。誰も言わないので、仕方なく続けた。


「ショックでこちらもそれぞれの部屋に戻ってる。ジュワンが一番落ち込んでいるみたい。他の子たちもまあ、ディーシー曰く全員悪い。連帯責任だって」


 パーティーの行動は、一人の失敗でも全体に影響する。悪い話は全員の評判にも影響する。その辺り、社会的に見てそういうものではあるが、当人たちが納得、反省するかはそれぞれなんだよな。

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