第1930話、ダンジョン探索
「――って! ここどこよ!?」
リンは声を張り上げた。
転移でダンジョンの中に送り込まれたはいいものの、出た場所がまったくわからない。ギルドで入り口から入って、次の階層へ降りる階段の位置を暗記したのだが、スタート地点が全然違った。
「あー、やっぱりね……」
アグナは周囲を見回す。洞窟の中のような薄暗いダンジョン。ところどころに燭台があって光源を提供しているのが、ただの洞窟ではなくダンジョンらしくあった。
「今やっぱりって言った?」
「最初にディーシーさんが言っていたでしょ? スタートは私たちとラッタ君たちとは別々に設定するって。それを聞いたら、まあ、こうなるんじゃないかなって」
「……」
言われてリンは天を仰ぐ。
「そういえば、そんなことも言っていたわ。……そうなるとせっかく覚えた地図も無駄だった……?」
「それはどうでしょうか」
リュミエールが地図をリンから預かり、それを開いた。
「この最初の階層のどこかでしょうから、場所がわかればまだ地図も役に立つんじゃないですか」
場所の照合ができれば、そこから次への階段の道もわかる。ボルクは辺りに油断なく気を配る。
「それで、ここがどの辺りかわかりそうか?」
「いえ、ちょっとわからないですね」
リュミエールは前を指さす。
「とりあえず、進んでみて地形の類似点を探しましょう」
「了解だ。前衛はおれがやる。リンは援護。アグナはリュミエールの護衛だ」
ボルクが仕切る。リンは口をへの字に曲げる。
「王子様が先頭というのも、何か収まりが悪いわね……」
パーティーの中で一番重装備のボルクは、さも当たり前のように歩き出す。思うところはあっても、クラスでもこんな調子なので、リンもそれについては突っかかることはなかった。
「流行らないわよ、そういうの」
ただ愚痴っぽく、遠回しに指摘しておくのであった。
・ ・ ・
ラッタ、ジュワン、ユーリ、レオナの四人も、ダンジョン内にいた。洞窟のような中だが、いきなり行き先が四つに分かれていた。
「これは、いきなり分かれて捜索か?」
ジュワンが言えば、ユーリは首を横に振った。
「却下だ。それをやるなら、パーティーできた意味がない」
一人で対処ができない状況に遭遇した時のための複数行動。正解を探すためにいきなり別行動は、やってはならないことの一つだろう。
「ラッタ」
「魔力サーチをかける」
長男であり、この中で一番魔法に長けるラッタが目を閉じる。ジュワンが、ハンドサインを出す。
「警戒」
無防備に近いラッタをカバーすべく、残る三人はそれぞれの方向を見張った。ここはダンジョン、いつモンスターが現れて襲ってくるかもわからない。
特に細かく言わずとも、それぞれが見張りをこなすのは、幼い頃からゴッコ遊びとはいえ、冒険者パーティーというものについて理解を深め、実践していたことも影響している。
「左から二つめ」
ラッタが口を開いた。
「スライムだと思う。それの反応が複数ある。このルートだけ、特に」
「他は? ……いないのか?」
「怪しいね」
レオナは口を開いた。
「罠? それとも正解の道?」
「スライムが多いのは、そこを多く生き物が通るからだ」
ラッタは歩き出す。
「では、他の道は何故スライムがいないか?」
「通らないからだろう?」
ジュワンは深く考えるでもなく言った。
「行き止まり、あるいは途中から道がなくなって、すぐに引き返す羽目になるってところじゃねえかな?」
「正解!」
四人は歩き出す。ラッタは続けた。
「おそらくだけど、他の道は罠の類いはないと思う」
「何でだ?」
「罠があればそれに引っかかって死体ができるだろう? そうなるとスライムが処理しに来る。でもそれ以外の道にスライムがいないということは――」
「死ぬような危険はない、ってことだな」
ジュワンは頷いたが、すぐに首を捻る。
「でも、ここ本物のダンジョンじゃなくて、ディーシーさんの作ったものだろう? そこまで考えるのは深読みってやつじゃないか?」
「メタ読みやめなよ」
ラッタはたしなめる。
「リアルに寄せているんだから、そういうところも本物と同じと考えたほうがいいよ」
「でも……あ、いや反対とかそうじゃなくて」
レオナが眉をひそめた。
「ラッタの言う通りなら、このスライムのいるルート。罠が普通にあるってことにならない?」
「……それはそう」
ラッタは浮遊魔法を使う。四人は地面から足が離れ、十数センチ浮かび上がる。
「サンキュー、ラッタ」
「指摘したのわたしなんですけど?」
「はいはい、レオナもありがとう」
「どういたしまして」
仲のよい四人は、罠を警戒しつつ進む。そしてスライムが現れると
「ファイアボール」
特に怒鳴るでもなく、淡々とラッタ、そしてユーリが火属性魔法であっさり焼き払った。ジュワンが口笛を吹く。
「ヒュー、よく燃えるなスライムは」
「魔法には弱いからね」
ラッタは何でもないとばかりに、無詠唱でスライムを焼いていく。以前見たドラマや映画でよく見た光景に、ユーリは不思議と感心してしまう。作り物だったそれらも割とリアルだったんだな、と。
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