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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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1938/1964

第1928話、冒険者の第一歩


「ようこそ、我がダンジョンへ!」


 ディーシーは気味が悪いほど笑顔だった。

 ワクワクしている14歳組のユーリ、ジュワン、ラッタ、レオナ。冒険者になりたいと親に相談した四人は、それを認める条件であるダンジョンへ挑む。

 そして巻き込まれた感じのリン。彼女から話を聞いたボルク・ヴェリラルド王子、クラスメイトのアグナ・シェードも参加だ。


「なーに、そんな張り切った格好してるのよ?」


 リンは、ボルクにジト目を向ける。我らが王子は、今時、古風である騎士風の装備をまとっている。


「ダンジョンに行くのだ。装備はきちんとしていくのが基本だろう」


 やや緑がかった白い鎧は、オリハルコン製であり、いつぞやジン・アミウールがヴェリラルド王国の武術大会を優勝した際の装備に似ている。……というかジンがボルク用に作ってプレゼントした品だったりする。もらった時の喜びようは、今でも語り草であり、当人は振り返って恥ずかしく感じている。


「侮るなど、あってはならない。命がかかっている場面ではな」

「……さいですか」


 リンはため息をついた。ちら、と親友であるアグナを見やる。


「それで、あんたも参加するの?」

「自分が実戦でどこまでできるのか参考に」


 チャッ、と眼鏡を押し上げるアグナ。

 なおリンにとって友人であるが、アミウール家とも縁が深い人物でもある。母親が、プリムと同様魔法人形の兄弟姉妹であり、ジンの養子であることもあって、リンの兄弟姉妹と親族の関係にある。

 なので、ラッタたちもアグナのことは知っていた。……兄弟姉妹の中にはリンよりもアグナの方がお姉ちゃんだったらよかったのに、と悲しいことを言う者もいたりする。――隣の芝生は青い。


「それはそれでいいとして――」


 ちら、とリンの視線が反対側に向いた。


「あんたはどういう風の吹き回しなのかしら、リュミ」

「あら、姉さん。わたくしだって、経験したいことはあります」


 次女リュミエールが、ディーシーのダンジョン挑戦に参加するのである。

 母親エレクシアによく似た銀髪の美しい娘に育ったリュミエール。趣味読書、将来の女王候補という彼女であるが――


「あんたがこういうのに興味があるなんて知らなかった」

「本を読んでいるだけではわからないこともあるんですよ、姉さん」


 リュミエールは涼やかに笑う。本当に絵になる娘である。


「お母様も、何事も経験だとおっしゃっていました。また、機会は逃すべきではない、と」

「ちゃっかりしているわ、あんた。でも大丈夫なの? あんたって――」


 体力ないよね?――リンが疑うような目を向ければ、リュミエールは口元を隠した。


「まあ、それは気掛かりなのはわかります。わたくしもそこが不安ではあります。けれど、やってみないとわからないじゃないですか、こういうの」

「うちらの兄弟姉妹の身体能力テストだと、あんた下位グループよね」


 10歳児と同レベルというのはどうなのか、と思うわけで。


「別にわたくしが剣やメイスを振るうわけじゃありませんので」


 魔術師の杖を手に微笑む彼女。白を基調としたローブ姿は、言うまでもあく後衛魔術師である。


「精々、足を引っ張らないように頑張ります!」

「うん、まあ、頑張って」


 リンは手を振るのである。

 パーティー編成は、14歳組の四人と、リン、ボルク、アグナ、リュミエールの四人に分かれた。

 ディーシーは告げた。


「スタート地点は、別々に設定させてもらう。まあ、ダンジョン内で合流するのも、そのまま自分たちのパーティーだけで攻略をするのも自由だ。何階層あるかは教えない……というのも可哀想なので五階層であるというのは伝えておこう」


 後は自力で頑張れ、とダンジョンコアロッドが正体である美女は言った。


「さあさ、中に入ってくれ。スタートは1時間後、それまでに準備を整えるがいい」


 ディーシーはポータルの入り口のようなリングを指し示し、自ら先陣を切る。


「入ってすぐは入り口前フロアで、まだダンジョンではない。最深部に何があるか調べてくるのが、今回のクエストだ」



   ・  ・  ・



 ポータルゲートの向こうは、冒険者ギルドのフロアにようだった。

 昔、父ジンに連れてきてもらったことがあるからリンは特にそう思った。ボルクも不思議そうな顔をしているし、14歳組の四人もポカンとしている。


 無理もない。ダンジョンと聞いて入ったら、想像とはまったく違った光景が広がっていたのだ。

 最初に口を開いたのはボルクだった。


「これは……、どうなんだろうな?」

「どう、とは?」


 リンが返すと、ボルクは困惑しながら言った。


「ダンジョンに入ったら、魔獣との戦いが始まると思っていたんだが……」

「入ってすぐは入り口フロアだって、ディーシーさんが言ってたでしょ? 聞いてなかったの?」

「聞いてなかったんですね」


 アグナが眼鏡のブリッジを持ち上げる。中々に辛辣な二人である。

 うっ、と声を出すボルクに、リュミエールは微笑みかける。


「まあまあ、たまたま聞いてなかったこともありますよね。緊張しちゃったのかな……?」

「……」

「リュミ、そいつを甘やかさない」


 リンは棒読み口調で言った。アグナも続く。


「未来の王様が、人の話を聞き逃すとかまったくなっていませんね」

「……」

「つか、あんたもデレデレすんな」


 リンはボルクの膝裏に軽く蹴りを入れた。ガクンと軽く膝が折れるボルク。


「デレデレなんて、していない」

「どうだか。あたしの妹に色目使ったら殺すわよ」


 リュミエールは可愛い。美しい。同年代の男どもがどういう目で見ているか知っているだけに、リンはこうした野郎どもの反応に辛辣になるのだ。


「それはそうと――」


 リュミエールはアグナを見た。


「これから1時間あるみたいですけど、どうしましょうか? やっぱり、準備時間ということは、ここの人たちとお話しろってことですよね?」

「情報収集は大事よね」


 アグナも同意したが、その表情は優れない。


「冒険者って、いかついわね……。私はああいうのは苦手」

「あんたは、いつも人見知りでしょうが」


 親友の眼鏡っ子にリンは呆れ顔。アグナは冷静沈着。クールぶった印象を与えるが、普通に人見知りなだけであったりする。初見相手に及び腰なのはいつものことである。


「おっ、ラッタたちも動くぞ」


 ボルクが14歳組を見た。あちらの四人は、まず冒険者ギルドフロアにつきものであるクエストボードを見に行くようだった。


「あの子たち、クエスト受けるつもりなのかしら?」


 リンは率直に思ったことを口にすれば、リュミエールは首をかしげた。


「でも、わたくしたち冒険者ではないのですから、クエスト受けられないんじゃないですか?」

「まずは登録よね」


 アグナが冷静に告げた。


「でも、あれも手掛かりよね。私の場合、冒険者に話を聞くよりは手頃かも」

「どういうこと?」

「依頼内容を見れば、ダンジョンの特徴やモンスターの傾向がある程度わかるってことよ」


 達成できないクエストは、ボードに張り出されない。モンスターの討伐クエストは、このダンジョンに出てくるモンスターであるはずで、傾向がわかればフロアの冒険者にも具体的に質問できるようになる。


「リアリティを重視して作られているダンジョンなら、なおのことクエストボードの依頼も無意味ではないはずよ」

「じゃあ、あたしたちも行こうか」


 リンは歩き出す。三人は顔を見合わせ、そして続いた。

 先にボードを見ていたユーリ、ジュワン、ラッタ、レオナ。漫然と眺めている三人と違い、じっと依頼内容を確認していたラッタが、リンたちに気づいた。


「来たね、姉さん」

「あ? 誰が(きたね)え、姉さんだ!」

「言ってないよ、何を言ってるの!」


 ラッタが突っ込めば、ジュワンが悪戯っ子の顔になった。


「おっ、姉さん。汚い。汚い姐さん」

「あんたたち!」

「逃げろー!」


 ラッタを除く三人はその場を離れた。リンは腰に手を当て、嘆息する。


「あの子たちったら……」

「元気でいい弟妹たちじゃないか」


 ボルクは涼やかに言うとラッタへと顔を向けた。


「どうだ? 何かわかるか?」

「ええ、このクエストが本当であれば、何が出てくるかの予習になります」


 長男ラッタはよどみなくそう答えるのだった。

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