第1927話、そういうお年頃
浮遊離着陸装置で、待機スポットに直接降りた二機のトロヴァオン戦闘機。スクワイアゴーレムがそれぞれの機のコクピットに梯子をかけて、パイロットらは降りてきた。
「また、無茶をやったな」
訓練飛行職員のコンドルは、戻ってきた二機のトロヴァオンを見上げながら言った。
「格闘戦をやれば、こうもなるわよ」
プリムが梯子から降りると、スクワイアゴーレムからチェックリストを受け取った。別のスクワイアゴーレムが、トロヴァオンを外側から確認作業を始める。
リンも機から降りると、チェックリストを渡され、速やかに記入。面倒ではあるが、機体のメンテナンスする側にとって必要なことであった。
ナビの診断に任せればいいのにと思うが、パイロットの感覚は意外とバカにならないもので、機械では判別の難しいことに気づいたりすることもある。
「リン、反省会いくぞー!」
「はい!」
プリムに言われ、記入の終わったチェックリストをスクワイアに渡す。コンドルは言った。
「何かあったか?」
「ないです。じゃ」
本当は整備担当者と機体について言葉を交わすものだが、プリムに呼ばれているので省略。コンドルもそれがわかっているので、最低限の声がけだけしたのである。
本当ならブリーフィングルームで反省会をやるのだが、ここは軍隊ではないので、プリムはウィリディス食堂にリンを連れ出した。
そこで特大パフェ――フィレイユ姫の好物、とか何とか書いてあるそれを注文。運動後のご褒美とばかりにパフェをパクつく。
「うーん、これこれ」
リンは上機嫌である。クリームがまたいいのだ。これでたくさん食べると気持ち悪くなるのは何故だろうか。最初の方だとこれがまた格別なのだが。
「いやあ、リンちゃんがいると、こういうパフェが注文できていいわ」
などとプリムは言う。さすがにアラサーになると、ちょっと周囲の目が気になるようである。あまりそういうのを気にしない性質だと思うのだが、違うらしい。
「リンちゃん、今年で16歳だっけ?」
「そういう姉さんは――」
「ちょい待ち。それ以上は言うな」
歳が気になるお年頃。彼女は独身である。
「最初に年齢の話をしたのは、プリム姉さんじゃないですか」
リンはモグモグと食を進める。
「あまりいい予感がしないんですけど、何です?」
「あ、タブーだった? 進路の話は」
「まあ……そうっすね」
成人も近いので、何になるのか周りはソワソワしているし、プレッシャーも感じているリンである。
「まだ戦闘機に乗っているから、軍に志願するつもり、あったり?」
「ひょっとして勧誘だったり?」
軍人――確か、今の階級は少佐だったか。
「まあ、そういうこと。リンちゃん、知名度あるし。可愛いからね」
「ひょっとして広報のほうだったり?」
「グラビアに興味ある?」
それはちょっと――カレンダーの素材やイベントとか撮影会とか興味は……ちょっとはあったが、今はない。プリム姉さんの仕事ぶりは知っているので、どういうものかは大体知っている。
「てっきりパイロットとしてスカウトされたと思ったんですけど」
「それもある。両方できる人材って貴重なのよ。卒業、成人まで二年はあるけど、早い人はもう決めて、それに向かって準備してる」
プリムは肩をすくめた。
「で、リンちゃん、本当のところはどうなの? 暮れに話した時は、進路に迷っている風だったけど」
「相も変わらず、迷ってますよー」
そういえば、とリンは、ラッタたち14歳組が冒険者になりたいと母親会に言っていた話をする。プリムは感心するように相槌を打つ。
「私はそっちには興味なかったけど、男の子の好きな職業よね。ランキングに上がってる」
「なりたい職業では微妙に下位なんですけどね。憧れはするけど、実際になりたいかは別ってやつ」
「リンちゃんは冒険者になりたい?」
「……どうですかねぇ。昔は憧れもしましたけど」
その手の本やテレビに多く接してきたが、いざ実際にやりたいかと言われると……。
「命をかけて頑張る、というのも、何か違うなぁって」
「まあ、ここ十年、細かな争いはあるけど、大きな戦争はないし」
プリムは遠い目をする。地底シェイプシフター戦争を最後に、シーパングと同盟は平和を謳歌している。
地方に目を向ければ、領土を巡っての小競り合いや民族対立などはあった。だが同盟軍が介入しなければならないような惨事にまで発展した衝突はなかった。
もっとも、同盟軍がまったく何もしなかったかと言われるとそうでもない。大災害への緊急支援ならびに出動。モンスタースタンピード現象に対する同盟軍の参戦など、地方では不足する場合に軍は鎮圧に動いていた。
「こんなご時世だもの。シーパングの人間は恵まれているほうよ。わざわざ冒険者をやらなくても、生活には困らないのよね」
「でも弟たちは、やろうっていうんですよ?」
14歳組の四人は、子供の頃から冒険者に対する憧れが強かった。その熱の入りようはリン以上で、あの四人は、ごっこ遊びの段階からすでにパーティーを組んでいた。
「やりたいって思いは大事よ」
プリムは肘をついた。
「ジンパパだって、やりたいことはやれってスタンスでしょう? 基本私たちが何を言っても、本人のやる気に勝るものはないって人だから」
「そうですね……」
リンは視線を逸らした。
ラッタたちはそのやりたいことを見つけた。それに引き換え、リンにはそのやりたいものが浅くて、中々しっくりこなかったのであった。
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