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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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1936/1963

第1926話、空中格闘戦


『模擬戦、やるよ』


 プリムの宣言は、リンを大いに青ざめさせた。


「えっ、あ、ちょっと、プリム姉さん!」

『私って何てやさしいのかしら! 実戦ではスタートのカウントダウンなんてしてくれないんだぞっと。3……2……1――」


 GO!――プリムのトロヴァオンが旋回機動に入った。しかも速度を上げつつの、通常飛行とは異なる戦闘機動だった。

 リンも反対側へ旋回、一度離脱にかかる。スロットルを開き、降下。パワーを溜める。


「ああもう、無茶苦茶よ!」


 スピードと高度に注意を払いつつ、センサーでプリム機を探す。すでに旋回を終えて、リン機の後方へ突っ込んでくる構えだ。おそらくフルスロットルで距離を詰めてくるはず。

 過去、何度もプリムとの空中戦を経験しているリンである。しかし、いきなりこんなことを始めたら基地の管制塔も含めてお叱りがくるものだが――


「こんなことやっていいんですか、プリム姉さん。怒られますよ?」

『私は模擬戦をやるってプライトプラン出しているから問題なし!』


 あたしは違うんだけどなぁ――リンは思ったが、少々の無茶は何とかできてしまうのがプリムという女性である。


「大人って――」


 愚痴っても仕方がないことだ。これまでの経験上、文句を言っても状況は改善しない。いざ事が起こったら自力で解決する方向に動けと、プリムからも口を酸っぱくされた。


「制限高度は? あるんですか?」

「ない、と言いたいところだけど、高度500メートル以下は禁止。それ以下で飛んだらお説教1時間ね』


 プリムは快活だった。


「うへぇ」


 思わずリンの口から漏れる。制限高度以下だったら負けとか終了にしなかったのは、プリムの狡猾さが見てとれる。

 負けるより説教の方が嫌というリンの性格をよくわかっているのだ。


 下降しつつ左旋回。ついでに振り返って、プリム機を目で探す。後ろに回り込み、射撃ポジションに向かいつつある。

 相手は、リンと同じトロヴァオンA型。このウィリディス飛行場の練習機だ。照準センサーはあるが武器はついていない。

 これで一定時間ロックオンしたら勝ちというのが、おそらく今回も適用される。特別ルール宣言をしなかった時点で、そうと決まっているのだ。


 同じ機体である以上、ほぼ腕の差が勝敗を分ける。実戦経験ではとてもプリムに勝てないリンだが、飛行歴自体は、そこまで離されていない。

 何故なら、リンは魔人機系列パイロットであり、根っからの戦闘機乗りではない。


 高度差は若干だが、プリム機が上。さらにブーストを使ってパワーを嵩増ししている分、リン機との距離を詰めてきている。

 舐められたものだと、リンは思う。プリムはミサイル系を封じて、機関砲もしくはプラズマカノン系で撃墜判定を取るつもりらしい。


 こちらはルール指定されていないから、ミサイル系でロックオンをとってやると思う。だが問題は、後ろをとられている現状、リンが圧倒的に不利なポジションということだ。


 ――だったら……!


 リンはさらにトロヴァオンを旋回する。お望みのドッグファイトと洒落込もう。

 加速で追いついてきたプリム機も、旋回でリン機を追う。機銃かビームで狙うということは、機首が相手の方向を向いて射線が重なる必要があった。


 機をローリングさせ、逆方向へ急旋回する。一方向に逃げ続けるのも悪くないが、相手に見越し射撃されるかもしれない。予想針路に攻撃をばらまく戦術だが、ふとロックオン競争に見越し射撃の判定などないことを思い出し、リンは後悔する。


 このままドッグファイトの名の通り、相手の尻尾を追いかけてグルグル回った方がよかったかも、と思い出す。

 同性能だから、旋回し続けても相手より鋭い旋回ができるわけではない。が、スピードの差は、その旋回の差に影響を与える。

 ブーストして速度を上げた分、プリム機は勢い余って旋回も若干大きくなる。リンはクロスするように旋回を繰り返しジグザグ機動。追いつけと距離を詰めたプリム機は速度が出ていた分、リン機に思いのほか接近してしまう。さらにジグザグの機動のせいで射線に捉えるのも苦労する羽目になる。


 素直にミサイルでケリをつければいいものを。リンは減速をかける。機体は急激にスピードを失い、滑るように下降。その間に速度差で、プリム機がリン機を追い越した。

 オーバーシュート。

 普通の飛行機であれば、空中戦で急減速は命取り。だがここは僚機なしの一対一。さらにトロヴァオンはブーストで無理やりスピードを回復させられる戦闘機だ。


「ナビ、ロックオンシステムを起動。演習モード!」


 ただちにトロヴァオンの照準センサーが稼働。ロックオンマーカーが、前方で尻を降っている敵機に合わされる。

 急加速で振り切ろうとするプリム機だが、性能は同じトロヴァオン。同じ加速なら振り切ることは不可能。

 ピー――! 照準レーダーがミサイルのロックオン音を響かせた。


「撃墜。撃墜ですよ、プリム姉さん!」

『実戦だったら、阻砕弾ばらまいて躱すわよ』


 通信機からプリムの声がした。負け惜しみを――リンは照準センサーを解除する。


「そうですね。実戦だったら、こんな減速戦法は使えない」


 複数対複数の航空戦であったなら、戦場で減速した機は敵に狙われる。一度失ったパワーを回復させるのは簡単ではない。空中で力を失うことは、機動力の低下、離脱、回避行為自体が難しくなる。そこを狙われると、あっけなくやられる――というのが空中戦教義にて力説されていた。


『まあ、勝ちは勝ちよ。特別にパフェをごちそうしてやるわよ、リンちゃん』

「やった! ゴチになります!」


 機体のみならず、パイロットもカロリーを消費するものである。空中での戦闘機動なんてやろうものなら、体もエネルギー回復を欲するのだ。

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