第1923話、いざそれを言われても――
冒険者になりたい、とユーリとジュワンは言った。
その母であるアーリィーとアヴリルは、予想はしていたというもののすぐに『うん』とは言わなかった。
見守っていたリンだが、そこに突然、後ろから抱きつかれた。
「ちょ、レオナ?」
エミールに逃げられたレオナが今度はリンに抱きついてきて、そして言った。
「あ、わたしも冒険者になりたいです!」
「僕も」
ラッタがやってきて便乗するように告げた。サキリスママ、リムネママも目を丸くする。
「あなたたちも?」
気づけば14歳組全員が冒険者登録をしたいと言い出した。一人一人なら各個に返り討ちだが、全員で行けば――というやつかもしれない。
アーリィーママは聞いた。
「四人とも打ち合わせ済み? 登録したら一緒のパーティーを組むの?」
コクコクと四人は頷いた。アーリィーは視線をサキリスに向けた。
「サキリス、客観的に四人の実力について」
「上手くやれるなら現在でもDランク相当の力は持っています」
日頃から武器や魔法のトレーニングはしている。さらに冒険者体験や野外活動もそこそこ参加していて、まったくの素人ではない。
ジュワンが顔を曇らせた。
「上手くやれば……?」
「経験が足りない」
きっぱりとサキリスは告げた。それはそう、と聞いていたリンは思った。
冒険者体験でのモンスター退治なんてものは、ある程度コントロールされた状況で、経験のある大人たちがいざという時フォローしてくれる。
だが実戦の場ではそうはいかない。自分たちで何とかするしかないのだ。
臨機応変に。
それは一定の経験がなければ正しく判断、ないし反応できないのだ。
「でもさぁ」
レオナが、リンの耳もとから母親たちに言った。
「その経験も、やらないとたまらないじゃん」
実際に冒険者としてやった経験なんて、体験学習の時しかないのだから、そこで経験を引き合いに出されてもなくて当然である。
そこでリムネがフッと微笑んだ。
「そこは知識と準備でカバーするものよね。……あなたたち、正しく予習はできているのかしら?」
子供たちは顔を見合わせる。ユーリが発言した。
「依頼内容、場所などの情報がわかれば」
「クエストを受けてから勉強するつもり? それでは駄目とは言わないけれど、半人前よね」
リムネは片目を閉じた。
「情報は戦いにおける鍵よ。事前調査ができる場合はいいけど、そんな猶予もない場合もある。常日頃からの知識量が大事になってくるわけ」
「すべての冒険者がそうではないんじゃない、母さん」
ラッタが淡々と言った。
「体験学習の時に現職の冒険者を見たけど、知識がない人もいたよ?」
「そういう人は長生きしないのよ。あなたたちが冒険者をやるなら見習ってはいけないタイプね」
リムネはニコニコしながら返した。
「母さん、あなたたちの誰一人死んでほしくないのよ」
沈黙。14歳組も母親ズも押し黙る。部外者だがレオナに抱きつかれて動けないリンは、何とも居心地が悪かった。
――なんであたし、ここで話を聞いてるわけよ。
部屋に戻ろうかしら、と思っていたら、ふっと来客が現れる。
「面白い話をしているではないか!」
「あら、ディーシー」
父ジンと契約――していることになっている精霊。実際はダンジョンコアのディーシーがやってきたのだ。
「今日はどうしたの?」
「うむ、風の噂でな、子供たちが冒険者になりたいと言い出したと聞いてな」
「はやっ!?」
アヴリルが引いた。
「話って今しているところだけれど。……とんだ地獄耳ですね」
「ふふん、主と話していて、いつかこの日が来るのではないかと準備してはや十数年――」
「そんな前から?」
エレクシアが目を丸くする中、ディーシーが14歳組――とついでリンを見渡した。
「お主たちか。冒険者に志願するのは。……冒険者になりたいか?」
子供たちはまたも顔を見合わせた後、コクリと頷いた。
「よろしい。冒険者になる前に試験をやろう。これはお主たちの父である我が主と話していたのだが、普段のトレーニングの実践とも言うべきものだ。これに合格できれば、冒険者に登録することを認めると、お主たちの父は言っておった」
「本当!?」
ユーリが驚き、ジュワンはパンと手を叩いた。
「さすがオヤジ」
ディーシーは言った。
「いいか、お主たちは両親ともに他の者たちと違って、少々立ち位置、振る舞いも異なる。それを自覚し、傲ることなく、健やかに――以下略」
「そこは略さないで!」
アーリィーが突っ込んだが、ディーシーは手を振る。
「こういう説教くさいことは我の趣味ではない。我の作ったダンジョンにも挑戦させてやるから精々、ない知恵絞って、入念に準備するといい」
ケケケ、と嫌味な笑みを浮かべるディーシーであった。
・ ・ ・
おかしなことになった。
冒険者に志願したのは、ラッタ、ジュワン、ユーリ、レオナの14歳組の四人なのに、ちゃっかり? しっかり? リンも巻き込まれてしまった。
『やりたい奴は何人でも構わんぞ! 死ぬ寸前まで体験したいという命知らずの挑戦は受けてやるぞ。ふははははっー!』
などとディーシーは高笑いをしていた。部外者を決め込んでいた年少組は、すっかりビビってしまっていた。
翌日、学校に登校して、その件をボルクに話したら――
「それは、おれも参加していいのか?」
と、未来のヴェリラルド王国国王は返した。
「実戦の経験は積みたいが、家だと許してもらえないからな」
「そりゃあ未来の王様に何かあったら困るし」
リンは呆れる。
「つーか、いざ戦場になっても、あんたが戦うような状況って、もう負けているんじゃない?」
「先陣を切る、ということもある」
「やめろ、脳筋王子! 部下を困らせるんじゃないよ」
リンは注意するのであった。
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