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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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1931/1947

第1921話、姉なるもの


「ただいまー」


 リン・アミウールが帰宅すると、シェイプシフターメイドのヴィオレッタが出迎えた。


「お帰りなさいませ。――荷物はお持ちしますか?」

「いいよ、自分でやる」


 居間を通って、手洗いうがい。日本ではこれは当たり前――というおかしな風習がアミウール家では通っている。これで食後の腹痛か避けられるというのだから、案外馬鹿にならない。

 部屋に荷物を置いて、制服から私服へ着がえる。居間へ向かおうと部屋を出たとき、弟たちと廊下で遭遇した。

 ジュワンとユーリである。この二人はいつも一緒にいる。


「お帰り姉貴」

「お帰り」


 二人の弟は殊勝にも挨拶したが、リンはピクリと口元を動かす。この二歳年下のガキどもは、ちらちらとリンの胸元を見るのである。発情期かこの野郎。この年頃の男の子ときたら、ちょっと胸が膨らんでいるとそちらに目がいくものではある。


「どこ見ているんだ?」


 自然と男口調で、弟たちを脅すのである。二人は首を横に振る。


「見てないよ」

「そうそう、見ていない」

「見てたろ、タコ」


 リンはため息をついた。


「お姉ちゃんは優しいから引っぱたいたりはしないけどさぁ、リュミやレオナにはやるなよ」

「やらないよ」

「うん、やらない」


 このガキども――リンは自身の黒髪をかいた。


「こりゃ触らせてやったほうがいいか……?」

「え……?」


 固まるガキ二人。リンは眉間に皺を寄せた。


「その反応をやめろって言ってるんだよ!」

「言ったのは姉貴じゃないか!」

「そうだよ」


 ワイワイと言い争いに発展するが、いつものことだ。そこへ黒髪、褐色肌のラッタが顔を覗かせた。


「何を騒いでいるんだい? リン姉さん、何かあったの?」

「あんたの弟たちがスケベなのがいけない」


 口を尖らせるリンであるが、ラッタはため息をついた。


「姉さんの弟でしょうに。弟に当たるのはよくないよ」

「あたしが悪いっての?」

「絡み方がよくないよ。で、学校で何があったの?」


 淡々と、表情乏しく尋ねるラッタ。説教する時の父ジンに似ているのが、何ともやりづらくなるリンである。



   ・  ・  ・



 庭に出ると、リザベッタが一人でボール遊びをしていた。夕方ということもあって、他の兄弟姉妹は家に戻っている。


「明日、体育の授業だって」


 ボール遊びではなく、ボールを使った運動の練習だとラッタはリンに教えた。


「なるほど」

「それで、何があったの?」


 ラッタに問われ、リンはどう話したものかと首を捻る。弟に素直に相談するのは果たしてどうなのか……。要するに長女のプライドが首をもたげるのである。


「あんたって、将来のこと考えてる?」


 いきなり振られても困惑するだろうと想像したが、ラッタはいつも通りだった。


「まあね。だって長男だもの」


 アミウール兄弟姉妹の3番目。男子としては一番最初のラッタである。もっとも次男のジュワン、三男ユーリは同い年で、長男感覚は薄いが。

 しかしリンから見れば、ラッタは長男なのである。三人の中で一番落ち着いていて、兄弟姉妹の面倒見もいい。年下ではあるがお兄さんにするならラッタだと思っていた。


「何になるの?」

「さあね。わかんない」


 ラッタは、あっけらかんとしている。リンは眉をひそめた。


「考えているんじゃないの?」

「考えているよ? 決まっているとは言ってない」


 屁理屈こねて――リンが呆れるが、ラッタは庭を歩く。


「そういう姉さんだって、進路が定まっていないじゃないか。僕をどうこう言えないよ」

「……」

「でもさ、決められないのも無理ないと思う」


 振り返ってラッタは手をかざした。青い炎が具現化する。


「父さんは本職は魔術師だけれど、王様やら大公やら肩書きの多い人だ。まあ、僕はそういう貴族階級とは縁がない子だから、割と自由に選べるといえばそうなんだけど」

「あんたは魔術師を目指していると思っていた」

「目指しているよ」


 ラッタは魔法を熱心に習っている。父ジン・アミウールは英雄魔術師であり、母リムネも魔術師畑の人間だ。魔術関係者からは、ジン・アミウールの息子は優秀な魔術師の素養があるに違いないと思われている。


「僕にはそれしかないからね」

「あんた、言ってることがさっきから矛盾してない?」

「姉さん、強い言葉を言ったって賢くはならないんだよ」


 ラッタは飄々としている。


「魔術師を目指しているからといって、それになるとは決まってないじゃない」

「それって、他になりたいものがあるってこと?」

「あ、わかっちゃう?」


 ラッタはクスクスと笑った。母親そっくりだった。


「僕は王族貴族方向のご指名がないからね。長男だけど、父さんの後継ぎというには範囲が広すぎて対応できない。だからせめて魔術師でもって思ったんだけど……冒険者もいいかなって」

「冒険者ぁ!?」


 リンは素っ頓狂な声を発した。幼い時は一度は憧れたが、ハイスクールに通う歳にもなれば考えも変わるもので。


「それって就職できない奴がなる職業でしょう?」

「姉さん、言葉強い」


 ラッタは指摘した。


「それにそれ、ドラマのセリフじゃないか。影響され過ぎだよ。それにそれを言ったら父さんもベルさんもSランク冒険者。それでも就職できない奴がなる職業だって言える?」

「う……」


 返す言葉もないリンであった。

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