第1903話、渓谷進攻
第二艦隊の空母群から発艦した爆撃隊は、第30番渓谷の上空に差し掛かった。
『グリーン大隊が先導。イエロー大隊は後続せよ』
イールⅢ攻撃機の編隊は、中隊ごとにクサビ型の隊形で突入する。
『地上より対空砲火!』
『防御シールドを展開。耐えろ!』
地上から飛んでくる対空機関砲やプラズマカノン。それらは爆撃機の適正な侵入進路を阻もうとする。
『空が狭い』
すでに先行した戦闘機隊が敵戦闘機と空中戦を演じていた。ファルケ、ストームダガーが地底シェイプシフター戦闘機に燃焼弾頭の20ミリ機関砲やプラズマカノンを撃ち込んで叩き落とせば、敵機もまた12.7ミリ、または20ミリ機関砲、プラズマカノンで反撃してくる。
後を進む爆撃隊にとっては、下は対空砲火、上は航空戦と非常に窮屈であった。
『峡谷に対して爆撃を開始せよ! エクスプロージョン爆弾、発射!』
イールⅢ攻撃機が、エクスプロージョン・ロケット爆弾を渓谷内の黒い塊――地底シェイプシフターに撃ち込む。
ひとたび着弾すれば、周りの地形諸共燃やす爆裂魔法弾だが、地底シェイプシフターも対空砲を打ち上げる。銃弾が直撃したロケット弾が空中で巨大な火球を広げ、同じく空中にあったエクスプロージョン弾を巻き込み、大きな爆発を引き起こす。
『くそっ! 散開! ブレイク!!』
これには発射したイールⅢ攻撃機も巻き添えを食らわないように上昇したり距離を取る。
『まるで要塞だ……!』
峡谷内のシェイプシフターの対空砲火は苛烈そのもの。生物が化けているなど信じられない。これは普通に軍隊を相手にしているようだ。
ロケット弾や爆撃機を撃ち落とそうと熾烈な攻撃してくる地底シェイプシフター。大陸戦争を経験している者からすれば、末期の大帝国やスティグメ吸血鬼帝国のそれに匹敵し、経験の浅い者からすればまるで弾丸の雨の中を突っ切っているような気分になった。
所々で峡谷からシェイプシフターが化けた小型ミサイルが飛んでくる。これにはパイロットたちに回避を強いた。
しかし躱す余裕がほとんどない距離から飛んできて、機体のシールドに命中。そのエネルギーを大幅に削ると、次のミサイルかシールドを破り、撃墜に追いやった。
『グリーン7がやられた!』
『シールドがもたない!』
イールⅢ攻撃機、後続のファントム戦闘爆撃機が複数機、犠牲になった。
だが爆撃機の放ったエクスプロージョン・ロケット爆弾は峡谷のシェイプシフター塊に命中、近くの個体を巻き込んで炎に飲み込み、浄化した。
範囲攻撃に特化し、集団を薙ぎ払うのに向いた爆弾は、確実にシェイプシフターの数をうち減らしていく。
敵もまた激しい抵抗をするが、同盟軍のエクスプロージョン爆弾の威力が勝る。同盟軍爆撃隊は犠牲を払いつつも、第30番峡谷をクリーンにしていく。
だが実際にその光景を目の当たりにするパイロットたちの感想はまた別であった。
『まるで地獄だ』
峡谷が燃えている。泥のように岩肌にひっついていた塊が炎によって焼かれ、剥がれ落ちていく。岩にシェイプシフターが化けているものもあって、炎によって潜伏している個体も燃え上がる。
それがこの世の終わりのような地獄絵図を具現化させるのだ。
先導のグリーン大隊は渓谷の半分を焼き、後続のイエロー大隊は残りと、前衛の討ち漏らしを爆裂弾で焼き払う。
『こちら空中警戒機、エンジェル・アイ。艦隊司令部へ。第30番峡谷全体の爆撃を確認。現在炎上中。敵対空砲火は峡谷外に確認するも、峡谷内からはなし。繰り返す――』
・ ・ ・
同盟軍第二艦隊、旗艦『レゾリューション』。
司令長官、フレッド・ヴァーゲ中将のもとに、空中警戒機からの報告が届く。
「まずは、第一歩というところだな」
艦隊は、迫り来る地底シェイプシフター艦に対して、プラズマカノン、誘導弾、そして増設された実弾系副砲による反撃を行い、敵の突撃を阻んでいる。
「揚陸艦戦隊に通信! 上陸第一波を降下させよ!」
「地上はまだ燃えているようですが」
アルメニ参謀長が事務的に言えば、司令官席のヴァーゲは微笑した。
「だからいいんだ。少なくとも燃えているところに敵はいない」
怖いのは一度炎が掻き消えた後に降りて、そこにまだ敵が残っていた場合だ。しかしエクスプロージョン爆弾によって焼き払われ、まだ勢いが落ちても燃えているとなれば、炎に弱いシェイプシフターが潜んでいることもない。
命令を受けた揚陸艦から、待機していた上陸艇が発進する。さらにそれを守るように新型魔人機ヴォルカンが付き従う。
レアヴロード系列魔人機に、炎属性魔法金属装甲や対シェイプシフター用防御装備を満載したものだ。
赤系列の魔法金属の色合いもあって炎の鋼鉄騎士にも見えるヴォルカンは、焼けた大地に続々と着地。周囲を警戒しつつ上陸艇を待つ。
峡谷内は炎上による気流の乱れもあって、上陸艇もガタガタと振動が伝わる。だが着陸の必要はなかった。上陸艇から降下するのは、パワードスーツ『サラマンダーⅡ』を着用した突撃海兵隊員だ。
地表近くを低空飛行で通過する上陸艇から、パワードスーツごと降下する突撃海兵。厳しい訓練で鍛えられた精鋭海兵らは、地上に着地した瞬間にはすでに周囲へ銃器を向けつつ後続の着陸のために展開する。
燃え盛る峡谷。至るところで火がついている一方、すでに鎮火している場も多く、上から見るよりはすでに場は落ち着いていた。
『第一大隊、前進!』
サラマンダーⅡは熱気を保っている大地を踏みしめ、渓谷の奥に見える人工の門へと突き進む。
門の前にまだシェイプシフターの塊があったが、爆撃機がエクスプロージョン爆弾を投下してそれらを地面ごと燃やし尽くした。
道は開けた。
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