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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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1911/1929

第1901話、見つけたのは本陣か


 いい話もあれば悪い話もある。

 地底シェイプシフターの動きを偵察していたレイヴン偵察戦闘機は、基地化しているシェイプシフターの集団を発見した。


「第30番峡谷に、可視化できるシェイプシフターが多数集まっています」


 ラスィアが同盟軍の偵察情報を俺たちに披露した。ちなみに渓谷のナンバーは、地底への出入り口から探索を初めて30番目に見つけたもの、という割と単純な命名。

 モニターに映し出されたのは、グランドキャニオンもかくやの大峡谷に、黒い塊が無数にへばりついているような、微妙な景観だった。


「なんか汚えな」

「ベルさん」


 率直過ぎぃ。気持ちはわかるけど。


「何というか、泥がこびりついているように見えるな」


 これがシェイプシフターではなくて泥だったなら、ホースの水で洗い流してやりたい。峡谷でなかったとしたら、さぞピカピカになっただろうな。……自然公園になっているようなところでそれをやったら、地形を削った云々で怒られるだけじゃ済まなさそうだが。


「しかし、見えているシェイプシフター集団は、これまでもあっただろう?」


 ベルさんが首をかしげる。


「いまさら、見つかったからどうだって言うんだ?」


 あからさまに見えている敵は、同盟軍が爆撃して吹き飛ばしている。

 もっとも最近では、こうして見えるシェイプシフターは、こちらの航空隊を誘い出す罠も混じっていた。近づいたら潜伏していたヤツが突然攻撃してくるパターン。近いうちに爆撃機ではなく、戦艦や巡洋艦の魔導放射砲で遠くからズドンでやろうかって話も出ている。


「これを」


 ラスィアが画面を操作し、映像を拡大した。峡谷の奥、崖となっている部分に人工の門のようなものがわずかに写っていた。


「ほう、これは……」

「今までになかったパターンです」


 ラスィアは告げた。


「地下の建造物――地底人の遺跡だと思われますが、地底シェイプシフターがここから出ているのを、偵察機が確認しています」

「なるほど」


 ベルさんはニヤリとした。


「地表に出ている野戦軍じゃなくて、奴らの基地かもしれないってことか」

「もしかしたら、姿形の杖に繋がる制御装置があるかもしれません」

「地底シェイプシフターの製造設備かもしれんなぁ」


 例の研究施設から持ち出された可能性があるとされる、シェイプシフター制御の杖。経緯はわからないが、不明になっていたそれが存在しているかもしれない。


「それで地底シェイプシフターが制御できるなら、この戦争も決着なんだがな」


 俺は顔を上げた。


「同盟軍は、これに対して攻撃を計画している、と」

「そのようです」


 新たな資料、いや作戦案が出てくる。ウーラムゴリサ王、シーパング大公その他諸々、同盟軍にもコネがあるということで俺のもとにも情報が来ているわけだけど。


「オレ様たちの知らないところで軍が話を進めているってことは、そっちで勝手に進めるって魂胆なのかね」


 ベルさんは、どこか気に入らないという様子だった。


「確かに第一段作戦の時はお声がかかり、前線指揮まで執ったけど、今回はハブられているよな」


 ウーラムゴリサ王が前線に出るようなことは控えて、ってことなのか。


「ここ最近、一撃離脱に徹していても同盟軍に被害が出ているし、俺の身に何かあったらと気をつかわせたのかもしれない」

「そんな殊勝な理由なもんか。オレやジンが参加すると、どうしてもこっちが主役になっちまうからな。軍の中には手柄を持っていかれるのをよく思っていない奴もいるんじゃねえかな」

「俺は手柄がどうとか、重要じゃないんだがね」


 人類に敵対し、地上侵攻の気配のある地底シェイプシフター軍を叩いて、戦争を終わらせること。それが第一なんじゃないか。


「ベルさんの言うことに一理あります」


 ラスィアが考え深げに言った。


「閣下やベルさんが出ますと、世間ではそちらばかり報道されてしまいますから。軍の活躍が割り引かれて、相対的に目立たなくなってしまう、というのはあると思います」

「有名過ぎる弊害というやつか」


 俺はただ、仕事をしているだけなんだけどね。周りは英雄魔術師の活躍ばかりをクローズアップしてしまう。


「その観点からしますと、手柄云々は軍部だけでなく、政財界やら有力者たちの横槍の可能性もありますね」


 ウーラムゴリサ王が活躍することで、地底開発について発言力が強くなる。地底の出入り口を持つウーラムゴリサ以外で、地底の主導権争いを有利にするために、俺抜きでこの戦争を終わらせたいと。……つまりは戦後の権力闘争。嫌だねぇ。


「それだけならまだいいんだがな」


 ベルさんは眉をひそめた。


「もしあそこに地底シェイプシフターの杖などがあったら、自分たちで手に入れようとしているのかもしれない。……何か邪な理由で」


 地底シェイプシフターを操って世界征服とか? ちょっと穿ち過ぎな気もするが、なくはないと思えるのが何ともな……。どこにでも力をヤバいことに使おうとする奴はいるもので。


「まあ、俺抜きで戦争が終わるなら、それはそれでいいことだ」


 それはつまり、俺の悠々自適生活に一歩前進じゃないか。大怪獣やら、ニーヴァランカ問題とかウーラムゴリサ内乱とか、騒動のたびに介入ばかりしているからなぁ。


「俺も安心して引退できる」

「老け込むにはまだ早いぜ、ジン」


 俺より遥かに年上のベルさんに言われると立つ瀬がないが、俺も不老不死っぽいし、若いからってがっつりやってると、クルフみたいになっちゃうかもしれない。だから程々でいいんだ。


「同盟軍が上手くやってくれるのを祈るよ」

「お前さんが言うとフラグっぽいんだよなぁ……」

「やめろよ、ベルさん。言葉には魂が宿るって言うんだからさ」


 言ったことがそのまま実現してしまうということもある。……冗談じゃないよ、まったく。

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