第1898話、議会説明
地底シェイプシフターを消滅させるべく、同盟軍による地底空爆は続いている。
主な集団は片付けたので、地形ごと焼き払うエクスプロージョン爆弾が地面を耕している。
これで地形に溶け込んでいる地底シェイプシフターも根こそぎ一掃だ。
ということで、空母群から発艦したイールⅢ攻撃機、ファントム戦闘爆撃機などが爆弾を落として回り、荒野を焼き払っていった。
無制限生産品となったエクスプロージョン爆弾は、世界樹の魔力を使ってドンドン量産され、冗談でもなく地底の全てを焼き払うべく、連日戦場で消費されていた。
特別法を適用しなければ、軍のエクスプロージョン爆弾の在庫はとっくの昔になくなっていたのは間違いない。
・ ・ ・
「――というわけでありまして、現在のところ、順調に地底の敵性存在に対する制圧は進んでおります」
同盟艦隊司令長官のグレイ・オクトーベル大将は、同盟議会の代表たちの前でそう説明した。
ざわつく代表たち。同盟議会の議長であるジャルジー・ヴェリラルド王は口を開いた。
「ありがとう、長官。さて代表の方々、何か質問はあるか?」
平時であったなら、馬鹿みたいにエクスプロージョン爆弾を使いまくったことで、軍の予算――要するに各国の負担金が増えることに不満の声が上がるところである。
だがこれは、先にもあった通り、無制限生産品指定されたことで予算とは別枠扱いになり、文句がつけられなくなっている。……これで文句を言うのなら、同盟の法も理解できない愚か者ゆえ、即刻代表も政治家も辞めてしまえと怒鳴られるレベルである。
さすがに同盟議会の各国代表に、そこまでの軍事音痴はいなかったようで、ジャルジーは一息ついた。
「オクトーベル司令長官に質問です」
とある東方諸国の代表が挙手した。
「地底の敵対勢力の排除は、あとどれくらいで完了する見込みか、お答えいただきたい」
「現在の状況で、全て予定通りに進捗した場合、地底の掃討は二カ月で完了する見込みです」
オクトーベルは答えた。二カ月という答えに、代表らの席が騒がしくなる。
「地底世界は非常に広く、敵性存在を全て駆除するには全てを焼き払う必要があると考えます」
「……」
「事実、見えている範囲の敵を叩き、残敵掃討の段階と判断、作戦を次の段階に進めたところ、敵がこちらの想定を超えて非常に多く残っていることが判明しました。……同じ轍を踏むことがないよう、全ての憂いを取り除くためには、やむを得ません」
「では、地底解放は最低二カ月はないと断言してもよろしいでしょうか?」
「そう解釈いただいて結構です」
「ありがとう、長官」
その代表は着席した。ジャルジーは宙を睨む。
ウーラムゴリサ王にして我が友人であるジンとシーパング同盟は、地底シェイプシフターの地上進出を阻止するため、地下のゲートを封鎖した。
いざ地底探索と意気込んだ企業、冒険者、開拓者たちの地底への関心は非常に大きく、それを巡って大金が動いた。
どの程度投資したかは、人や商人によって様々。ジンたちウィリディス勢による第一次調査では、地底にめぼしい資源はないとなっていたが、人間というのはやはり自分の目で確かめたいと考える生き物である。
ジャルジーにしろジンにしろ、地底資源独占など疑いをかけられても困るので、極力地底についてはオープンだったのだが、地底シェイプシフターの存在がそれを困難なものとした。
金が動いたにも関わらず、それらが正常に使えない、中途半端なところで止まった結果、時間制限的に破産してしまう個人や商人も出てきているという。
地底シェイプシフターとの戦争が始まり、戦争関係の企業が儲けを出す一方、地底探検ができず潰れるところもある。
同盟の加盟各国で、地底事業に手を出していない国は少ない。つまり地底封鎖は、同盟の加盟国の間でも損失が出ているということで、早々に戦争を終わらせ、地底解放を望んでいる。
同盟議会で、地底勢力との戦争があっさり通った背景には、そうした金と民たちの支持が大きかったのだ。
――二カ月か……。
ジャルジーは、その言葉を反芻する。
事業を戦争需要に切り替えられる業種ならば、損失は戦争利益で補えるだろう。だがそうではない商人や、個人の損失はそうはいかない。
それぞれの国での政権批判、ウーラムゴリサ王国、シーパング同盟議会、軍など非難の矛先は向くだろう。
――先日の第9戦艦戦隊全滅事件……。
ジャルジーは眉間にしわを寄せる。
軍にとっては不祥事にも近い失点であるが、シーパング情報局はこの件を利用し、プロパガンダに利用した。
あれだけ注意していたにもかかわらず起きた現場指揮官の失態は、軍の方々に責任問題となっていたところを、情報局は地底勢力が強大な敵であるという風に演出し、いまいち伝わっていなかった地底シェイプシフターの脅威をアピールした。
皮肉にも大勢の犠牲が出たことで、兵たちは敵を知り、対岸の火事である同盟の民にも敵の恐ろしさが伝わった。
――また、兵に犠牲が……。
大陸戦争でジャルジーは多くの部下を失った。ヴェリラルド王国の北方に本拠を置いていた頃、大帝国との戦争の最前線となり、ズィーゲン平原を巡る戦いは歴史書に残るほどのものとして語られている。
ヴェリラルド王国の先の大戦の戦死者の約半分が、北方戦線で出ており、つまりは大半がジャルジー配下の者たちだった。
彼らには顔があり、名前もある。ただの数字ではない。だがそれは知っているジャルジーだからこそだ。
知らない人間にとっては、それは戦死者を示す数字でしかない。
だがその数字が戦争を語り、知らない者たちの心に響く。積み上がった屍を見ずとも、その数字の数は人の心に訴えるものがある。
同盟軍の第9戦艦戦隊、セカンド・ベースに進出していた兵たち、不明となった探索チームの捜索、救出に向かい戦死した者たち。
それらの顔をジャルジーは知らない。だが過去の記憶は、その数字から生きていた人間を想像させる。ただの数字ではない。そこに確かに人はいたのだ。
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