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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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1906/1924

第1896話、最悪の展開


「――第9戦艦戦隊は、旗艦『ファート』、二番艦『カピターノ』は敵艦と接触、轟沈。三番艦『アルモニーア』と護衛のコルベットが救助作業を行うも、敵の第二波が来襲。艦隊は全滅しました」


 ラスィアの読み上げたレポートを聞いた俺は、果たしてどんな顔をしていたんだろうか。色々言いたいことはある。

 まずどこから突っ込めばいいのか。込み上げてくる感情をどうしたものかと気持ちを持て余していると、ベルさんは言った。


「何で、こいつら砲撃戦やってんの?」


 魔王様は遠慮がない。同盟軍艦隊の将兵が大勢命を落としている。あまりどうこう言いたくはないが……まあ、そうなるよな。


「シェイプシフター軍を削っている間は、敵艦が向かってきたら即撤収って話だったよな?」

「そのはずだ。……耳が遠い指揮官だったのかな?」


 つい皮肉が先に出てしまったけど、もしかしたら最近載せたばかりの転移装置が故障したのかも。


「転移できなかったのか?」


 ベルさんが、俺の代わりに質問した。ラスィアは息をついた。


「いえ、通信記録からは、特に故障や機材トラブルなどはなく、通常の手順に従って交戦したようです。結果は……報告の通りです」

「……」


 沈黙が執務室を支配する。ベルさんは首を動かし、どう言うべきか考えているようだった。きっと百の悪態の中から、適切な表現を探しているのだろう。それがどのような言葉になるかはわからないが、きっと怒っているか呆れているんだろうね。

 俺だって天を仰ぎたいよ。どうしてこうなった、って。


「酷い話だな」


 今の同盟軍艦隊に、自軍のシェイプシフター兵はほぼいない。つまり戦艦3隻とコルベット2隻の乗員が全滅したということは、人間とそれに近い亜人全員が戦死したということだ。

 こういうのが嫌で、ウィリディス軍ではシェイプシフター兵を使っていたんだぞ。


「考えられるのは――」


 ベルさんが低い声で言った。


「第9戦艦戦隊の指揮官は、人の話を聞かない、注意の足りない愚か者だったということだ」


 実に辛辣なご意見だ。まあ、普通に考えたらそういう評価になってしまうのかな。

 俺は現地にいなかったから、実際、司令官が参謀たちとどういうやりとりをしたかは知らない。指揮官個人の考えがあったのか、参謀の意見を取り入れた結果なのか、今となっては知りようがない。

 しかしどのような経緯があったとしても結果は、最悪の状況を引いたわけだ。手順通りに引き揚げていれば、誰一人死ぬこともなかったのに。


 ほとんどの兵には家族がいたんだぞ。遺族はどうなる? 軍としては遺族年金出してお悔やみを申すことしかできないが、その兵隊を育てるまでにいったいいくらのお金と時間を使ったと思っているんだ。――軍の上層部だって、現場指揮官の判断ミスに激怒案件ではあるが……ああ、いかんな。王様とか貴族をやっているとこういう出費やら失われた兵のことでカッとなってしまうが、もっとこう、遺族の悲しみの面に寄り添わないと。


「馬鹿に付き合わされて死んだ兵は気の毒だったな」


 ベルさんは、突き放すように言う。他人事のように言うが、実際魔王様にとっては他人事だ。ただ愚かな判断で失われた兵に同情しているから、言葉の中に静かに怒りを感じた。


「どう見ても巻き添えだろう」


 状況をベルさんは想像した。


「指揮官が、撤退を選ばず、砲撃戦を仕掛けた。まあ、たった2隻だから沈められると思ったんだろうよ。だがシェイプシフター艦は思いの外タフだった。当然だ。あれは誘爆するものが機関部くらいしかなかった」


 敵の攻撃力が大したことがなかったら、第9戦艦戦隊はガンガン撃ちまくって、防御がおそろかになったのだろう。


「結局、体当たりを許して旗艦ともう1隻がやられた。んで、残っている艦はやられた味方の救助をしている間にやられた。……ああ、まったく軍人として味方の救助は正しい。教本にもそう書いてあるだろうよ。だが相手は人間じゃねえ。シェイプシフターだ。戦闘兵器なんだ」


 ベルさんが、やけに饒舌だった。思うところがあり過ぎるのだろう。


「救助しているから見逃す? そんなわけがねえ。救助している連中も、それを切り上げ撤退すべきだった。だが目の前で救助作業している奴らを見捨てることができなかったんだろうな……。わかるよ、人間ってのはそういうもんだ。それで全滅してちゃ世話ねえよ」

「味方の救助を決断した艦長たちは、難しい状況だったな」


 苦楽を共にした部下、仲間たちを助ける。このことに迷いはなかった。だから留まって、敵の第二波にやられた。

 地底シェイプシフターは負傷者も救助中ということもまったく容赦しない。だが同盟軍の兵たちは、人間だった。どこまでも人間だったんだ。

 艦長は艦と乗組員を守る義務がある。そして時に、艦と乗員を守るために、僚艦を見捨てたり、艦の外で作業している者――少数を切り捨てる選択をとらねばならないこともある。


 これがとても難しい。特に部下と仲がよかったり、情に厚い人だったりすると。冷静に、心を鬼にして部下を見捨てる決断は……俺は考えたくない。その時がきたら、選択をしなければならないが、だとしても今は考えたくない。


 こういう時、頭に浮かぶのはアーリィーや妻たち、子供たちのこと。家族を切り捨てる選択とか……考えただけで悪夢だ。だから考えたくない。

 家族でなかったとしても、親しい者たちだったら……ああ、やっぱり無理だ。ジャルジーやエクリーン、その子供たち。マルカスや今では成人した魔法人形の子たちも……。大陸戦争では、その中にも何人か命を落とした者がいて、そのたびに胸がつまった。


 顔も知らない者たちにもそういう家族や親しい人がいたと考えるとただの数字で片づけられるようなものではない。本当に大勢が死んだんだ。


「――何より最悪なのは」


 ベルさんが言葉を紡いだ。


「これで地底シェイプシフターどもが、テラ・フィデリティア式同盟軍艦の残骸を手に入れたってことだ。いくつか技術が、奴らの手に渡る。マジで機械文明産のプラズマカノンや艦艇用シールドシステムが再現されちまうかもしれん」


 その結果、それらは同盟軍艦隊に向けられ、この作戦の間での犠牲者が飛躍的に増える可能性をはらんでいる。


「そしてもっともヤバいのは、艦艇に積んだばかりの転移装置が奴らに解析された場合だ」

「最悪どころじゃないよ」


 俺は頭を抱えた。考え得る中で一番まずいやつだ。

 残骸を回収される前に処理……は、もう間に合わないんだろうな。

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