第1890話、地底掃討の始まり
シェイプシフターは学習する。
戦艦、巡洋艦による魔導放射砲による漸減作戦により、地底世界の出入り口付近に集まっていた大集団は、ほぼ一掃された。
相手が普通の軍隊であれば、後は残敵掃討でおしまい。我が方の勝利……で済んだんだが。
「むしろ、ここからが本番だ」
俺は気を引き締める。相棒たるベルさんは口元を緩ませた。
「全体の99%をやっつけたのに、残りの1%が本番とはね」
「元の世界にこんな言葉がある。『百里を行く者は九十を半ばとす』」
「その意味は?」
「物事というのは何があるかわからないから、最後まで油断するなってことさ」
「まさに」
ベルさんは肩をすくめた。
「相手がシェイプシフターだからな。最後まで気が抜けねえよ」
「それはそうなんだがね」
俺は苦笑する。
「人間不思議なもので、目に見える情報を無条件に信じてしまう傾向にある。あれだけいた敵もあと少しと見ると、どうしても気が緩んでしまうものなんだ」
敵は残り少しだ、って視覚情報がどうしてもそう感じさせてしまう。ルーキーの目でもそうだし、俺たちベテランもこれまでの戦いの感覚から無意識にそう感じてしまいがちだ。
戦艦『バルムンク』以下、討伐艦隊第二陣が地底世界へ転移する。今回はヴァルキュリア級機動揚陸巡洋艦戦隊を従え、地上降下、陸戦による掃討を行う。
いよいよ対シェイプシフター用防御の施された魔人機、パワードスーツ部隊の出番である。
ただ、その前に空爆を仕掛ける予定ではあるが。随伴する空母戦隊には、対地掃討用のエクスプロージョン爆弾搭載の戦闘爆撃機の準備をさせている。
戦艦の艦橋から、現在観測している敵部隊の位置をマーキングし、準備を進める。と、副長席のラスィアが難しい表情をしているのに気づいた。
「どうした? 何かあったか?」
「はっきりとは言えないんですが、違和感がありまして」
「違和感?」
「どんなだ?」
ベルさんも聞けば、ラスィアも首を横に振る。
「すみません、はっきりわかればそう言えるのですが……」
「違和感だもんな」
俺は頷く。
「ただこういう違和感というのは無視できない。ラスィア、ちょっと地形データを調べてくれ。違和感の原因を探すんだ」
「承知しました」
ラスィアがコンソールに向き直る。ベルさんが首をかしげた。
「何かあると思うか?」
「熟練者の違和感は無視すべきじゃない」
いつもと違う何か。それを無意識に感じ取るから違和感になるわけだ。それがはっきりわからないが何かが違う。
「俺も慎重過ぎるとは思うが、相手が相手だ。引っかかる部分は徹底的な原因を探るべきだ」
何に化けているかわからないシェイプシフターだ。違和感の原因は、その辺りにありそうというのが俺の勘。
「慎重過ぎるとは思うかい?」
「それでこれまで生き残ってきたんだ。戦士は勘を大事にするもんだ」
ベルさんは答えた。
「前回も、用心しまくってアレだったしな。不安の種は潰すべきだ」
「何もなければそれでよし。何かあれば――」
言いかけた時、シェイプシフター・オペレーターが振り返った。
『レーダー反応。高速移動物体、複数出現!』
「敵か?」
「味方じゃねえわな」
この地底世界に他に味方はいないってか? うちの偵察隊がいるよ――というのはこの際、無視するとして。
「航空機か?」
『巡洋艦クラス、十隻出現』
「フネが出てきた!」
ベルさんは目を丸くした。
「地底シェイプシフターってこれまでクルーザー級を出してきていたっけか?」
「お初じゃないか」
まったく、とうとうあいつら、空中艦艇をコピーしてきやがった。
「護衛部隊は、空母と揚陸巡洋艦を防衛。『バルムンク』の魔導放射砲で先制する」
的がデカいが、相手はシェイプシフターであることに変わりはない。ドカンと一発消滅を狙い、その後丁寧に片付ける。
「偵察ポッド、敵の出現位置とその周辺の確認」
敵がどこに潜んでいるかわからない、それを示す一例であり、その潜伏パターンがわかれば今後の掃討戦でも役に立つ。
討伐艦隊が、新たな敵に対応すべく陣形を変更する。その中で『バルムンク』は、接近する敵集団に艦首を向ける。
その間にも展開させていた偵察機や観測ポッドから、敵の映像が送られる。
「巡洋艦……戦艦も混じっているな」
俺が率直に言えば、ベルさんも。
「ドレッドノートにアンバル級か。まんまうちのコピーだな」
俺たちにとっては馴染みの形だ。ドレッドノート級戦艦1に、アンバル級クルーザー9。うちで捕獲された艦はないから、地底シェイプシフターたちは見よう見まねでコピーしたわけだ。
「あれが見た目だけか、果たして中身もコピーしたのか」
「普通に考えりゃ、外見だけのはずなんだがな」
ベルさんは言った。ただ、もしかしたらセカンドベースの機械端末から、シーパング軍の情報を抜き出せる能力があれば……もしかしたら、あるかもしれない。中身込みのコピーも。
気づいたらあいつら自分たちのオリジナルミサイルを作っていたくらいだからな。ただコピーするだけじゃないのも考えものではある。
「戦って試したいが、そんな余裕はないんだ」
魔導放射砲の射程範囲に、目標群を捕捉。中身コピーまでできるなら、ここでシールドくらい使ってくるかもな。
それである程度推測できるさ。
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