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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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1899/1923

第1889話、掃討戦力を急げ


「テレビの影響はデカい」

「いきなり何だ?」


 ベルさんが当然の突っ込みで、俺は肩をすくめた。


「長女の学校の話さ。テレビでやっていた学園ものに憧れて、学校に行きたいらしい」

「ほーん。よくわからねえな」


 割と暇だとテレビを見ているベルさんが、そんなことを言うのだ。あまりドラマは見ないのかもしれない。

 シーパング本島、同盟軍ラピス工廠。俺とベルさんは、地底シェイプシフター討伐作戦に投じる兵器群の視察に来ていた。


 現在のところ、敵の大群を魔導放射砲で削っている段階である。少しずつ対応が早くなる地底シェイプシフターに対して、あの手この手で遅延を誘いつつ、大群を掃除するが如く一掃中だ。

 それで全部ケリがつけば楽なのだが、細かく残るだろう敵の処理が厄介な問題であり、残敵掃討用の地上戦力を緊急生産中……ということで俺たちが来たわけだ。


「お待ちしておりました、閣下」


 シーパング同盟軍の技術中佐が、俺たちを出迎えた。さっそく実際の兵器を見せてもらう。


「ファイアフィールド発生装置に加え、閣下のご提案いただいた、対シェイプシフター用の防護機能を盛り込んであります」

「問題はなさそうか?」

「はっ、強制冷却板を仕込んでありますので、機器へのダメージは最小に留められるかと思います。そう連続して使用されるものではありませんので」

「そう願いたいね」


 俺が答えると、ベルさんが首をかしげた。


「その防護機能ってのは、どういうものなんだ?」

「はっ、こちらに」


 技術中佐が手招きすれば、技術者が黒く薄い板を持ってきた。


「こちらはコクピット周りや機体各部関節、シェイプシフターが侵入できそうな部分に一枚噛ませてあります」

「ふむ」

「こちらはただの板のように見えますが、稼働状態で何らかの接触を感じると高温を発するようになっています。つまり、小型シェイプシフターがパイロットを殺害したり、機体を乗っ取ろうとした場合、その侵入を阻み、逆に焼却します」


 大きさや形を変えられるシェイプシフターだが、重力のある環境下であれば、どこかしらは接地している。だから触れた瞬間、燃やすのである。

 掃討戦で怖いのは、小型シェイプシフターの侵入であるから、それから操縦者を自動的に守る機能は必須であった。

 ベルさんは口を開いた。


「シェイプシフターを燃やすほどの高熱を出すってのは、ヤベぇよな?」

「はい、そのためにこの板の裏面に強制冷却板を貼り合わせてあります。触れた面が高温を発しますが、その裏面は一定以上の熱を感知した時に強制的に冷却がかかりますので、コクピット周りで防護機能が働いても、パイロットは熱を感じません」

「そいつはいい。パイロットが丸焼けにならなくてよかった」


 皮肉げに言うベルさんである。俺は言う。


「燃やす面の熱を冷ますのが少々遅れるのが問題ではあるがね」

「シェイプシフターを燃やし尽くすのが優先ですからね」


 技術中佐は言った。


「周りの火属性の魔法金属にするなど、機体にダメージがいかないようにはしてあります。ただ……恐ろしく値が張りますよ」


 高級素材をふんだんに使ったものになるという。専用の魔人機1機を作るのに数十機分のコストがかかる。

 軍にも予算があって、無限ではないので消費が拡大すればどこか別の部分でしわ寄せが来る。……まあ、平時の話なら、だが。


「今は緊急戦時法で臨時予算がつく。それがなくても戦時緊急物資生産法に、火属性魔法金属が指定されたから、コストを気にせず、どんどん使っていい」


 戦争となれば、軍事予算は爆増する。勝てなければ全てを失うのだから、国家予算を戦争に注ぎこむことになるのは仕方のないことだ。

 特に今回は、人類殲滅をマジでやろうとしている地底シェイプシフターが相手で負ければ人類は滅びる。軍事費がどうこう言っている場合ではないのだ。


「緊急生産品に加えられているのですか……。それを聞いて安心しました」


 技術中佐は胸をなで下ろした。

 戦時緊急物資生産法とは、同盟における魔力生成品に関する制限の部分解除、指定された品目に対して魔力を割り振り、タダで生産する法である。


 国でやると、その分野の生産者など関係者一同が大損するような話なので戦時を含む緊急であるというのを条件に合法的にやってしまう法律だ、

 俺のように個人の範囲で魔力生成をするのは対象外なんだけど、同盟でやるというのは、いわゆるシーパング島の世界樹の魔力を使用するということになる。

 そして世界樹の魔力の使用に関しては、個人ではなく、国、ひいてはシーパング同盟全員の共有財産。だから魔力生成をするにも、国の同意が必要になるわけだ。


 余談だけど、現在、世界樹がシーパング資産となっている都合上、俺はこれまで所有しているシードリアクター――世界樹の種子はともかく、新規に種子を世界樹から入手することができなくなっている。国のものだからね、しょうがないね。


 新型魔人機ヴォルカン。レアヴロード系をベースに作られていた新型を、さらに対シェイプシフター仕様に改造した機体。

 ベースが同盟軍お馴染みのレアヴロードで、操作系統もさほど変化なし。二本の足があって二本の手がある。持って武器を使って、走って飛んでの基本は、人型兵器のそれとなんら変わらない。あとは感覚の問題だ。


 慣熟訓練の時間がほとんどないが、レアヴロード乗りであればすぐに慣れる。基本が汎用型で、尖った運用をしない機体というのも大きい。


「現状、30機を生産。軍の緊急増産品なので、一週間で10倍の数を生産予定です。ぶっつけ本番になりますが……」


 技術中佐が言えば、俺は先に聞いていた件を伝える。


「テスト機を参考にシミュレーターができている。パイロットにはそちらの方で実機が配備される前には訓練をさせる。……というか、もう始めている」


 シミュレーター製作の方でも、もうすでに作戦は始まっているということでだいぶ無理させている。何事もうまくいかないということだが、完全ではないにしろ、それなりにうまくやっている。


「魔人機はわかったが、パワードスーツの方はどうなっている?」

「サラマンダーⅡが増産されています。もちろん、こちらも対シェイプシフター用の防護機能付きの改修型です」

「結構。掃討戦では必要になるからね」


 準備は着々と進行中である。

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