第1888話、教育の話
美味しい食事を家族と摂る。俺にとっては、この瞬間のために生きていると実感できることの一つだった。
他は知らない。人の幸せの形はそれぞれだ。一人で食べるのだって、当人が満足しているならそれでいいんだ。
家族の幸福、子供たちの未来を思えば、地底の脅威を地上に来させてはいけないと強く思う。破壊、侵食されたファーストベース、セカンドベースの惨状を地上の町や村で再現することがあってはならない。
夕食後、今のソファーで寛ぐ。アーリィーたち妻とお喋り……より先に大抵は子供たちが遊びに誘ってくるもので、今日はどうなのかと待っている。
男の子連中は二階へ駆け上がっていったので、テレビとかボードゲームとかで遊んでいるのだろう。
と、まずやってきたのは三女、レオナがクマのぬいぐるみを抱えてやってきた。
「パパ、クマさんの腕をなおして」
サキリスの遺伝子が強い金髪娘はそう言って、ぬいぐるみの右腕を動かした。ふむ、だいぶ緩くなっているね。左腕と比べたら、へたり具合が相当だ。中の綿を詰め直したほうがいいかな?
お医者さんの手術のロールプレイでもしながら手当をするなんて案が浮かんだものの、まだ4歳の子供にはママゴトもどきでもやめたほうがいいと打ち消す。レオナの他にも兄弟姉妹が見ていて、お医者さんゴッコとしてぬいぐるみを切り刻むなんてのは嫌すぎるからな。刃物を持たせるのも早い。
「よしよし」
本当は魔法以外の方法で修理したいが、こう幼児が見ている前で切れるもの、切るものを使うのは怖いので、魔法で何とかしよう。
「これで、どうかな?」
右腕のへたりを解消した。クマさんの腕を触りながらレオナはニッコリ笑んだ。
「ありがとう! パパ、だいすき!」
「それは光栄だ。……クマさん、綺麗にしようか?」
「んー、いい!」
クマさんを抱えてレオナは部屋へと帰っていった。年季が入っているのは普段から触っているからなんだろうけど、衛生面を考えると少し不安になるわけだ。
ただ、俺は昔から本人の意思を優先する性質で、特に子供相手では思ってもまず確認してからにするようにしている。
大人がよかれと思ってやることって、子供にとっては大抵余計なお世話で、頼んでもいないことをするとまあキレちらかしたりするものだ。
常識という言葉は俺はあまり好きではないが、大人になるまでに身につく知識も、子供はまだ知らないことが多いから、正しいことをしてもお怒りになることも多々あるわけだ。幼い頃の子供は、本当何がきっかけでへそを曲げるかわからないからね。
多少のストレスは必要だが、あまりストレスをかけて過ぎてもいけない。どんなものでも過剰はいけない。バランス感覚が大事なのだが、これも人それぞれ。
リンとリュミエールなんか、性格の違いからわかりやすいが、リンがすぐに不満を顔に出す一方、リュミエールが平然としていることが多い。
だからといって、彼女が我慢強いと考えるのも早計で、自分を押し殺しているのではないかと疑う必要もある。
たとえとはいえ、考え出したらキリがないが、押しつけも駄目、放置も駄目。ほんとう匙加減が難しいが、向き合っていかなければならない。だが親のほうも気にし過ぎてノイローゼになったりするから、本当に難しいものだ。
だから誰かに相談できる、手伝ってくれる存在というのはありがたい。うちは妻が六人いて、女王をやっているエレクシアは忙しいがその彼女も家庭には顔を出しているし、教育や面倒を見るのは皆で協力し合っている。お手伝いさんもいるしな。ありがたいことだ。
何が言いたいかというと、どんな環境でも一人で抱え込み過ぎないことだ。愚痴を聞いてくれる誰かがいるだけでも、変わるものだ。
ストレスは子供の成長にも影響する。いわゆるホルモンにも関係する話で、俗説だが女の子の胸部の大きさは、子供の頃の栄養バランスやストレスが影響するらしい。特にストレスを強く感じている子は慎ましく、ゆったり育てられた子は豊かになる傾向にある。……本当かどうかは知らないが、傾向としてはそういう面の影響は本当にあるのではないかと思うことはある。現実社会で性格込みで見比べると、幸が足りなさそうな人の傾向は――と感じる。
もちろん、俗説であって必ずそうとは限らないし、何事にも例外はある。たとえばアスリートとして鍛えている人の体格はそれように進化しているし。……でもある意味、鍛えるというストレス環境のなせる業ではないか……うーむ。
「難しい顔をしているよ、ジン?」
アーリィーが俺の顔を覗き込んだ。
「仕事のこと?」
おうおう、胸のことを考えていました、とは少々格好がつかないが……。
「ストレス環境による体格の成長について考察していた」
嘘は言っていない。
「あ、子供たちのことを考えてた?」
「そりゃあ俺は父親だからね」
……そういえば。
「リンがそろそろ幼年学校の歳なんだけど、結局どうするんだ?」
我らの長女、リンちゃん6歳。最年長の彼女は、シーパングでは最近できた教育制度では幼年学校に入学できる歳になる。
ただ貴族や王族は、これまでは家庭教師を雇って子供に教育を施すのが一般的だ。ジャルジーのところでもそうだし、俺のところでも、リンとリュミエールは、その家庭教師による教育指導をもう受けている。
つまるところ、学校に通わずとも教育の面では、今のままでも問題はない。ただ、最近の貴族たちの流行りは、自分たちの子にシーパングの高等教育を受けさせること。
おかげで一般人用の学校の他、貴族の子女が通う学校がシーパングにある。ヴェリラルド王国や一部の国々でも、教育制度を取り入れ、学校の設立が進んでいたりする。
そんなわけで、俺、ジン・アミウールの子供たちは学校に通うのか、密かにその筋では注目されている。
「リンは学校に行きたがってる」
「そうなのか」
家にいても教育を受けられるが、どちらかと言えば勉強を避けたがっているような印象があったが。
「テレビの影響。学校アピールのドラマの影響」
「あー」
シーパングでは他国に比べても、テレビジョンが発達し、一般家庭でもテレビを観られる。ニュース、バラエティー、スポーツ、映画。……最近では実写のみならず、アニメーションもチラホラと。
これも機械文明時代の技術の下地があればこそ、だけどね。
「まあ、本人がやりたいというのなら、やらせてあげようというのが俺のモットーなんだけどね」
「言うと思った。ということで――学校の資料を持ってくるわ」
「……準備がいいね」
「最近のジンは忙しかったからね。こういう機会を待ってたの」
ニコリとアーリィーは微笑んだ。母親は違うが、レオナの笑みと似ている気がした。子供って見ているものなんだな。
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