第1886話、サンダーボルト
地底世界。ウーラムゴリサ地下へと通じるゲートの周りに地底シェイプシフター軍が集結している。
地底人を滅ぼし、増えすぎた数を休眠状態で山などに擬態させていたシェイプシフターたちは、新たにやってきた地上人の知識を共有し、敵である人間ほか類似する亜人の殲滅のために動いていた。
そんな地底シェイプシフター軍がひしめく空に、突然それは現れた。
ドレッドノート改級戦艦『ヴァリアント』。大陸戦争を生き残った旧型戦艦は、転移照射装置により地底に転移する。
「目標敵集団! 艦首向け!」
全長250メートルの空中戦艦は、艦首の方向を敵がもっとも多く捕捉できる方へと素早く向ける。
「魔導放射砲、発射!」
ヴァリアント艦長の号令により、即時発射可能な魔導放射砲を、膨大な光を地底に叩きつけた。
進撃する地底シェイプシフター軍が、まるで勢いよくぶつかった水流に流されるようにあっという間の飲み込まれた。光に溶けたシェイプシフター、およそ1万。
「放射終了!」
「転移離脱装置、作動! 退却!」
まさに一撃離脱。必殺武器を使い終わったら即時撤収。敵に取りつく余裕を与えない。
戦艦『ヴァリアント』は、転移によって消えた。
シェイプシフター戦闘機が飛び上がったが、攻撃の間もなかった。
損害なし。地底シェイプシフターを万単位で消耗。初手の奇襲は成功した。
だが、これは始まりに過ぎない。
・ ・ ・
「敵集団、ゲート周囲に待機中。CAP(戦闘空中哨戒)中の敵機なし。――フラウラ大尉」
レイブン偵察戦闘機の航空管制官が報告すると、操縦しているフラウラ・アミウールは周囲に魔力を飛ばした。
「ボッター君。レーダーの眼だけに頼っては駄目だよ。相手はシェイプシフター、突然レーダーに引っかからなくなる可能性もあるんだからね」
「了解です」
「まあ、あと何回か仕掛けているうちに、シェイプシフターさんも予め飛行機型を飛ばすことを覚えるでしょうなぁ」
フラウラは皮肉げな顔になる。完全ステルス状態で、あらゆる索敵から消えているレイプン偵察戦闘機は、地底世界に転移で送られた後、シェイプシフター軍の動向を監視している。
地底シェイプシフター軍攻撃第二弾作戦『サンダーボルト』が始まった。だが転移奇襲戦法も適当にやっているのではなく、偵察ポッドやレイブン偵察戦闘機の観測をもとに敵の反撃の手が届かない位置を割り出して行われている。
不意打ちでブッパするにしても、最適な攻撃範囲に収めるべく修正する時間と、魔導放射砲を撃っている間など、その気になれば敵が仕掛けられるタイミングは存在する。だから、慎重に敵との距離とその速度など計算する必要があった。
――リムネ姉さんを乗せて飛んでいた頃が懐かしい。
かつての航空管制官であり、魔神機操者にも選ばれたリムネ・ベティオン――現リムネ・アミウール。我らのジン・アミウールの奥さんの一人。そのジンは、フラウラにとっては引き取ってくれた義父でもある。
「お義父さんは相変わらず忙しい人だ」
「何かいいましたか、大尉?」
「ボッター君、君にいいことを教えてあげよう」
周囲の監視を続けつつ、フラウラは真面目ぶった調子で言った。
「我らの父ジン・アミウールが多忙な時は、国家存亡の危機である。粉骨砕身の覚悟で任務につきたまえ」
「りょ、了解です!」
「落ち着け、ボッター君。肩の力を抜きたまえよ」
わざとらしくフラウラは言うのである。
「敵さんも落ち着いてきた。次の座標データを送れ」
地上では、レイブン偵察戦闘機からのデータを待っている。航空管制官が秘匿通信を飛ばせば、その3分後、次の戦艦が転移してきた。
「艦識別、ドレッドノートⅡ級戦艦『リシュリュー』です!」
航空管制官の報告。フラウラは口元をニヤつかせる。
「これまた懐かしい名前だ。君は知らないだろうがね、ボッター君。あれも大陸戦争、アンバンサー要塞戦を生き残った歴戦艦だよ」
ドレッドノートⅡ級戦艦は、レイブン偵察戦闘機の送ったデータに従って、地底に転移。気分は目隠しされて放り込まれて、視界が開けたと思ったら銃を撃て、というやつだ。
「ボッター君、周囲のシェイプシフターの動きに注目。データを取るんだよ」
「了解。記録中」
「さて、一回目から何秒レコードを縮めてくるかな……?」
戦艦『リシュリュー』の艦首、魔導放射砲が光を放った。『ヴァリアント』の時よりわずかに反応が速く、航空機型シェイプシフターが飛び上がったが、やはり万を超える敵が光に消えた。
「……やっぱ、対応早いな」
「何機か、魔導放射砲の範囲に逃れました。あっ、『リシュリュー』転移離脱!』
ドレッドノートⅡ級戦艦の方も、戦果確認などせずさっさとその場から消えた。
「バニシング・レイを避けたのは、飛び上がってスピードが上がっていたのと、端にいてかろうじて当たらなかったというラッキー要素なんだろうけど……」
「七、八機くらいですかね。避けられたのは」
航空管制官が言えば、フラウラはしたり顔になる。
「見たかね、ボッター君。あれがシェイプシフターの学習スピードというやつだ。見たことを仲間うちにあっと言う間に共有してしまう。目撃した個体はそれこそ大勢だったから、その統合と対策も早い」
「……そのようです。あ、でもCAP機はないようです。飛び上がった機もまた地上に戻りました」
「……」
「もう一回くらいは、特にこのままでもいけそうですね」
「ボッター君、それは油断だよ」
フラウラは嫌な予感を感じ始めていた。いわゆる戦場の勘である。
「ちょっと余裕をとって位置データを送ろう。……あと、ちょっと早いけど、ランダムパターンを混ぜといて」
「了解」
攻撃パターンも毎度同じでは、敵に読まれる。シェイプシフターは馬鹿ではない。そこらのダンジョンスタンピードの魔物と一緒にしてはいけないのだ。
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