第1884話、それで一件落着とはならんのよな
シーパング同盟軍の先遣討伐艦隊は地上へ帰還した。
用心に用心しても戦死者は出た。戦争だから仕方がないと割り切るのは難しい。失われた人命を考えれば……。
『用心してなきゃ、今頃艦隊は地獄だったぜ』
とベルさんは言っていた。それは事実で、地上帰還までにワンクッション置いていなかったら潜入した地底シェイプシフターが、地上に進出して大惨事。艦隊も下手したら全滅していたかもしれない。
正直そうかもしれないけど……それでやったね、という感覚にはなれないな。
俺は、帰還早々、同盟議会議長のジャルジーに地底での戦闘について報告した。我らが友人ジャルジーは、死者に黙祷を捧げる。
「彼らは平和のための犠牲になったのだ。我々はそれを忘れてはいけない」
昔から勇敢な兵には優しいジャルジーである。
「万全の対策のおかげで、犠牲は最少で済んだ。オレもベルさんの意見に賛成だ。そして地底シェイプシフターがいかに危険であるかと見せつけられた気分だ。兄貴が指導していなかったら、艦隊は全滅し、地上に災厄を呼び込んでいただろう」
「……」
「それで、一応殲滅はしたんだな?」
「確認されていた敵、それと拠点は全て潰した」
俺は、地底での戦いにおける一連の写真を提出した。セカンド・ベースや円盤都市に寄生していたシェイプシフターと、それを吹き飛ばした後、などなど。
「偵察ポッドを展開させて敵の次の動きに目を光らせている。残存しているなら、姿を捉えることはできるだろう。……本音をいえば、あれで全滅であってほしいんだがね」
「兄貴としては、それは望み薄という感じか?」
ジャルジーの問いに、俺は肩をすくめる。
「常に最悪を想定しておくものだよ」
敵が俺たちの艦隊に潜入したのだって、まだ見ぬ本隊のための伏線だろう。もしあれが最後の個体を逃がすための行動だったなら、艦艇を乗っ取ろうとせず、地上に出た後、こっそり離れればより安全だった。
だから、敵シェイプシフターはまだ残っている。それは半ば確信だ。
そして案の定、地底に残してきた偵察ポッドは、地底の変化を次々に報告してくるのだった。
・ ・ ・
『敵は運河の如し』
送られた映像を見ると、地上を黒い大河が流れているように見えた。
シーパング島同盟軍司令部で、俺とベルさんはその光景に顔を見合わせるのだった。
「想像はしていたよ」
「スゲぇ数だな」
どこに隠れていた? 地面に偽装していました。
地底シェイプシフターが水牛の群れのような大移動をしている。
「いつぞやのアリ亜人の大集団を思い出すな」
モンスターメイカーの一種。大帝国のアマタスがまだ将軍だった頃、ヴェリラルド王国北部侵攻で使った21万の大群。色といい、あの時を連想させた。
「あの時もバニシング・レイでやっつけたんだっけか」
ベルさんが首を振った。
「今まで隠れた奴らが動き出した」
「それも、一カ所だけじゃない」
バラバラまいた偵察ポッドは、それぞれ大移動を行う地底シェイプシフターの集団を撮影し、それを送ってくれている。
「同盟議会が見たら、卒倒するんじゃないかね」
「お茶の間にも流せないな」
俺が皮肉るとベルさんは冗談めかした。
「自然紹介番組なら、いけるんじゃないか? シェイプシフターの大移動」
「シェイプシフターの生態2時間スペシャル」
「戦争ドキュメンタリー番組なら2時間の尺じゃ足りねえな」
大陸戦争におけるシェイプシフターの活動と活躍。ドラマにしたら1クールで収まるかどうか。
「あいつら、何で動き出した?」
ベルさんが疑問を口にした。それを聞いちゃいますか。
「討伐艦隊にくっついていた奴に、地上へのゲートを開放させるからでしょうが」
事実、地底のシェイプシフターの大群は、地上と地底を繋ぐゲートへ移動している。
「ゲートが解放され次第、地上に攻め込むつもりなんだ」
まー、そのゲート開放を担当するはずだった工作員は、こちらで始末しましたけどねー。
「討伐艦隊のほうで処理できていなかったら、今動いている大群が地上へ来るつもりだったんだろうな」
「ゾッとするねぇ」
ベルさんはモニターの数字を見た。
「十万? いやこれ全部合わせたら……」
「百万を超えているな」
物量が凄まじい。そりゃあこれだけいれば、地底だって征服できたかもな。シェイプシフターの大河がいくつも集まって、一個の集団になろうとしている。
「群体恐怖症には見せられない光景だな」
ぞわぞわってな。拡大したら、どうなんだろうな。遠巻きに見てこれだけど。
そこで同じくモニターを見ていたグレイ・オクトーベル同盟軍艦隊司令長官が口を開いた。
「これらはやはり叩かねばなりませんか?」
「地上で工作しようとした連中は排除した」
俺は答えた。
「地上からゲートを開けられることはないが、それに地底の連中が気づいたら、方針を変えて下からゲートをこじ開けようとするかもしれない」
連中が気づいているかはしらないが、大群が出てきたところを俺たちに見られたくないと思っているだろうからな。俺たちが去るまで隠れていたわけだから。
「もちろん奴らがゲートを破るのを座して見守るつもりはない」
「具体的な作戦は?」
「転移戦法でいこうと思う」
俺は提案した。
「取り付かせるリスクを最小にしつつ一撃離脱。敵をなぎ払い、数を減らす。当面はそれでやろう」
同盟軍の地底攻防、その第二弾作戦である。
「数を減らしていくのはそれでいいとして、最終的には掃討戦をやらんといかんな」
ベルさんが言った。そう、それがまさにシェイプシフターを相手にする上で厄介なところだ。
「掃討用に専用装備の兵器を用意する必要がある」
シェイプシフターが苦手な火属性装備の。
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