第1880話、一日の待機
円盤都市と吹き飛ばすというのは簡単なお仕事であった。
普段、禁じている都市目標への魔導放射砲というのは、作戦に参加している同盟軍将兵としては貴重な光景であった。
討伐艦隊は、目標としていた侵食された円盤都市を破壊し、確認されていた地底シェイプシフター軍を殲滅した。
「さて、敵さんは出てくるかな?」
集結した討伐艦隊は、潜伏している可能性のある地底シェイプシフター軍の襲撃を警戒し全方位警戒を行った。
が、これまであった都市破壊後の敵機による攻撃は今回はなかった。
「おいおい、ジン。来ねえぞ敵さんが」
ベルさんが拍子抜けした調子で言った。たぶん、艦隊の乗組員たちの中には、同じように呆れている者も少なくないだろうな。
「いかにも今ので全滅しましたって振る舞いじゃないかね、ベルさん」
最後の都市を叩いて援軍が現れないってことは、そういうことだろう?――と言わんばかりだ。
「地底シェイプシフターは賢いよ。これで本当に全滅したと鵜呑みにすると、痛い目を見るだろうね」
「それはいいが、どうするよ? お前さんの言う通り、艦隊に地底シェイプシフターが潜り込んでいたとしたら、このまま同盟軍艦隊が地上に戻るのは危険だぜ?」
「この『バルムンク』もな」
もしかしたら、すでに敵が入り込んでいるかもしれない。敵の正体がシェイプシフターというだけで、緊張感が凄いな。
この『バルムンク』に限れば、俺とベルさん、ラスィア以外は、シェイプシフター兵で固めたから、乗っ取り行為にはすぐわかるようになっているが……。同盟軍艦隊の乗組員はほぼ人間や亜人だからね。
俺は、艦隊通信チャンネルのスイッチを入れる。
「『バルムンク』より全艦隊へ。敵が本当に全滅したか確認するため一日様子を見る。交代で休息をとりつつ、敵襲に即時対応できるよう警戒せよ」
それと、ここからが大事だ。
「航空機は敵の侵入を警戒するため、新たな出撃を禁止。全艦はシールドを展開し、外部からの潜入を阻止せよ」
偵察機を飛ばしたいところだが、同盟艦隊ではなく、シェイプシフター諜報部に以後の偵察を任せる。偵察機の同盟軍パイロットが地底シェイプシフターにやられて、なりすまされても困るからな。
通信を終えて、俺はキャプテンシートから立ち上がる。ベルさんがついてくる。
「一日待機か。ま、様子見は必要だよな。敵が残っていれば何か動きがあるかもしれないし、妥当なところだ」
退屈だがな、とベルさん。そうだね。
「これからの潜入に対しては防げるだろう。問題は、すでに入り込まれている場合なんだよな」
円盤都市破壊と直後の航空戦の間に潜入されていたとしたら、今シールドを張ったところで意味はないからな。
「一日の間に、ちょっとした仕掛けを用意する。ベルさん、手伝ってくれ」
「いいけど……何をするんだ?」
何って、そうだねぇ。
「地底世界、作ってみようぜ」
・ ・ ・
丸一日、緊張感をもって待機というのは、割としんどいものがある。
同盟軍兵士にとって、退屈との戦いが待っていたわけだが……。そんな余裕がある者は幸運であったと言える。
何故なら――
「うん、何だ……?」
空母『天鳳』艦載機格納庫。ストームダガーせんとうきの整備に取りかかっていた整備員が、何やら黒い液体がにじみ出るのを発見した。
「オイル漏れ……じゃないよな。――班長!」
その整備員は、ただちに上官へ報告した。今、自分たちが戦っているのがシェイプシフターである。それが上から下まで浸透した結果だ。不審なものあれば、一人で確かめようとせず増援を呼ぶ。慎重に慎重を重ねろというのが今回の作戦で求められている。
「黒い何かがストームダガーから漏れ出しています!」
「警備兵!」
整備班長が声を張り上げ、格納庫に待機していた武装兵が駆けつける。
「戻った時に確認したんじゃなかったのか?」
「だから呼んだんでしょうが」
着艦した航空機は、シェイプシフターがついていないか念入りに確認した。それで不審は発見されなかったのだから、待機に入ってから出てくる異常には警戒をして当然だったのだ。
「黒いな……シェイプシフターか?」
警備兵はライトニングバレットを構えて、ストームダガーの下の染みを見やる。
「もう漏れてないようだが……」
「ますます怪しいな。――ファイアロッド」
警備兵たちは機体を取り囲み、用心を重ねて近づく。対スライム用のファイアロッド――杖型火炎放射器で慎重に狙いを定める。
その瞬間、ぐにょっと黒い水たまりが動いた。
「撃て! 撃て!!」
警備兵が叫び、ファイアロッドを構えていた警備兵がスイッチを押し込んだ。噴き出した炎、それはたちまち黒い水たまりに燃え上がった。
「くそっ、シェイプシフターだ!」
「入り込まれていたか! 警報!」
格納庫内は騒然とする。侵入したシェイプシフターが炎上する中、警備兵や整備員が慌ただしく行き交う。
「消火は!?」
「まだだ! こいつはまだ生きているかもしれない」
戦闘機のそばで火を起こすとか正気じゃないと気が気でない整備員。警備兵たちが燃える敵を監視する中、艦内に警報が鳴り響く。格納庫脇の端末に警備小隊長が取りつく。
「緊急。格納庫内に敵性シェイプシフターの侵入を確認。現在対処中。艦内各員、注意されたし」
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