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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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1880/1939

第1870話、この施設の正体は?


 地底シェイプシフターのいた施設を制圧した。


「逃げなかったな」


 俺の率直な感想はそれ。ベルさんは言う。


「あいつらは兵器として作られてるんだ。それが当たり前だろ」

「他の仲間にどんな敵と戦ったのか、情報を伝えるために撤退するのは、軍事戦略上、あることだと思うがね」


 敵の情報を味方に伝える。それがその後の戦いにどれだけ影響することか。対策する時間を得られるし、対策が間に合わなくとも心構えができる。それだけで被害を抑えた戦い方はできる。

 シェイプシフター情報部が、敵情をこちらに伝えるためにあらゆる手段を講じるように、地底シェイプシフターも戦いに勝つために、味方に情報を残そうとするんじゃないかと思ったんだけどな。


「オレらが気づいていないだけで、もう情報伝令役はどこぞから脱出したかもな」


 ベルさんは顔をしかめる。


「あいつらはその気になればノミのサイズになることだってできる。あるいは石ころや砂粒にもな。そんなもん、どうやって見つけろっていう話だ」

「排水口から流れた水が、シェイプシフターだった、という例もあるからな」

「そう。あいつらが本気を出したら逃げるのを止めることはできねぇよ」


 ある意味、地底シェイプシフターがこちらが気づいていない間に出たというなら、完璧な仕事をしたということになるな。……知らんけど。

 わからないものはわからない。


「さて、こちらは連中の情報が手に入ればいいんだが」


 うちのシェイプシフター兵が施設の奥にある施設の設備を調査している。ベルさんは首を傾ける。


「どうかな。戦闘兵器が日記を残していると思うか?」

「戦闘詳報は残すんじゃないか?」

「それを誰が見るんだ? 地底人?」


 もうすでに存在していないが、とベルさん。


「シェイプシフターたちが残して見返すと思うか?」


 直接やりとりができるから、シェイプシフターたちには不要か。記憶している個体が、自分の体をほんの一部分離させ、それを他に吸収させる。それだけで記憶のやりとりができてしまうのがシェイプシフターだ。……よくできているね、本当。


「資料が必要なのは、シェイプシフターたちではなく、人間……いわゆる地底人の方か」

「だが、その地底人はもういないって言ったぜ?」

「記録を残すように、って命令を植え付けられているなら、本人たちは必要性に疑問を持ちつつも、習慣で残しているかもしれない」

「そんなことあるか?」

「無意識の習慣ってやつだ。人間の場合だけどね。ふと気づいたら何故か手が動いていて何かしらの作業をやってしまったりすることがあるんだ」


 そして我に返って、なんでこんなことをしていたいんだと首を傾けるわけだ。大抵は考え事をしたりしている時に起きがちで、意識がそっちへ移り、代わりにそれまでやっていたことが無意識に実行したりすることもある。


「まあ、この場合とは少し違うかな。だがシェイプシフターが作られたものである以上、そうインプットされている可能性はある」


 彼らを作った研究者たちは、シェイプシフターの一部から記憶を受け取るなんてことはできないからね。報告書を書かせるように作っても不思議ではないさ。


「ふうん、まあ調べればわかるだろうがな。それにしても、ここは結局なんの施設なんだ?」


 ベルさんはそもそもの疑問を口にした。ライオネル博士が行方不明になった施設ではあるんだけど――


「俺としては、地底人たちがシェイプシフターを開発していた研究所だったりしたら嬉しいんだがね」

「古代の魔術師が覗き見していたっていうあの?」

「そうそれ。そこなら、もしかしたらシェイプシフター資料とか、この地底世界の手掛かりが残っているんじゃないかって思うんだけどな」


 施設の調査は進む。地下が異様に広い。それらの構造は実験室のほか、兵器の試験場のように広い空間もあった。

 そんな中、シェイプシフター兵が報告した。


『ライオネル博士の調査チームの遺留品を発見しました』

「博士は? 彼のチームのメンバーは?」

『いえ、そちらは今のところ確認されていません』

「……そうか。引き続き、調査を続けてくれ」

『わかりました』


 シェイプシフター兵たちは探索に戻る。ベルさんは渋い顔になった。


「まだ生きていると思うか?」

「生きていてほしいね」


 人道的にも、敵の情報が得られるかもしれないという戦略、戦術的な意味でも。

 だが結果からいえば、博士らは見つからなかった。どこか別の場所へ移されたのか……それか、地底シェイプシフターに取り込まれてしまったか。


「ふと思ったんだがよ、ジン」

「ん?」

「もし博士とかその仲間が見つかったとしてもよ、それが人間であるかはわからねぇんじゃね?」

「つまり……シェイプシフターが化けているかもしれない?」

「あいつらの得意技だろ?」


 それはそう。だとすると、これからこの地底世界で地上人と遭遇しても……敵かもしれないってことか。


「全員に周知させる必要があるな」

「ついでに、オレ様たちもシェイプシフターじゃないことがわかるように何か考えておいたほうがいいかもしれねえな」

「別行動をとった後、合流した時とか入れ替わってそうで怖い」


 幸い、今回は常に一緒に行動していたけど、そういうシチュエーションも想定しておくべきだった。

 そういえば、姿形の杖を手に入れた古代都市でシェイプシフターと交戦した時も、こちらの仲間に化けて惑わせようとしていたな。


 さらに探索を進める。そしてシェイプシフターには不要な居住区画に出くわすにつけて、ベルさんはニヤリとした。


「ジン、これは当たりかもしれんな」


 例のシェイプシフターが作られた研究所の可能性が出てきたのだ。

 そうなると、かつてのシェイプシフターの研究記録や研究員の日誌などが眠っているかもしれない。

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