第1868話、シェイプシフターと接触
内部は暗い。赤い照明がつけられているのを見ると、普通に建物。これがシェイプシフターが化けているなんて思わないよな。
「こうまで作り込みがされていると、わからないよな」
「お前さんだって、シェイプシフターの変身能力の高さは知っているだろ。潜入部隊のシェイプシフターには道端の石ころはおろか、花瓶やコップにだって化けさせていただろう」
ベルさんは突っ込む。これには俺も苦笑する。
「そりゃそうだ」
そう考えれば、建物に擬装したって見分けがつかないのも充分あり得る話だ。
「だがこの規模で変身できるって、かなりのものだぞ」
建物と見分けがつかないレベルの作り込み……。というか本当は黒いだけで普通の建築物じゃないのか――そう思わせるのだから大したものだ。
地下へと下っていく。同盟軍の歩兵部隊が入った時と変わった様子もなく、ここまで施設側から何らかの動きがなかったのも同じだ。
何事もなく進んでいると、きたきた例の仮面をつけた騎士らしきものが二人、通路上に立っていた。
「ジン」
「まずはコミュニケーションを取ろう」
一応初対面であるし、挨拶は基本というからね。
「攻撃されるぜ?」
「政治家になるとね、相手に手を出させるよう振る舞うものなのさ」
現場はそれで苦労させられるわけだが、責任者が前に出て殴られてくれる分には、前線の兵たちも犠牲にならなくて済むだろう。……責任者が前に出るな? 大丈夫大丈夫、俺も捨て駒だからね。
「話し合いにきた。ウィリディス代表のジン・アミウールというものだ」
名乗りは大事。要件も伝えた。さあてどう出る?
『お前は……』
おっ、喋ったぞ。コミュニケーション可。
『人間の親玉か?』
「一国の王であり、一国では公爵、一国では南方侯爵。……まあ、それなりに身分がある者と解釈いただきたい」
「神ってのを忘れてるぜ、ジン」
ベルさんが小声で冷やかした。シェイプシフターに神様という概念が存在するか怪しいから黙っていたんだ。わからないものは敬えないでしょ。
『こちらへ』
仮面の騎士が奥へと招いた。話し合いに応じる流れを期待してもいいのかな、これは?
正直、彼らが何を目的に動いているのか、こちらにはわかっていない。彼らがシェイプシフターであり、地底人に作られた兵器であるのはわかる。だがその地底人がいない今、何故攻撃してくるのか、これがわからない。
人間など知的生物を抹殺するために動いているのか、それともと何かを守るために動いているのか。それがわかるだけでも対処方法はガラリと変わる。
やはり情報が不足しているんだ。色々と……。
『ここで待て』
仮面の騎士がそう言うと、俺とベルさんの前後の扉が閉まった。ベルさんは肩をすくめる。
「これ、閉じ込められたんじゃね?」
「検査でもしているのかも」
まあ、いい予感はしないよな。
すると天井と足元から空気が吹き出すような音がした。ふーむ、これは。
「どうやらオレ様たちは歓迎されていないようだぞ」
「そうなる場合も想定はしていたよ。だから俺たちがきたんでしょうが」
他の者に任せると、帰ってこれないかもしれないからさ。
「さて、流し込まれているのは睡眠ガスか? それとも毒ガスかな?」
「吸ってわかるといいんだけどなぁ」
「ここの俺たちにわかるのは臭いくらいか?」
効かないとなれば、そのうち向こうから動くでしょ。
・ ・ ・
『死なないのか?』
仮面の騎士はモニターを注視する。カメラに移るジン・アミウールと名乗った男とお供の騎士は、毒ガスの充満する室内で何やら談笑をしている。
『ガスが効かない?』
『地上人にもガスは有効だった』
仲間と顔を見合わせる仮面の騎士。
『この二人が特別な体質の持ち主なのかもしれない』
『片方の騎士の装備はもしかしたらガス対策なのかもしれない』
『あとで装備を解析しなければ……』
地上人がああいう装備を多用してきた時に備えて。
仮面の騎士の一人は言った。
『直接取り込め。地上人の幹部級ならばメッセンジャー役として利用できる』
『室内にシフターを送り込みます』
・ ・ ・
「待たせるもんだなァ」
ベルさんが苛立ってきた。無色透明のガスが充満する室内。これが普通の人間ならとっくにやられているのだろうが、俺たちは普通ではないのでね。
「あちらさんも、俺たちが倒れるまで待っているのかもしれないな」
顔を上げる。天井の穴から黒いドロリとしたものが垂れてきた。おやおやこれは――
「どうやら、シェイプシフターさんを投入だ」
「オレらを取り込んで殺そうってことなんだろうな」
話し合う気があるなら、扉を開けて奥へどうぞ、だろうからね。連中は端から話し合う気などないということだ。
それが想像ではなく確定しただけでもきた甲斐はあった。よろしい、では戦争だ。
俺たちを取り込もうと飛びかかってきた黒い塊――シェイプシフターは俺たちに触れる寸前に燃え上がった。
「俺たちが何の対策もしていなかったと?」
ファイアウォール。触れる者を炎上ダメージを与える攻防一体の火属性魔法。
「あ、ジン、これ――」
ベルさんが言いかけた時、室内のガスが爆発した。どうも引火しやすい成分が混じっていたらしい。
凄まじい爆発は扉を内側からねじ曲げ吹き飛ばした! もしかしたら真空状態になってしまったかな? ふっと煙が消える中、俺とベルさんは扉をぶっ壊したのを幸いに前へと進んだ。
英雄魔術師@コミック第12巻、発売中! ご購入、よろしくお願いします!
既刊1~11巻も発売中! コロナEX、ニコニコ静画でも連載中!




