第1867話、シェイプシフターハウス
報連相は大事である。
現状のわかっていること、つまり地底偵察における情報は、我らが親愛なる兄弟であり、同盟議会議長であるジャルジー王に伝え、同盟軍も万が一の事態に備えて、臨戦態勢を整えてもらう。
『すでに地底で問題が起きていることは放送されているからな』
通信機から表示されるホログラム状のジャルジーは言った。
『相手については不明だが、地底の同盟軍基地が攻撃を受けてウーラムゴリサ国も撤退、現在地底は封鎖――相手の正体については伏せているが、地底人の仕業という説がまことしやかに報じられている』
「姿を自在に変えて、どこにでも現れる敵なんて知らせたら、パニックが起きそうだ」
『地底を封鎖していなかったら、そんな奴が地上を闊歩しているところだからな……。そりゃあ混乱するだろう』
「とりあえず、敵の規模については不明な部分も多いからさらに調べる。地底で決着をつけたいね」
『了解した。地上に飛び火しないことを祈っているよ。もうすでに犠牲者も出ているからな。これ以上面倒は増やしたくない』
そいつは同感だ。
「それでなくても、ここのところ忙しいからな」
ニーヴァランカ問題とか、ウーラムゴリサ内乱とか、それに絡んだら地底問題ときたもんだ。
『兄貴が絡んでくれていなかったら、もっとややこしいことになっていただろう。今も解決のために右へ左へだ』
「振り回されるのが今の俺たちの仕事だよ」
俺が言うと、ジャルジーは微笑した。
『情報はシーパング情報局とも共有してくれ。こちらとしても役に立てる情報はそちらに流す。もちろんシーパング大公殿として、な』
「肩書きが多いのも考えものだが、こういう時に建前としてでも使えるのなら、利用しましょ」
やれやれ、ってやつだな、まったく。
通信終了。さてさて、始めますかね。
・ ・ ・
遠巻きから偵察は続けるが、もっと直接的な偵察活動も行う。
「威力偵察というやつだな」
俺たちが狙いをつけたのは、ライオネル博士ら研究チームが発見、その後消息不明となった始まりの場所。
「同盟軍もやられた場所だな」
暗黒騎士姿のベルさんは言うのだ。俺たち強行偵察部隊は、黒い倉庫のような建物に密かに近づいた。
「今にして思えば、あれもシェイプシフターなんじゃねえか?」
「円盤都市を侵食していたみたいだからな」
遠距離視覚の魔法で拡大。映像でなら何度も見た建物がそこにある。
「姿を変えるのは得意というのはわかるが、あれ自体がシェイプシフターとは普通は思わないよな」
「よく言うぜ。お前さんは、そのシェイプシフターを魔人機サイズにしたり、飛行機にして飛ばしていただろうが」
ベルさん、言うねえ。だけど。
「それはまだ常識の範囲内じゃないかな」
姿を変えるシェイプシフターが、敵対するものの姿に変わるということはよくあることだ。大蛇やドラゴンにだって、その気になれば化けられるんだから、魔人機や航空機なんてあり得るだろう。
「建物、倉庫まるまる変身するのは、さすがにないんじゃないかな……?」
「目の前にあるじゃねえか」
狭い常識の範囲。とベルさんは皮肉った。
「あれがシェイプシフターハウスなら、普通は入ったら死ぬぜ?」
「肉食獣の口の中に自ら入るようなものだからな」
まあ、それでも行くんだけどね。俺たちは死なない。
「ということで、レーヴァ。見つからないように監視を頼む」
『承知しました』
シェイプシフター隊長に後を任せて、俺とベルさんは、始まりの黒い倉庫のような建物に近づく。
「残骸も残っていないんだな」
ここを見つけた博士らを乗せてきた探索艇はもちろん、後に乗り込んだシーパング同盟のワスプⅠヘリとか。
「あいつら悪食だから喰っちまったんだろうぜ」
ベルさんは軽口を叩く。堂々と歩いていったら、何か反応があると思ったが建物側に反応はなし。
「敵対的になるのは、入ってからってか?」
「トラップみたいだな」
こちらの行動に対してのリアクション。何もしなければ、それ自体も何もしない。
「トラップハウスかぁ。さてさて、前に入った連中は跡形もなく喰われているんだろうが、何があるのやら」
入り口は閉まっている。と思ったら、すすっと自動ドアよろしく左右に開いた。
「おいでおいでしてやがるぜ」
ベルさんが笑った。
「どうぞお入りくださいってさ」
「罠じゃなかったら、こっちと交渉する気が少しはあるのかね」
俺は思ったことを口にしたが、ベルさんは首をかしげる。
「どうかな。食虫植物とかは、獲物がかかるように口は開けてるもんだしな」
あくまでトラップの一環というわけだ。戦闘兵器が戦わないで何をするんだ、って話だしな。
「でも、敵味方の識別くらいはするだろうよ」
「もうあっちは仕掛けてるんだぜ、ジン」
セカンド・ベースにファースト・ベース。同盟軍守備隊もやられた。宣戦布告なき攻撃によって。
英雄魔術師@コミック第12巻、発売中! ご購入、よろしくお願いします!
既刊1~11巻も発売中! コロナEX、ニコニコ静画でも連載中!




