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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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1857/1899

第1847話、独断専行


 ポルック連隊はウーラムゴリサ内に侵入していた。

 ウーラムゴリサとかいう国未満の勢力のなにを恐れるというのか。強いヴァランを標榜する大帝陛下であれば、この行動も容認されるはずだ。

 ポルックはそう確信していた。


「この土地は、我らヴァラン国のものだ!」


 そうとも、この土も草も木もヴァランのそれと何ら違いはない。


「おれには国境線など見えん! 我らが進んだ土地、我らが立っている土地はヴァラン国なのだ!」


 ひとりポルックは声を発する。付き従う騎士らは何も言わず続く。歩兵たちもまた黙々と前進する。


 ――おれは間違っていないはずだ。


 ポルックは込み上げてくる不安を押し殺す。

 緊張している。自分が命令に反する行為をしている自覚はある。だがこの行動は必ずヴァラン国のためになると思えばこそ、敢えて命令を無視し、独断専行を行っている。


 正しい。間違っていないはずだ。

 そう心に言い聞かせても心配の種はある。しかしそれを今さら言ったところで仕方がない。


 ここまで来て、ただ数十メートル、百数十メートルを行って帰ってきましたでは済まされない。命令違反を犯した以上、それに見合う成果がなければただの犯罪者で終わる。

 必ず旧ウーラムゴリサの領地を削り、ヴァラン国の所領を増やす。ポルックは進み続けるしかなかった。


 気を紛らわせるため、副官とお喋りでもしようと思ったポルック。だがその前に、前を行く前衛部隊から伝令の騎兵が駆けてきた。


「連隊長殿! 進行方向に砦があります!」

「砦、だと?」


 ポルックは怪訝な顔になる。振り返り情報幕僚を見やる。


「事前情報では、この辺りに砦はなかったはずだが?」

「はっ、そのはずでした!」


 情報幕僚は答えた。


「ここ数年、砦はありませんし、建築の準備もされていませんでした!」


 元ウーラムゴリサが地方の武装勢力に分断されていた頃から、ヴァラン勢力は周辺国の状況を調べる密偵を放っていた。特に国境線周り、その近辺の地形などの把握も行われ、ニーヴ・ランカ駆逐後のヴァラン国が建国された後の、勢力拡大のための情報収集をしてきた。

 ドルーグ軍団が国境警備に配備された時、ポルック連隊も周辺の地形、地図をもらったが、そこに砦の記載はなかった。


「どういうことだ。突然、砦が生えたとでもいうのか!」


 ポルックは馬を駆る。


「前衛を見てくる。続け!」


 連隊本部の兵を引き連れ、前衛を務める第二大隊に追いつく。歩兵大隊ではあるが、魔人機が三機配備されており、地方の武装勢力の軍とぶつかったとしても対処できるようになっている。


「連隊長殿!」

「ガダ、どうなっているか?」


 第二大隊長のガダのもとに到着したポルック。ガダ大隊長は指さした。


「あれです」

「……おおっ、確かに砦が建っておるな!」


 石造りの城壁に囲まれたこじんまりとした建物。城というのは小さく、城壁に砲台が二門あるのを見て、砦であると確信する。

 この配置は、明らかに砲がヴァラン国国境に睨みを効かせている。


「連隊長殿、どういたしますか?」


 ガダは質問した。


「このまま進めば、あの砦の軍勢と一戦交えることになります」


 武装したヴァラン軍が進んでくれば、普通に考えれば侵攻と考えて防戦をしてくるだろう。

 何故か? こちらが軍勢を進ませるという連絡をしていないからだ。使者を立てて、いついつ軍が通りますがよろしいでしょうか――普通はそうお伺いを立てるものだ。

 それを無視して国境侵犯。常識的に考えて、あの砦の砲で撃たれるのは至極当然で、どちらが悪いかと言われれば、誰がどうみてもポルックらヴァラン軍が悪い。


「……」

「さすがに戦闘は、まずいのではないですか?」


 ガダは言った。


「元ウーラムゴリサの何らかの勢力のもので間違いないでしょう。もし、例のジン・アミウールの軍だった場合、ヴァラン国を攻撃する理由を与えてしまうことになります」

「山賊どもの拠点かもしれん」


 ポルックは事実から目を逸らす。ここまできて手ぶらで帰れるか、という思いが、現実を見ることを拒む。


「あれは、ここ最近までなかったものです」


 ガダは言い聞かせるように言った。


「山賊どもが、あんな立派な砦を短時間で建てられるわけがありません」

「ジン・アミウールの軍がやったという証拠でもあるのか?」


 ポルックは言い返した。視界にある砦は、どこの誰が建てたかもわからない代物だ。魔法か何かで作られたかもしれないが、それならば英雄魔術師でなくても可能性はあるのではないか? ……魔法について詳しくないポルックは、それがどれほどのものか理解していない。


「気づかれない程度進んで、こっそり領地を獲得するのではなかったのですか?」


 事前説明と違うとガダが眉をひそめる。


「戦いになったら本格衝突です。山賊であればまあ、いいでしょう。ジン・アミウール、新しいウーラムゴリサの軍だったなら、シーパング同盟軍が介入して大挙報復してきますぞ?」

「ジン・アミウールのわけがないだろう!」


 ポルックは怒鳴った。


「何でもかんでもジン・アミウールと言えば通ると思ったら大間違いだ!」

「連隊長! あんた、国を滅ぼすつもりか!」


 ガダも負けじと怒鳴り返した。


「ニーヴ・ランカ人と同じ失敗を繰り返すつもりなのか!」

「貴様!」


 ポルックは腰に下げていた魔法銃を取ると、ガダを射殺した。周りでハラハラしながら問答を見ていた部下たちは、全員が一斉に顔を青ざめさせた。

 殺した。……殺してしまった。


「命令不服従、上官への侮辱、抗命、敵前逃亡その他諸々で、極刑に処す……」


 やっておいて今更ポルックは言った。それは言い訳じみて聞こえるが、銃を手にした指揮官を前に、誰も何も言えなかった。

 その時、風を切り、何かが降ってきた。近くに落ちたそれに訝しむことしばし、様子を見に行った兵が、それを持ってポルックの元へ駆けつけた。


「連隊長殿、ウーラムゴリサ軍より通告文のようです!」


 書状の入った筒を出され、ポルックはそれを受け取る。今ウーラムゴリサ軍と言ったか?――幕僚たちが耳を疑う中、ポルックは内容を確認する。そこに書かれた内容は――

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― 新着の感想 ―
いや大戦略じゃねーんだから駐屯しただけで領地の色塗り変わる訳ねーだろこのハゲ(゜д゜)
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