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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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1853/1885

第1843話、ただでは国は動かない


「――というわけで、シーパング同盟へのウーラムゴリサ国の加入を認めてもらいたい」


 俺の根回しの相手は、義理の兄弟であり、シーパング同盟議会議長のジャルジー・ヴェリラルド王である。


「決めるのは議会代表とその後ろにある国々だ」


 ジャルジーはスラスラと言った。


「同盟を面倒に引き込むわけだから、それなりの見返りがなければ承認は難しい。いくら兄貴でもな。出せる飴玉は?」

「地底世界の調査に関して、シーパング同盟所属国に対する税の免除」


 人様の土地を横切って調べようというわけだからね。本来ならタダで庭先を通過させるのは国防や国益にあまりよろしくない場合もある。だが同盟に関しては目を瞑りますよ、ということだ。


「地底世界の地底人文明の遺産についての調査や譲渡……。安全かどうか検討することはあるだろうが、同盟国には分配する用意がある」


 現代の技術以上のものがあるかもしれないが、それらを地元であるウーラムゴリサとケンカすることなく合法で手に入れられるのは悪い話ではない。


「本当は鉱物資源があれば、そちらの採掘権もいくらか用意したいところだったが、今のところそちらは望み薄」


 つまり、これは今のところ交渉材料にならないということだ。


「もちろん、今の調査範囲においてはの話だから、今後何か見つかれば同盟にもメリットがあるように取り計らおう」


 だから調査したいという同盟所属の人間には、特に制限をつけることなく通すよ、ということでもある。


「現状出せる飴玉は、こんなところかな」

「一つ、確認するが」


 ジャルジーは真剣な面持ちで尋ねた。


「あのムカデ兵器についてはどう扱う?」

「同盟に提供するよ。あれを同盟軍で使うとは思えないが、もし採用されるなら回り回ってウーラムゴリサの軍備にも含まれるだろうし」


 ただあの手の生物を兵器にするものは、俺個人としては信用していないんだよな。あれで国防軍を編成するなんて案が出たとしても、ウーラムゴリサだけで独占は周辺国から危険視されるだけだろう。何せ群れればダンジョンスタンピードもどきの破壊力があるからね。


「それについては、同盟議会でも慎重に扱われるだろうから、それはひとまず置いておく。それ以外の地底人文明の遺産については、確かに同盟にとっても魅力的な話だ」

「無政府状態のところを周辺国に狙われたら、同盟は獲得の機会を失うぞ」

「ヴァラン国か」


 ジャルジーは表情を歪める。


「あの国はできたばかりだ。よその国に手を出してくると思うか?」

「国境に集めた軍隊を下げないというのは、そういうことだろう?」


 スタンピードの危機は去ったにも関わらず、臨戦態勢を崩さない。モンスターたちがウーラムゴリサ内の町や集落を片っ端から潰した直後であり、領土拡張を図るなら、今が狙い時ではある。


「だが、ヴァラン国は国境を超えていない。おそらく兄貴の存在が抑止力になっているんだろう」


 無政府状態のウーラムゴリサに攻めてこないのは、俺とGEGがいて、シーパング同盟軍も隣国ネーヴォアドリスに展開しており、何かあれば即時動ける状態にあるからだ。


「ヴァラン国は、俺とシーパング同盟の関係から今ここで攻め込めば俺と直接ぶつかることになるし、下手したら同盟軍が介入してくるのではないかと疑っている」


 抑止力になっているのは俺だけでなく、近くで控えている同盟軍の存在もあればこそだ。


「ヴァラン国がモタモタしているあいだに、ウーラムゴリサが宣言を出してシーパング同盟に加入したなら、ヴァラン国は完全に手を引くしかなくなる」

「攻め込めば、同盟の防衛理念から軍と有力なる艦隊がウーラムゴリサに駆けつけ、ヴァラン国へ攻撃を仕掛ける」


 俺がウーラムゴリサに同盟参加しようというのは、それを狙ってのことである。何せ今のウーラムゴリサにはろくな軍備もないからね。攻め込まれたら俺のGEG頼みって言うんだから、同盟加入はウーラムゴリサの命運を分けるといっても過言ではない。


「一番血が流れない方法だよ」


 ヴァラン国も前身であるニーヴ人の失敗を繰り返したくはないだろう。争わずに済むならそれが一番。軍事同盟の本懐、ここにあり。


「同盟議会に出すとして、反対する国はあるかな……?」


 ジャルジーが首を捻る。味方なら見当はついているがね。


「シーパング本国、エルフ国、プロヴィア王国は同盟加入に反対はしないだろう」

「そこは兄貴が治めると言えば、賛成するだろうよ」


 ジャルジーは皮肉げに言った。

 その三国の女王陛下は俺のやることに大体賛成。エルフは俺を神様と見ているし、プロヴィアの女王は俺と結婚して、一応俺プロヴィア王だからね。


「アミール教会も支持するだろう」

「宗教は強い」


 同時に怖い。俺は肩をすくめるしかない。


「実で語れば、ネーヴォアドリスは隣国であるウーラムゴリサが同盟に加入すれば、そちらに向けていた防衛力をよそに向けられる。もしくは軍備を削ることができるかもな。それはあの国として助かるんじゃないかな」


 ネーヴォアドリスは内陸国で、大陸戦争のどさくさで領土は広がった。まあ裏を返すと、それだけよその国と国境が接することになって、しかも周りに味方が少ない状態。

 ヴァラン国は不透明。ウーラムゴリサは俺たちの介入で沈静化したけど、それまでは武装勢力同士が争う修羅場で、いつ戦いが飛び火するかわからない状態だった。さらに内乱状態のセイスシルワもまた情勢不安から国境の防備を固めねばならず、こうした面倒ばかりの隣国の一つが、味方になるのは精神的にも財政的も助かるだろうね。


「ウーラムゴリサが同盟に参加することで、ヴァラン国と戦争になる……そう危惧して反対する国は?」

「将来的にはあるだろう」


 俺は頷く。


「ただ現状の軍備では、シーパング同盟が出てきた時点で引かざるを得ない。民をまとめるためにも、下手を打って信用を無くす選択はしないよ」


 あの大帝ならね。今はウーラムゴリサからのスタンピードから国を守るためという大義で国境に兵を置いている。侵攻を諦めて解散しても、同盟が怖くて引き下がった、なんて民は思いもしないだろう。

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