第1842話、旧ウーラムゴリサの土地の価値
地底は新たなフロンティア……などと思っていたこともあったし、いまだ多くの資源が眠っているに違いない……とも思っていた。
「資源がない?」
「ただの砂に土。そこからできるものはありますが、貴重な鉱物などは特に」
調査した研究員はそう報告した。俺は資料を受け取り、目を通す。ベルさんが口を挟んだ。
「鉄もねえのか? こんだけ広けりゃ、それなりに含まれているだろう?」
「なくはないのですが、採掘するにはかなり効率が悪いです。素直に地上で掘ったほうがいいですよ。ここでは採算が取れません」
「……」
「それを聞いたら、地上の人々もニッコリだと思うよ」
もちろん皮肉だ。
莫大な未知の、そして未確保の資源があると思われる地底世界。その存在を知れば、ゴールドラッシュよろしく人が殺到しただろうが、お宝になるようなものがないカスな土地であると知れば、資源目当ての者たちは関心を失うだろう。
「ニッコリなのはお前だけじゃねえのか、ジンよ」
ベルさんは言った。そりゃあ人間はいつだって資源目当てで争うからね。報告したシーパング同盟の各国も地底世界に注目しているのは、お宝同然の資源や過去文明の遺物だからね。
「少なくとも、土地目当てで地底に領土争いをする理由がなさそうなのは、平和主義者な俺には朗報だよ」
「お前さんのどこが平和主義者なんだ?」
「荒事ばかりに巻き込まれているとね、平和が一番だって実感するんだよ。こういうのは戦ったことのある人間にしかわからないものさ」
それにしても妙なものだ。鉱物資源とくれば地中に埋まっているもので、深くもなればより強い金属のもとになりそうな鉱物とか、有用なものがありそうなものだ。だが地中深くの地底世界には、それらの有用資源が見つからないときている。
「ますますここが、地続きの大地とは思えなくなってきた」
「異空間説ってやつかい?」
「前に言った機械文明時代の科学者の地下都市構想とか、人工的にこしらえた空間に避難所というか居住できる環境を作ったかも、というやつだな。とりあえず箱だけ作ったのが、この地底世界とされている空間」
「あのー、よろしいですか?」
研究員が挙手した。
「ここが異空間だとして、それが可能なのでしょうか?」
「できなくはない」
俺は答えた。俺のストレージは最初は偶然の産物だったけど、あれに家だったり町を作ったりしたのがこの地底世界、と、実際の作り方はともかく、あり得なくはないんだ。
ただその説明ではこの研究員もわからないだろうから、別のたとえを出そう。
「ダンジョンコアの作るダンジョン。あれの巨大版と想像してみるといい。この地底世界そのものがダンジョンという感じだ」
「はぁ……。そんな途方もないダンジョン、あり得るんですかね?」
「それも一つの考え方という話だ。実際にそうと決まったわけじゃない。……ただ、もし地底世界がダンジョンだったら、人類が作りしダンジョンで最大の世界記録だろうな」
ロマンがあるねぇ。それくらいの気持ちでいこうよ。
「とりあえず地質調査を進めてみて、同盟ならびに関係各国に提出できるレポートを作成してくれ。皆、それを知りたがっている」
「かしこまりました。まあ、ガッカリされる方も多いでしょうが……」
苦笑する研究員だが、俺は逆にニッコニコだ。
「余計な争いが減るのはいいことだよ」
平和が一番だ。大公とか王様とかやっているとね、特にそう思うよ。研究員が退出した後、ベルさんが口を開いた。
「あとは文明の遺産か」
「円盤都市とか、まあ地上より発展している部分はある」
そうした技術の取り合いはあるだろうね。資源がなかった分、より注目されるだろう。
「やっぱり、早々にウーラムゴリサを再建して国家宣言しておかないとまずいかな……」
「はっきりしていねえ状況で、火事場泥棒ってのはよくある話だからな」
ベルさんは意地悪くいった。
「線引きしとかねえと、周辺国にいつの間にか領地を掠め取られちまうぜ?」
無価値の土地ならばそうはならないのだが、地底世界とか地底文明の遺跡とか、そういうのにアクセスできる唯一の土地となると、その価値は天井知らずだからな。近隣国から、いま一番狙われている土地って、間違いなくウーラムゴリサだろうな。
・ ・ ・
ウーラムゴリサ王都の再建、そのガワだけはわずか二日で完成した。
ダンジョンコア工法の迅速さよ。我らがディーシー先生は、居住可能な都をあっという間に完成させた。
もともと近辺にいた避難民たちに王都の一般区画を解放する。それでも近くの村や集落がいいという人は、追々用意するとして……。
逆に都会、王都に住みたいですか、とウーラムゴリサの各避難民に声かけしたら、志願される方が割といたので、王都住人もそれなりの規模になった。
理由は、頑丈な外壁に守れられ、ここ数年の治安の悪さを鑑みても安全性が段違いだからだろう。地元武装勢力に脅され、命の危険にさらされた人たちは、安心できる環境を求めているのだと思う。
それだけ疑心暗鬼にかられた生活を送りながらも、こちらの呼びかけに素直に応じたのは、避難している間のGEGを含むこちら側の対応で一定の信頼を得たからだろうね。
美味しい食事と安心の寝床。武装しているGEG隊員の姿は、威圧ではなく守護者としてかえって安心を与えているようだった。
さて、シーパングに移住した元ウーラムゴリサ系代表と現地避難グループの代表者を集めて、今後のウーラムゴリサ国の運営について話し合う。
本当はじっくりやっていきたいところだが、地底世界への大穴と地底文明の遺産について、周辺国がこの領地を削り取り、あるいは征服に乗り出す可能性があるから、事は急ぐ必要があると告げた。
「ヴァラン国の国境に軍隊が集結している。先のダンジョンスタンピードに対する防衛という建前だが、まだ軍が解散していない。国土の安全を口実に領土拡張……こちらがまともに国として対応できない隙を衝いてくる可能性がある」
それを指摘すると、代表者たちはざわついた。
「ジン様はどうなされるのですか?」
「俺を正式に国の代表として承認し、ウーラムゴリサ国の再建となれば、国軍として対応はできる。GEGはアンチ虐殺撲滅だから、領土問題に対しては大したことはできない。一度国となり、シーパング同盟に加盟すれば、バックに同盟がつくから、ヴァラン国などが万が一攻めてこようとしても、抑止力になる」
領土への侵犯に対する反撃。同盟加盟国が侵略されたなら、強力なシーパング同盟軍が参戦する。シーパング同盟と戦争するつもりがないなら、手を出してこれなくなるということだ。
「シーパング同盟は、ウーラムゴリサの加盟を認めるでしょうか?」
代表の一人が言った。それが認められなければ意味がないのを理解しているのだ。確かにそれは問題ではあるが――
「そちらについては、私が話を進めている。心配はない」
根回しならすでにやっているよ。
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