第1838話、再建に向けて
ウーラムゴリサ内にいくつもの避難民用キャンプが作られた。
我らがディーシーのシスターズがいたことで、防壁付きのキャンプは、墨俣の一夜城よろしく具現化した。それも各地で。
各地方勢力の拠点を再利用する、という手もあるのだが、まずそこが安全かの確認をしなくてはいけない。避難民が早めに腰を落ち着けられるようにスピードを優先した結果、平地に砦のようなキャンプをこしらえる結果となった。
これらはニーヴァランカの難民たちの経験もあって、彼らを受け入れた町ほど立派な外見ではないものの、使う避難民たちに不足がないよう心遣いがなされていた。
俺はそれらキャンプを巡り、代表者たちに今後の話について打ち合わせをする。集落、町をいずれは再建したいが、この国の地下にある地底世界のことも伝えておく。
「地底世界、ですか?」
要領を得ない顔になる避難民代表。そりゃあピンとこないよな。
「先日のクルエル――巨大ムカデもそこと関係があるようなんで、地底を調べて安全かどうか確かめる必要があるわけだ」
もし危険があるようなら、その真上、いや真下か?――そこに町など作って住みたくはないだろう。
「ここからさらに移動させるようなことはしたくないが、状況によっては覚悟しておいてほしい」
すぐに町や村作りをしないのは、そのせい――というのを予め説明しておく。せっかく家を建てたのに、次の日に潰されるようなのは誰だって御免だろう。
「シーパング同盟に逃れていた移民たちも、ウーラムゴリサ王国を復興させたいと願っていた。新しい国作りもしなくてはいけないが、まあ当面はこの避難キャンプを集落として使ってもらいたい。必要な物資は用意する」
「わかりました、アミウール様」
ここでは英雄魔術師として通っているからね。シーパング大公、ヴェリラルド王国南方侯爵とかよりは通りがよいのだろう。
「またも助けていただき、感謝の言葉もございません」
「なに、妻の故郷でもあるからね、この国は」
あなた方も楽ではないが頑張ってほしい。
・ ・ ・
「地底世界かぁ……」
アーリィーは脳裏にそれを思い描いたのか、だいぶよろしい表情をしている。
「ロマンだねぇ」
現在、俺は帰宅中。地下探索にも行くが、その前に皆の顔を見にきた。極力、夜には家族揃ってお食事したいけど、そうもいかないかもしれないからね。
「近いうちに、子供たちも連れて見に行こうか」
俺が提案すると「本当?」とアーリィーは顔を綻ばせた。
「当面は『バルムンク』から見下ろすという形になるだろうけどね」
安全の確認が優先だが、あの戦艦から出なければ、多少のゴタゴタ――たとえば戦闘状態であっても問題はない。
さて、帰宅のついでに、もう一つ。
「エリー、ちょっといいかな?」
「なあに、ジン」
「ウーラムゴリサ出身の君に、ちょっと相談があってね」
というわけで持ってきたのは、現在、開発部門が作っている魔法具。
「ウーラムゴリサの再建活動を始める予定なんだけどね、古きよき都市の街並みとか、ある程度再現したいんだよね」
「この板は?」
「イメージを込めて魔力を流すと変形する玩具」
玩具としても出せるけど、実際は偵察員が目撃したものを、形で表現できるようにする道具だ。口頭だと説明しづらいことも、形になれば受け手も理解しやすくなる……という説。
俺が試しに、四十センチほどの正方形の板を手に持って、イメージを送ってみる。すると板からうにょうにょと魔力素材が変形して飛び出してきて。
「あ、ベルさんだ!」
黒猫が板の上に登場! って、子供たちが後ろからドタドタとやってきた。イメージを流して作ったものを珍しそうに見る子供たち。
長女のリンに、四歳組のジュワン、ユーリ、三歳組のルマとジュイエが目を輝かせて集まる。
「なにこれ、あたらしいおもちゃー?」
勝手に一人一枚ずつ板を取っていく子供たち。……わかってる。こんなこともあろうかといっぱい持ってきたんだから。
「わたし、やるー!」
「ねこ、ねこ!」
「頭の中のイメージを魔力に乗せるんだが……できるかな?」
子供たちにそう説明しつつ、俺はエリーに向き直る。
「そんなわけで、エリー。君にウーラムゴリサの町のイメージをいくつか作ってほしい。再建計画で、ウーラムゴリサの出身者にも同様に聞いていくつもりではあるんだけど、その前に、ね」
「ふうん。まあいいけれど……魔力を流せばいいのよね?」
エリーはウーラムゴリサの王都にある魔法学校の卒業生である。王都にいたのも、俺より長く、そもそもあの国で育ったのだからイメージについて今更どうこういうものではないだろう。
もぞもぞと板から家らしきものが生える。ルマがパチパチと手を叩いた。
「あら出来た」
エリーはその出来栄えを見て眉をひそめると、再度イメージを送り込んだ。より造形が正確になり、建物の輪郭がはっきりした。……これは慣れるまで練習が必要だな。
「わー! できた!」
ジュイエが、猫ちゃん(?)を板から生やして歓声を上げた。かなりデフォルメされているが、三歳児にしては大したものだ。
「可愛いねぇ」
褒めてあげたら、ジュイエは白い歯を見せて笑った。子供は素直だ。
「あれ、姉ちゃん?」
ユーリが、長女のリンが先ほどから板を手にしながら何も作っていないのに気づいた。
「何やってるの? まさかできないとか?」
「う、うるさいわねっ!」
怒鳴った。姉からいきなり声をあげられ、ユーリと隣にいたジュワンがビクリと肩を震わせた。
「リン、大きな声を出さない」
小さい子が泣いちゃうでしょう。叱るでもなく彼女の頭を撫でたら、逆に泣いたのはリンだった。
だって、とかいいつつそのまま俺の胸に飛び込んで泣くリン。意気揚々と玩具で遊ぼうと思ったら、上手くいかなかったんだよな。そこで周りから言われて煽られたと受け取ったんだろう。年下ジュイエやルマが上手くやっていたから特にね。……子供って繊細だから。
お姉ちゃんに怒鳴られたユーリが泣きそうな顔をしたので、俺は手を振る。
「ユーリは悪くないよ」
幼い子が多いとね、こういうデリケートなところで騒ぎになったり喧嘩したり。……まあ、よくあることだね。
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