第1834話、円盤都市のコンピューター
「手掛かりがないなら、見たものから判断し推測するしかない」
そういうわけで推測した結果、踏み込んだ建物は無人だった。
だが――
「さっきまでと雰囲気が違うな」
ベルさんが入って早々身構えた。俺も耳をすます。
「音がしているな」
他では動くものもなく、俺たちの歩く音くらいしかなかったのだが、ここには音があった。
「機械……、コンピューターの稼働音っぽいな」
俺たちは奥を目指すが、そこには室内にゲートがあった。ベルさんは首を捻る。
「これは何だ?」
「元の世界で一番近いものだと、金属探知機かな?」
「あー、そういえば。あれだろ、金属を持っていると鳴るやつ」
そうそう、ベルさんも俺のいた世界に何度も行っているから、向こうにある機械とかも覚えているんだよね。
「ただ、世界が違うから金属探知機って保証はないけど」
「似ているだけの別物ってありそうだが……。いや、こいつは金属探知機だな」
ベルさんはどうやら鑑定魔法を使ったらしい。別世界とはいえ、そういうものを見ているからわかるんだろうね。
「正面から入るには、ここを通るしかないが……これ生きているのかい、ベルさん?」
「この建物は電源がきている。機械の類いも動いているみたいだぜ」
鑑定の結果を教えてくれるベルさん。うーん、生きているのかこの金属探知機は。
「あまり鳴らしたくないんだよなぁ」
人はいないが動力が生きているって、ロボットみたいなのがあれば、それがすっ飛んでくる可能性があるじゃないか!
仕方ないな。
「何をやってるんだ、ジン?」
「金属を、ストレージに放り込んでいる」
「そんなことしなくても――」
ベルさんが魔法を使い、ゲートをペシャンコに押し潰した。
「これで大丈夫だろ?」
「……ベルさん」
機械を壊したら壊したでそっちで警報が――言いかけたら本当に警報が鳴り出した。あーもう!
「これで警備メカとかいたら結局、出てくるじゃないか!」
「出てきてほしいくらいだね」
ベルさんは尻尾を振った。
「騒ぎになれば、もし地底人がいるなら出てくるだろうよ」
ここまで誰も見ていないと、むしろ出てこいといったところか。そういっていたら、奥から金属の足音らしきものが聞こえてきた。近づいてくる!
「すっ飛んできたのは、ガードメカなんじゃないか?」
ぬっと、奥から人型が駆けてくる。いかにもな金属ボディを持つ人型メカだ。薄々予想はしていたが、テラ・フィデリティアでもアンバンサーでもアポリト文明のものでもないな!
「まあ、来ちまったもんはしょうがない」
ベルさんが黒猫から暗黒騎士に姿を変えた。
『これで少しは退屈しなくて済みそうだ』
「……そうだな、出てきたものは排除するしかない」
末端のガードメカと戦闘になったくらいのことが、地上の巨大ムカデの大群が動き出すほどのものにはならないだろうし。……仮にその程度で動くようなら、俺たちが都市に上陸した辺りで動き出しているだろう。
ベルさんが前衛としてデスブリンガーを振り回す。やってきたガードメカは、次々と切り捨てられる。
「ソニックブラスト!」
俺は、側面から出てきたガードメカに衝撃波をぶつけて吹き飛ばす。壁に叩きつけられたメカは各部位をショートさせながら力なく突っ伏す。神経に相当する配線が切れれば、動けなくなるわな。
「ドン!」
指先に魔力を集め、銃を撃つように向ける。迸る衝撃波は次々にガードメカをスクラップに変えた。
『ジン、行くぜ!』
ベルさんが施設の奥へと足を踏み入れる。俺は腕に魔力をまとわせて薙ぎ払い。真空波が残ったカードメカをまとめて両断した。
雑魚を一掃して奥へ。悠々と進む暗黒騎士が向かってくるガードを一撃で切り裂いていく。
この程度では足止めにもならないようだ。
・ ・ ・
「……ここが音の正体か」
施設の奥に大型コンピューターと思われる機械があった。ベルさんが左腕を出して扉ごと壁を破壊し、中へと入る。
すると上からほっそりした人型のメカが数体落ちてきた。さっきまでのガードメカより、見た目は貧弱そうだが――何やら機械音声で喋っているような?
「何か言ってるか?」
『警告だってさ』
ベルさんはデスブリンガーで、近くの一体をスパッと両断した。
『言語を共通化する。……今した』
『侵入者を排除する!』
人型メカの機械音声が、きちんとこちらの言葉に変換された。さすがベルさん、やるねぇ。
「ベルさん、こいつら破壊するのはいいが、一体は残して……」
『あ? 何か言ったか?』
全部人型メカをぶっ壊しちゃってやんの。
「何か情報を得られるかと思ったんだがな』
『無理無理、こいつら、いかにもガードっぽいありきたりなセリフしか言えねえからな。質問するだけ無駄だぜ』
そう言ってベルさんは、大型コンピューターに近づいた。
『天井のケーブル、外のと繋がっているんじゃないか?』
「じゃあ、こいつを制御できればあの得体の知れない装置も操れるってことか。……なお、あの装置が結局何かわからない模様」
『どこかにマニュアルとかないのか? こういうのトラブルに備えてメンテマニュアルとか控えておくものだろ?』
「ベルさんが鑑定したほうが早くない?」
俺は大型コンピューターのキーボード端末と画面を見やる。ふん、ふん、ふん……。ベルさんのおかげでここの言語がわかる。
「オーケー。たぶん、操作できそう」
キーボードの文字位置がまるで違うせいで、テンポは悪いが一応動かせる。
「さて、このマシーンの正体を教えてくれ……」
お前は何の機械だ?
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