第1833話、地底都市が見えてきた
ベルさんの位置を確認して、転移。
わかってはいたが、宙に浮いているので、エアブーツで空中静止。
『おっ、来たか、ジン』
暗黒騎士姿のベルさんは空中にある。普通に空って感じだなここは。
「……言われなかったら、地底だって信じられないな」
分身君その2が俺の体に戻る中、ベルさんは親指を立てて、『それ』を指した。
『見ろよ、ケーブルの先があそこだ』
「円盤……空中都市か?」
これはまた……。地底の空とかいう変な言葉だけど、緑がかった空に白い大型円盤が浮いていて、そこに無数の建物らしい突起が生えて都市の形を作っている。
あの謎物体から伸びるケーブルのようなものが、その円盤都市へと繋がっている。
「もう行ったのかい、ベルさん?」
『いんや、これからさ』
ベルさんが動き、俺もその後を追った。上下の感覚がバグるよな。重力が反転しているって話だから、上に上がっているつもりでも、実は星の中心に向かっているって寸法だ。
これ、地底じゃなくて、どこかのダンジョンの中じゃないかって思えるね。元の世界で学んだ地球の構造とかと丸っきり違うもんな。
『見たところ、生物の反応はなさそうだ』
ベルさんも魔力スキャンが使える。索敵用の魔力の波の反射で、動くものの有無がわかるのだが、現状、その姿はなし。
「ダスカ氏に聞いた話じゃ、その昔地底人と接触した資料があったらしい」
一度戻って仕入れてきた情報を、ベルさんと共有する。
『するってぇと、あの都市らしきものは、地底人の作ったものってことになるのか』
「高度な文明らしいからな」
みるみる都市が視界の中で大きくなっていく。白い外壁を含めて近未来チックな外観。地底人より、未来人がいそうな雰囲気だ。
「ここまで近づいて、特に気づかれた様子はないな」
魔力的な索敵などは感じられなかった。ベルさんが探ったもの以外は。
『無人ってことじゃないのか?』
「機械なら、生命反応は感じられないからな。無人だから安全とは言えないぜ?」
『違ぇねえ』
ベルさんは肩を震わせて笑った。
『しかし、これは目の錯覚か? オレ様たち、都市の下から上がっているはずだよな? 上から落ちているんじゃないよな?』
「あー、言われてみれば、俺たち見上げているのか」
町を上から見下ろして、そこに向かってダイブしているような感覚になっていた。
いや、重力が逆さまでおかしくなっているが、実際、ここで空に上がるってことは中心に向かって降りているで正しく……ええーい、まどろっこしい!
「都市が上下逆になっているのか。あれが正しい上下なのか」
『大丈夫か? 言ってて支離滅裂になってねえか?』
「そういうベルさんもわかって言ってる?」
おっと、飛行速度が勝手に上がった。これは……都市に向かって落ちてる!
「ベルさん!」
『わかってる! 上下反転しやがった!』
姿勢変更。俺たちは円盤都市、その手近な高層建物の屋上に降りた。ほんと元の世界での現代のビルの屋上みたいだ。近未来都市へようこそってか。
下を見下ろす。車が走ってそうな道路があって、歩道や交差点が見えるが、地底人らしき者は見えず、巨大ムカデや何かの生物など動くものはない。
『廃墟、か……?』
「割と綺麗に残っているな」
植物がないんだろうな。だからそれが勝手に生えて侵食しているといったこともない。
『どこから探索するんだ、ジン?』
「あそこ!」
例のケーブルらしきものが繋がっている建物。
「地底世界の探索もしたいが、まずは地上の安全確保が優先だからな」
『よしきた。何事も目的があったほうがいいよな』
ということで、この建物が出るわけだけど、俺たちは予行演習を兼ねて、屋上から建物の中を通って行くことにした。
飛び降りたほうが早いのはわかる。だが、この文明の建物内の構造や住んでいただろう地底人がどういう環境で生活をしていたか、それを推測するためだ。目的の建物にぶっつけ本番で入る前の予習だな。
『ちょっと小さい……』
「ベルさんは人形態だと大きいからね」
暗黒騎士装備では、部屋間の入り口を通るのにやや窮屈そうだった。俺だって日本人としては平均よりちょい高めだけど、それでやや圧迫感を感じるのは、ここにいた者たちの体格が小柄だからだろう。
「ドワーフよりは大きい」
ベルさんが猫型になって、俺の肩に乗った。
「だが細身らしい」
ドワーフは横に大きいからね。室内もどこかのオフィスを思わせる。機械文明と言われたら、そうかもって信じてしまいそうなくらい文明は現代と同等かそれ以上進んでいるように思えた。
普通にエレベーターがあるんだよな。ボタンの位置が若干低いが、構造自体は一目見れば大体わかるようになっていた。
メンタリティーは、俺たちとさほど変わらないように思える。
「アンバンサーは円盤、もしくは曲線。アポリト文明は三角――」
「どうした?」
「文明ごとに、デザインにも違いがあるというか。機械文明についてはあれだけど、テラ・フィデリティアのものは直角というか、まさにシンプルな機械を連想させる。じゃあ、この地底人たちはどうなんだろうってな」
割と最近まで栄えていたんだよな。ダスカ氏が話してくれたグレンタバル氏が、どれくらい昔の人物かは知らないから、もしかしたら百年、数百年前の話かもしれないけど、かつて滅んだ文明と比べても、現代近くまで地底に残っていたわけで。
ビジネスビルのような建物を出る。本当、車が走っていてもおかしくない景色だよな。
「こう見ると、地底人がひょっこり姿を現してもおかしくない雰囲気だよな」
「争った形跡がないもんなぁ」
ベルさんは鼻をひくつかせた。
「戦争があったって雰囲気じゃねえし、ここの連中、どうしていなくなったんだ?」
「滅びた、と決めつけられないよな」
どこか違う場所に移ったのかもしれない。この地底世界は、まだまだ探索が及んでいない土地も多いからな。
俺とベルさんは円盤都市の道を歩き、やがて目的のケーブル建物へと辿り着いた。道中、確認しながらだったが、やはり地底人の姿はなかった。
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