第1828話、国の中心には――
ウーラムゴリサの地下に広がる大地下道。さすがに国レベルの巨大地下道ともなると、外側から改変していくと言っても大変だ。
ダンジョンコアであるディーシー・シスターズの力を借りても、国一つはデカ過ぎる。
「他国へ出られそうな穴は地形操作で塞いだ」
我らのディーシー大先生は、例によって例の如く淡々と報告した。これには俺も労う。
「ご苦労様。後は表の連中が大移動しない限りは、隣国に被害が及ぶことはないな」
地下巨大ムカデ集団は、自分たちが出てきた穴の辺りを固めている。
「うむ、今のところ大規模な動きは観測されていないな。で、とりあえず塞いだはいいが、ここからどうするのだ、主よ?」
「シスターズの各担当地区の地下を地形操作で潰していく手もあるにはあるが……」
どうなの、そこのところは?
「できなくはないが、どれくらいかかるか想像したくないな」
ディーシーは正直だった。
「何せ、範囲が広大過ぎる。単純に時間がかかる」
「それはそうだ。逆に考えると、あの地下道を形成するのに何十年かかったんだよ、って話だからな」
「数百年かもしれないぞ」
ディーシーは皮肉った。
「人間がやろうとすれば、それくらいはかかる規模ではないか」
「そう考えると、人間業じゃないんだよな、これ」
巨大ムカデ集団が動かない以上、状況は膠着状態。大きな戦闘になることなく、あれこれ対策やら今後を考える余裕があるわけだ。
「やっぱり……何かいるよな、この奥」
「例のムカデ帝国とやらか?」
ディーシーが腕を組んだ。帝国云々を言い出したのはベルさんだったか。本当にそうなのか確証となるものはなにもない。
「この世界、地下にヤバいものが埋まり過ぎなんだよ」
アンバンサーにスティグメ吸血鬼帝国。今度は巨大ムカデの大群ときた。
「討伐した巨大ムカデを、シーパング情報局に送りつけたんだが――」
「何かわかったのか?」
「馬東博士が嬉々として解析しているらしい」
「クローマ、だろう? 今は」
ディーシーは、かつての異世界転移者にして生物学の権威であるクローマ女史の名を出した。体が女性になろうとも、俺の中だとあの人は、馬東サイエンの印象が強いんだよな。
「今わかっているのは、ムカデの特徴は有しているが、我々のように思考して交信できる生き物ではない、ということらしい」
「せいぜい何者かに使役される程度の頭しかないモンスターということか」
「ディーシーも解析したのだろう? 何かわかったかい?」
「クローマと同じだ。あの巨大ムカデは、しょせんはモンスターだ。我のガーディアンモンスターとして扱えるレベルのな」
しっかり登録したらしい。巨大ムカデ対巨大ムカデのような戦いもやれるわけだ。
「となると、やはり何か操っている奴がいる説が強まった感じか」
さて、どうしたものか。
「中央を調べるとなると、ムカデたちも抵抗するだろう」
「どうかな。人間の尺度で決めつけるのはよくないぞ」
ディーシーがたしなめた。そりゃあそうか。人間とは違う生き物が相手だ。こちらの常識が通用するはずがない。
「とはいえ、このまま外堀から埋めるのは迅速な解決とはいかないだろうな」
救出した避難民のこともある。きちんとした生活に戻れるまでに、日にちがかかるのはあまりよろしくない。
「仕掛けてみるか」
ウーラムゴリサの地下中央、他に比べて大きな縦穴があるそこ。
「まだ、ここ魔力スキャン仕切れていないよな?」
「その通りだ。最初に平行面のスキャンを優先した結果、その大穴については底までスキャンしてきれていない。……つまり、かなり深い大穴だ」
「ムカデ帝国があるかはしらないが、そこに巨大ムカデを動かしている何かがある――まあ、これも人間の物差しで図った推測だけどね」
苦笑するしかない。ただ事態を沈静化させるために最善と思える手は打っていきたいね。
・ ・ ・
「ということで、ウーラムゴリサの中央部地下の探索を行う」
俺は宣言した。戦艦『バルムンク』は目標地点まで飛ぶ。はてさて、この事態を終局に導く手掛かりがあるのか。
「ディーシー、魔力スキャンだ。今度は縦方向重視」
「了解だ、主」
さっそく作業にかかる我らがダンジョンコア。様子を見守るベルさんが口を開く。
「幻のムカデ帝国は存在するか否か」
「オカルト雑誌の記事みたいだな」
「連中、動いてくるか?」
「どうかな」
国の広い範囲に分散しているムカデ集団だけど、制御されているモンスターともなれば、重要な場所で何かあれば、何らかのリアクションがある可能性は高い。
「もしここが連中にとって重要な場所であるなら、外部からの攻撃があれば守るために集まってくる……ということも考えられるが」
人間の思考なんだよな、それは。
「地上に出ているムカデ集団に外敵への攻撃命令が出て、守るより攻めを取ってくる……という可能性もある」
「それをされると、オレ様らだって対処しきれなくね?」
「そうなんだよな」
各地で停滞している奴らが一斉に外へと動き出したら、せっかく安全を確保したと思っていた近隣国にも再び危険が及ぶ。
「一応、シーパング同盟、ネーヴォアドリスには動きがあるかもしれないって伝えてある」
「ヴァラン国は?」
「伝えたよ」
「止められなかったか?」
巣をつついて大惨事になると困るから自重しろとか云々か? 言われなかったよ。
「このまま静観しても状況は改善しないからね」
何もしなくても、地上のムカデどもが動き出すかもしれない。地下に帰ってくれるなら手を出すなも通じるかもしれないが、その保証は今のところ誰もできない。
いつ動くかわからないムカデの大群に備えて、常に国境に軍を配置し続けると防衛費に国の予算を食われ続けることにもなるし。
「主――」
「どうした、ディーシー?」
何かあったか? 戦術モニターに、スキャン状況が映し出される。黒い部分が空洞。白いのが周りの地形として、これは――
「地下に巨大構造物だ。周りの空洞も大きいが、これもまた大きいぞ」
「何とも嫌な形をしているな」
なんだいこの構造物……。
それは巨大な脳みたいな形をしていた。
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