第1826話、戦線突破
地下道封鎖は分身君とシスターズに任せるとして、表に出てきて、しかも本格的に移動を始めた集団を何とかしないといけない。
これには避難を始めているウーラムゴリサの現地民のこともあるが、このままの移動を許せば、隣国の国境へ雪崩れ込む可能性が高い。それについては何とか処理しなくてはいけない。
「転移」
俺とベルさんは、バルムンク戦隊を離れてウーラムゴリサ西部へと向かった。荒涼たる荒野がどこまでも広がっている。T・セカンドとブラックナイト・ベルゼビュートで移動してきたわけだが。
『――で、現在のルートだと、ヴァラン国寄りに流れる可能性が高いか?』
ベルさんの確認に、俺はマップの地形を参照する。現状の予想進路からすれば――
「そっちへ流れそうだな」
果たしてヴァラン国の防備であれを防げるかな? シーパング同盟の絡むネーヴォアドリスであれば、何とか国境で足止めできそうではあるが、ヴァラン国については自信がもてない。
「マルチロッド・ランチャーは……残り三発」
バニシング・レイを放つ魔法弾、そのカートリッジがそれだけ。一発は最後の切り札、何が起こるかわからないから残しておくとして、ここで二発は使える。バニシング・レイ用使い捨ての杖『ルプトゥラ』と使い方は同じ。
戦艦『バルムンク』のレールガンや魔導放射砲も、橋頭堡確保のために使い切るだろうし、地道にやっていくしかないね。
俺は敵情の確認にモニター端を見やる。近場に出ていた集団を取り込み、地上を進撃するモンスター集団の数は六万に増えていた。
いやだねぇ、これだからダンジョンスタンピードの類いは嫌いなんだよ。一国が総出で鎮圧しないといけないレベルの災害ってやつ。魔人機などを使うようになって少しはマシになるかと思ったら、甘く見てはいけないな本当。
『来たぞ、ジン』
ブラックナイト・ベルゼビュートが高台に上がった。
『何も考えず、オレ様の前に出てきやがった!』
「土煙が見えてきた」
カメラをズーム。土煙が上がるくらい大行進。そしてやっぱり巨大ムカデの大群だった。動き方が気持ち悪くていけない。
「こちらの射線に乗った!」
マルチロッド・ランチャーを構え、突っ込んでくる大集団にその砲口を向ける。
「そんなお急ぎでどこにいくんですか、っと」
『引きつけろよ……。まとめて吹き飛ばすんだ』
ベルさんは言った。モニターに映し出される巨大ムカデ。これだけ集まると波を見ているようだ。ひしめいている姿が吐き気しかないんだわ。地面の起伏に合わせて波打ちながら、その足は止まらない。
生身だったら絶対に前に立てない。踏み潰されて一巻の終わりだ。歩兵用の陣地などがあっても、あっという間に蹂躙されるだろう。
モニターの動きで薄々気づいていたけど、こいつらの移動速度が早すぎる。陣地位置を間違えたら、あっという間に国境まで行かれる気がしてくる。
『落ち着け。まだだ、まだ……』
ベルさんがタイミングをはかってくれるのかい? いいけどさ!
『ジン、今だ!』
「発射!」
引き金を引く。マルチロッド・ランチャーの砲口から青白い光が溢れ出す。ムカデたちはあっという間に光に包まれ、その姿を溶かしていく。
光が消えた時、数万のモンスター群が塵と化した。使い切ったカートリッジを排出! 次弾、装填!
『五万四、五千が消滅した。残り五、六千!』
ベルさんのブラックナイト・ベルゼビュートが大剣を構えた。
中央は薙ぎ払ったが、左右に分かれていた射線外にいた奴らが残っている。おおよそ二手に分かれている、といったところか。
その時、公共通信帯での通信が入る。
『地上で展開しているGEGへ。こちらシーパング同盟軍第17機動部隊、トロヴァオン大隊、マルカス・ヴァリエーレ中佐』
おやおや、これはこれは。俺も通信チャンネルを切り替える。
「接近中の同盟軍トロヴァオン大隊へ。こちらGEG、ジン・アミウールだ」
『やはり大公閣下でしたか。お久しぶりです、閣下』
君も元気そうだね、マルカス君。やはり、というのは……ああ、バニシング・レイを見たからかな。
「ここに来たということは、同盟軍が出動したんだな」
『そうなります、閣下。爆装していますが、こちらの援護は必要でしょうか?』
「ぜひにお願いしたい。こちらの主力は別件でいなくてね。手が足りない。敵が国境線に到着する前に潰しておきたい」
『了解です。では、こちらは南寄りの敵を爆撃します』
「了解、任せる」
さて、ベルさん。俺たちはもう片方の敵を掃討しようじゃないか。
・ ・ ・
トロヴァオン戦闘攻撃機は三隊に分かれた。大隊長兼第一中隊長であるマルカスは第二中隊に先陣を任せた。
低空へ下りたトロヴァオンは翼下に懸架してきた対地爆弾を投下する。敵がダンジョンスタンピードと聞いて装備されたエクスプロージョン爆弾は、一度に多数のモンスターを巻き込み、熱で燃やし衝撃波で吹き飛ばした。
さすがに爆風の範囲に飛び込んで爆弾を落とす間抜けは大隊にはいない。見守るマルカスは、爆発など眼中にないとばかりに前進しつづける一隊を指し示す。
「第三中隊、こちらを無視する敵集団を掃討せよ。国境へ素通りを許すな」
『了解。――第三中隊、続け!』
一本棒の編隊となり、トロヴァオン第三中隊が直進する。
「これが人間であれば、敵も動揺するところなのだが……」
エクスプロージョン爆弾が炸裂するところを見れば、トロヴァオンが飛び込んでくるだけで次も落とされるのではないかと身構えるものだ。
だがムカデの化け物どもは進撃を続ける。地上を這うように、しかし猛烈なるスピードは寒気をおぼえる。
「こちらも航空機でなければ、突破されたら追いつけないところだった」
マルカスはしかし淡々と告げた。
「戦闘機から逃れられると思うなよ」
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