第1816話、モンスター大進撃
ダンジョンスタンピードが発生した。
シェイプシフター情報部によれば、どうやらロゥクーラの制御下にあったらしいそれが、トラブルによってコントロール不能になってしまったらしい。
「いったい何があったんだ?」
俺が尋ねれば、シェイプシフターロッドことスフェラが報告した。
『ダンジョンコアを制御する係の者に因縁をつけた者がいたようで、揉めているうちにコアが攻撃を受けたため、制御下から外れました』
「……うん?」
つまるところ、制御していた術者のことが気にいらなかった暴力先輩が手をあげ、嫌がらせの延長で鈍器でコアを攻撃してしまったのだそうだ。コアの自動防御本能が働き、結果、暴走。押さえていたスタンピードが止められなくなってしまった……ということらしい。
「馬鹿なのか?」
ベルさん、辛辣。
「馬鹿なんだろうね」
ダンジョンコアを攻撃するとか阿呆だな。あれだ、その術者君の商売道具を傷つけて、愉悦に浸ろうとした暴力バカが――後先考えない真症のバカが、バイトテロものの大ポカをやらかしたわけだ。これだから力で何とかできると思い込んでいる馬鹿は……。
この部下の不適切行為によってロゥクーラの信用ガタ落ち。損害賠償請求はロゥクーラですか、それとも馬鹿な部下君ですか?
「人が犠牲を少なく処理しようとしていたら、これだ」
ちょっと苛立っているのもそれが原因だな。戦艦『バルムンク』の戦術モニターには惨状が映る。
デロタ山ダンジョンから出てきたモンスターが、ロゥクーラの城と簡素ながらある城下町に雪崩れ込み、破壊活動をしているさまが表示されている。
さらに複数方向に広がっているモンスター群はその他地方へと進撃。不自然に貯めていた分、噴き出す時の勢いが凄まじく、被害は拡大の方向に向かいつつある。
「面倒なことになったな」
こうも広がる前ならやりようがあったが、展開されつつある中、一度に全部対応するのは、GEGの戦力ではとても足りない。
「一つずつ潰していくしかないな」
敵は動いている。待ったなしだ!
「主力が送れない場所は民間人の避難を優先。救出部隊を送る」
それでも限界はあるだろうが、やらないよりやれ。それでも手が回らないのは、地元勢力の連中に時間稼ぎをさせる。
連中もモンスターが襲ってくるとなれば迎え撃つだろうし、たとえ最終的に防衛ラインを突破されることになろうとも、時間は稼いでくれるだろう。
どこぞの暴力バカのせいで、どこまで迷惑かけているんだよ、まったく。
・ ・ ・
GEG保有のファルケ戦闘機が四方に散る。
その高速性能を活かして各集落へ飛ぶと、外部スピーカーを使ってダンジョンスタンピードの発生と避難勧告を行った。
突然現れた航空機に驚き、不安がる住民たち。モンスターの大群が迫っているという知らせとそれを確認しに行った者からの報告で、緊急事態を把握。遅まきながら避難を開始した。
「遅いんだよ、馬鹿め……!」
ファルケ戦闘機を駆る元軍人上がりのパイロットは、下の者たちの動きの遅さに悪態が漏れる。こちらが必死に呼びかけても、村の者たちと顔を見合わせるばかり。一応避難の準備をしていた者もいたが、見に行った者がくるまで様子見を決め込んでいた。
「どれだけ人間不審こじらせているんだよ、まったく」
ここを治めている連中の日頃の行いのせいだ、とパイロットの怒りはそちらに向く。
と、そこへ少数ながら援軍が駆けつける。今では旧式のワスプⅠ汎用ヘリだ。
大陸戦争後期になると撃墜の確率が上がり、前線から下がった場所でしか使えなくなった戦闘ヘリだが、対空能力のない対地上攻撃においては、最強の戦力と言える。
その名の通り、獰猛な蜂を思わすワスプヘリは、スタブウィングに積んだ対地ロケット弾を、狼型を代表とする四足型魔獣に撃ち込み、その爆発で複数を吹き飛ばす。
地上を行く生物より遥かに高速のワスプヘリ隊は、モンスター集団を追い越すと反転。ホバリングしながら、腹に抱えてきた30ミリ機関砲を連射した。
地上では苦戦する魔獣も、目にも留まらぬ銃弾の雨に、たちまち皮膚、肉、骨と砕かれミンチとなっていく。
かつて、大帝国の陸軍歩兵を血飛沫に変えた恐怖の猛撃、再び。
モンスターを貫通した銃弾は地面を抉り、土と細かく盛れた肉片と血を混ぜる。機関砲の聞き慣れない轟音に恐れをなして一部の魔獣が潰走する。四足型は人間と違ってその逃げ足が早い。しかもばらける。一度逃げ出すと分散するので、まとめて仕留めにくい。
「どの道、弾には限りがあるんだ」
集落に迫る敵をできるだけ減らす。ワスプヘリのガンナーたちは地上の敵を掃射しつつ、効率良く、一体でも多く倒そうと心掛ける。
そうこうしている間に集落に強襲揚陸艇が飛来する。
歩兵を空中輸送するその飛行する揚陸艇は、集落に迫る魔獣に機体側面の機関銃を撃って牽制。集落の広場に着陸した。
上陸用ハッチを開き、武装したベテラン海兵が飛び出すと、逃げ遅れた住民に向かって叫ぶ。
「こっちへ来い! 魔獣がそこまで迫っているぞッ!」
集落の外周に迫る少数の狼型。ライトニングバレットを手にした海兵が、魔法弾を塀を超えてきた魔獣を射殺しながら、足がすくんでいる住民に近づく。
「援護する! あそこの船まで行ければ後は運んでくれる! 頑張れ!」
GEG隊員らの誘導で揚陸艇まで走る住民。中には足が悪いのか隊員におぶられて運ばれる者もいた。
爆発音が響く。思わず振り返った村人に、ベテラン海兵が肩を叩いた。
「ほらっ、足を止めるな」
ワスプヘリは弾切れで退避した。代わりに駆けつけたのはタロン急降下爆撃機。対地爆弾を叩きつけ、魔獣を爆発の炎に飲み込む。爆弾を投下した後は、搭載機銃などで掃射を繰り返し、敵の侵攻を阻む。
GEG航空隊の足止めもあって、最後の住民が揚陸艇に乗り込むと、ハッチを閉じて、空へと飛び上がる。集落の外壁がモンスター集団によって踏み潰されたのは、ちょうど同じタイミングだった。
「住民を収容! 帰投する!」
揚陸艇が離れる中、貧相な民家群は瞬く間に魔獣の体当たりで破壊され潰されていった。
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