第1805話、これは流れ弾ではないのか
虐殺を止めるためなら、どこの国だろうと勝手に乗り込みますよ――字面にすると、何とも傲慢極まりないと俺は思う。
こういう武装組織が無許可で国を通るとか、虐殺阻止が正しい行いだとしても、健全な国であれば難色を示すし拒否もする。
存在意義だから、で通すのは無茶であるし、冒険者特権を利用するというズルもしたわけだが、まあ問題にならないわけがなかった。
ただ同盟議会から何も言ってこなかったのは意外だったけど。
その代わりと言ってはなんだが、別の場所から俺へとお話がきた。
「ウーラムゴリサ系シーパング人?」
「そうです」
秘書モードのラスィアが、俺にそれを伝えた。
「大陸戦争でウーラムゴリサが国として機能を喪失した際、国外に逃れた難民ですね。今ではシーパング国籍を得て、暮らしていますが……」
「それが俺に会いたい、と」
先日、元ウーラムゴリサ王国での虐殺阻止活動をやったことが、シーパングでは大々的に報道されたみたいだからな。それを聞いたウーラムゴリサ出身者たちが、何を思ったか俺を訪ねたい、ということか。
「お会いになりますか?」
「そうだね」
タイミングがタイミングだし、早めに消化しよう。この手の面会希望は急ぎでなければ後日となるが――
「先方に都合がつくなら、すぐ会おう。連絡をとってくれ」
「よろしいのですか?」
「ウーラムゴリサで面倒があった直後だからね」
それ絡みなら割と急用かもしれない。ラスィアは頷いた。
「承知しました」
退出する彼女を見送り、俺はつい先日のことを思い起こす。
いまだ国としての形に戻っていないウーラムゴリサ。地方勢力の一つ、テハ・ナトゥの支配領域で、民間人虐殺ストップのためこの武装勢力と衝突したわけだが……。
・ ・ ・
「何だか、気味が悪いですね……」
GEG隊員の一人は、廃墟のような集落を見渡しながら言った。俺とベルさんも、同じく村を見回す。
不潔で、ボロボロで、言い方は悪いがまともな人が生活する場所とは思えない。漂っている腐臭は、テハ・ナトゥの兵隊の死体のものとは違うだろう。
中央の空き地の一角に、テハ・ナトゥ兵の死体が集められ、伝染病のもとにならないうちに焼却する準備が進められている。
では住民はといえば、家の奥や建物の陰に隠れて、こちらの様子を窺っている。ベルさんは鼻をならした。
「気にいらねえな。怯えきってる目だ」
住民たちを支配していたのは恐怖の感情。彼らをテハ・ナトゥの兵隊は虐殺しようとしていたが、そこから助けられたにもかかわらず、こちらへの警戒心、恐れの感情が目から伝わった。
「助けられたことを感謝している、って目じゃねえな」
「助けられた、と思っていないかもしれないな」
多分あれだ。ここでやっつけられたのがテハ・ナトゥの一部に過ぎないことがわかっている。そしてここでその一部が倒されたことで、より強力で大勢がこちらにやってくるのではないか、と恐れているのだ。
「要するに」
「報復が怖いってやつか」
ベルさんは舌打ちした。
「完全に恐怖に支配されてるな。気にいらねぇ。同情はしねえけど、ああいうのを見ると苛つくんだよな」
ベルさんは戦える側の人間だからね。戦えない側の気持ちはわからないだろう。
「閣下」
GEG隊員が運んできた物資を起き終えて、俺に声をかけてきた。
「一応、食料は置きましたがどうしますか? 配布するんですか?」
「いや、ここに置いていく」
俺たちが立ち去った後、勝手に漁って持って行くだろう。その際奪い合いになるような気もするが、そこまで面倒は見切れない。というか、ここで見張っていたらおそらく寄ってこないだろう。
「ご苦労さん。皆を集めて艦に戻ってくれ。こらからテハ・ナトゥの拠点を潰していくから、少しかもしれないが休める時に休んでくれ」
「わかりました!」
GEG隊員が首肯し、自分の班のメンバーに呼びかける。一方、別班が死体処理の準備ができたというので火葬にするよう指示する。
残っている隊員に撤収指示を出して、俺とベルさんは再度、村を見やる。結局、最後まで住民と話すことはなかった。
「こっちから声をかけるかと思ったが、しなかったな」
ベルさんがいうので、俺は肩をすくめた。
「あそこまで怯えられるとね。虐殺行為は止めたけど、テハ・ナトゥの報復が怖いというここの人たちの気持ちもまあまあわかるよ」
下手に絡んで拒絶されるのも傷つくから、ここは触れずに立ち去ろうというのだ。
報復を恐れる人間は、本心では感謝していても、それを表に出すと、敵――テハ・ナトゥの連中が戻ってきた時に酷い目にあわされると思っているからね。
そうならないよう手を打つが、口約束でどうにかなるものではないから、先に問題の方を潰しておくべきだろうな。
「テハ・ナトゥを潰したら、また別の奴がここら辺りを支配しに来るんだろうな」
ベルさんが近い未来を予言した。俺も同意だよ。
「そうなるだろうね。住民を虐殺するような奴でなければ、……今よりマシなら、住民たちさえよければ、それでいいんじゃないかな」
武力介入はしても、ウーラムゴリサ人の政に深く干渉するつもりはないからね。
・ ・ ・
「――それって、がっつり内政干渉しろってことかな?」
話戻ってシーパング国内のアミウール別宅――俺は、ウーラムゴリサ出身のシーパング人らのグループと面会していた。
急に会うと言って、先方も急な呼び出しになったけどよく来てくれた。そこでお話となったのだが。
「ジン・アミウール閣下には、ウーラムゴリサ王国を統一し、新たな王となっていただきたく――」
「それがわからない」
いや、もしかして……、もしかすると、妻絡みかもしれないけど、違っていたらその気にさせる材料になりそうなので、それは黙っておくとして。
「詳しく聞かせてもらおうかな?」
どうして、異世界系シーパング人である俺が、ウーラムゴリサの王様にならなければならないのかな?
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