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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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1812/1885

第1802話、遅かれ早かれ


 法が存在しない世界だと、わかりやすい力が全てを決める。


 例えば腕力、純粋な力。これには人を従わせる力がある。人間誰しも痛いのは嫌だからだ。

 病院行けば治療してもらえるでしょ、なんて現代人感覚だと、これがどれほど恐ろしいことかわかりづらい。


 医療が機能していないところで怪我なんてしたら命に関わる。最悪、一生後遺症が残ったり、体の一部を切り落とす羽目になったりと洒落にならない。

 そんな世界だから強い奴が偉くなる。腕力が強い奴が。小賢しい弁論も、腕力の前では役に立たない。


「世界から喧嘩がなくならないように、戦争がなくならないように……」

「始末が悪いのが――」


 ベルさんは言った。


「腕力で成り上がると、物事をシンプルに考えるようになるってこった。安易な方法で物事を解決するようになる」


 食い物がない? あるところから奪え。


「ぶん殴れば、すべて解決する――ってな」

「単純ではある」


 俺は肩をすくめる。

 戦艦『バルムンク』は、元ウーラムゴリサの空に到着する。

 ウーラムゴリサ王国だった無法地帯。オレがルールだとのたまう山賊の頭どもがのさばるここ場所は、弱者からの搾取で成り立っていた。


「所詮は、山賊の知能なんだよな」


 ベルさんは容赦なかった。


「こいつら後先考えねえからな。あと数年もすれば自滅するか、強烈な略奪国家が誕生するんじゃねえかな」

「そういや、言われてたよな。勝手に潰し合って滅びるだろうってさ」

「そうそう、シーパング同盟の政治屋どもが、ウーラムゴリサの情勢をそう見てた」


 ベルさんは皮肉たっぷりだった。


「だが結論、戦後七年経っても、まだしぶとく残ってやがる」

「とはいえ、搾取される弱者の数は減り続けているからな。本当にもう直、この地方は無法者しかいなくなるんじゃないだろうか」


 ベルさんが言う略奪国家が生まれるというのも、あり得るわけだ。この、人から奪うことしか知らない国が何をするかと言えば、自国にないなら他国へ奪え、である。


「ということは、だ」


 ペロリ、とベルさんが舌を出した。


「オレ様たちが介入しなくても、遅かれ早かれ隣国に手を出して、どっちみち滅びるわけだ」


 シーパング同盟国だったら、同盟軍が反撃し、全力で掃討にかかるだろうし、ヴァラン国もまた国防のために戦争となるだろう。


「将来の悪い芽を摘み取る、というところかな」


 まあ、それを待てば、どこからも文句は出ないのだろうが、今まさに奪われている元ウーラムゴリサの民がいるわけで、人道上、見捨てることが難しいわけだ。


「ウーラムゴリサが何かしてくれましたかー?」


 今日はベルさん、やたら皮肉を言うね。


「俺たちを気持ちよく戦争に送り出してくれたよ」


 まあ、最終的に裏切られたんですけどね。旧連合国の話をしたら、恨み言の方が圧倒的に多くなっていけない。だから人を裏切るのはよくないんだ。


「真に恨まれるべき者たちは、みな黄泉の世界に旅立ったよ」


 さあ、仕事をしましょう。


 

  ・  ・  ・



 そこはもう、村の名前はなかった。

 名前があることが襲われる理由ではないか、と住人たちが考えるくらい、テハ・ナトゥの搾取と破壊はひどかった。

 実際、廃村もどきに生き残りたちが寄り集まっているという惨状で、村として機能しているかも怪しいところだった。


 だが奪う側にすれば、名前があろうがなかろうが、そこに搾取できる人間がいるなら関係なかった。


「見るたびにボロくなってねえか、これ?」


 元ウーラムゴリサに一勢力を築く『テハ・ナトゥ』。その尖兵である略奪部隊は、名もなき村を見やる。


「次に来る時までにまともにしておけ、というデド様の言葉は伝えたはずなんだがなぁ」


 山賊にしか見えない指揮官がぼやけば、部下の一人が言った。


「手抜きですなぁ! まったくけしからんことです」

「そうだそうだ。デド様の意向にも従えないとは、とんだ怠け者です!」


 兜だけお揃い、後は適当な山賊ルックである部下たちが声を上げる。


「これは粛正せねばなりません!」

「粛正! 粛正!」

「どうせ、自分たちが食う分しかないでしょう。デド様とテハ・ナトゥに税を収められないなら、生かしておく価値はありますまい。指揮官殿!」


 部下たちは『滅ぼせ』と言っている。その指揮官は、何とも言えない顔になる。こいつらはただ殺戮と略奪がしたいだけではないか。自分の快楽を正当化しようとしているだけではないか、と。


「この調子だと、オレたちが仕事できる村がなくなっちまうぞ……」

「は? 何でありますか、指揮官殿?」

「独り言だ!」


 徴収対象の村をことごとく潰してしまっているのだが、いいのだろうか、と不安になる。テハ・ナトゥの指導者デドは苛烈な人物であり、ここのところ徴収量が減っているから、基準を満たせない場所は潰せと通達を出した。

 だから略奪部隊は、その命令を真っ当にこなしているのだが……。


 ――まあ、ノルマを果たせなくて、懲罰くらうのもアホらしい。


「とりあえず部隊を展開。これから村に入って徴収を行う。出すものを出せばよし。出せない場合は――」

「粛正!」

「粛正!」

「……行くぞ」


 指揮官は部隊の半分を引き連れ、村へと近づいた。大帝国のお古である下級魔人機――ドリードールもどきが三機、村を囲むように動く。あんな案山子でも、鋼鉄の巨人を前にすれば立ち向かうのは無駄だと馬鹿でもわかる。


 さて、今回のお仕事の結果は――

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― 新着の感想 ―
時は正に世紀末。 ジンさん、 胸に北斗七星の痕を付けて登場しますか? あと、 山賊共にこの言葉を贈ろう。 「討って良いのは、討たれる覚悟の有るヤツだけだ」
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