第1801話、武装介入の時
シーパング同盟は、ヴァラン国に対して中立を保っている。それはヴァラン国もまた同様で、ニーヴ・ランカ人への国外追放はすれど、虐殺行為はほぼなくなり、諸外国に対しては特に何もしなかった。
GEGでも監視はしていたんだけど、シーパング情報局もまた、ヴァラン国に対する偵察、監視活動は続けていた。
「――ご指摘のとおり、墓荒らしの件はあるにはあったのだわ」
シーパング情報局局長、グレーニャ・ハルはそう言って俺にその資料を見せた。
情報局の局長室。その面談スペースで俺はベルさんとハルを訪ねていた。
「ほぅ、墓荒らしねぇ」
「標的は金持ちの墓か」
俺がその資料に目を通せば、ベルさんも覗き込んでくる。
「貴族や王族の墓。これまでニーヴ・ランカ側が管理していた墓が狙われたってか」
「ニーヴァランカの貴族たちは、自分の墓所に生前愛用した貴金属を入れる習慣があるのよ」
グレーニャ・ハルはエルフ産の紅茶を口にする。
「それを狙っての行動のようね。いつの間にか現地に進出した軍が始めて、割と広くやられたみたいよ」
「一般の墓地では?」
「細かなところで複数。ただ遺体を粗雑に扱うというより、金目のもの目当てのようだったけど。一部の不心得者の仕業程度で、ヴァラン人がー、とかいうには、ちょっと熱意が足りないようなのだわ」
「熱意ね……」
泥棒する建前に利用するって程度で、本当に民族の恨みでやっているかは怪しいというやつ。とりあえず、国の政策に乗っ取り、愛国を叫べば許されるとでも思っているのかもしれない。
犯罪は犯罪だけど、ニーヴ・ランカ人とその財産については取り締まらないだろうからな、ヴァラン国も。
「対立感情はあったとて、数年前までは共存してたわけで、一般人が墓に故人を埋葬するとき、そう高価なものを入れてないくらいは知っているってことよ」
例外は、金持ちの墓、ということか。
「これは……やってるといえばやってる」
「だが、噂ほど民族がどうとかって対立感情でもない、か?」
ベルさんが首をかしげた。……うーん。
「こういうの、困るんだよな。半分正解、半分間違っているっていうのは」
「それ間違ってるってよくね?」
「部分的にそう、っていうのがあるだけで、説得力がなくなるんだよ」
先にも言ったが、やってると言えばやっているんだから。そしてその一部でもやっているというだけで、否定的な者たちは鬼の首を取ったように声高に叫ぶわけだ。叩く口実がほしいからな。
「これは、触らぬ神に祟りなし。何も言わないのが正解かな?」
「一部の過剰なねつ造に、釘を刺すくらいじゃねえのかね」
ベルさんは鼻をならした。
「とりあえず、オレらGEGが出張るようなものはないってことでいいな、ハル?」
「ええ、ヴァラン国もこれ以上騒動を大きくして、他の国々から反感を買いたくないというのが本音のようなのだわ」
ハルは、そこで新たな資料をテーブルに置いた。
「ベルさんには、むしろ、こちらの方が関心があるかもね」
「どれどれ――」
ベルさんが紙に目を落とす。
「ウーラムゴリサか」
「元ウーラムゴリサ。あそこにかつての王国はないのだわ」
グレーニャ・ハルは冷めていた。ヴァラン国のお隣、ウーラムゴリサ。大陸戦争で、真・ディグラートル大帝国によって完全破壊された王国。
それって、この前ちらっと聞いた気がするけど。
「地方の貴族の生き残りだか、武装集団だかが幅を利かせて、戦国時代やってるって感じだっけ?」
「戦国時代というのが、何のことを指しているかわからないけど、混沌としているのは事実ね」
グレーニャ・ハルは紅茶を啜る。
「で、とある武装集団が対立していた勢力に勝ったんだけど、集落を一つ焼き払い、住民を皆殺しにした」
「……なんてことだ」
神よ、これを許されるのか――世間では俺のことを神と言う人もいるけど、俺はこれでも人間なんでね。
「こういう世界だからな」
ベルさんは、さもありなんという調子だった。
「だがウーラムゴリサって今は国として機能していないわけで、そもそも武装集団? 盗賊の間違いなんじゃねえの?」
「無法者の集団なのは間違いないわね」
グレーニャ・ハルは認めた。
「普通の国で見たら討伐対象よね、これ」
「ジン、やっちまおうぜ」
ベルさんが言った。
「GEGでなくても、冒険者としても、こいつはぶっ潰す案件だろうが」
「クエストは出てないぞー」
俺は棒読みである。
「まあ、こういう無法者を放置するのもよろしくないよな」
国が機能していない状態で誰も助けてくれない状況だ。それで略奪とくれば、GEGを出しても言い訳は立つか。
国は関係ないといいつつ、説明責任はあるからね。武力行使する場合は、こういう理由付けは必要になるのだ。面倒ではあるが、ただの無法者と違うところは見せておかないと、支持はされなくなるだろう。
同盟各国、その他諸外国にとっても、討伐対象を排除する分にはまあ大目にみようとなるが、厄介者は潰される。
悪党を潰すのにも理由がいるというわけだ。
まあ、俺たちが掲げている題目から見れば、これは出張らないと嘘になるけどね。
これ以上略奪からの虐殺行為をさせるわけにもいかない。
「ハル、その武装勢力の情報をもらえるか? あるんだろう?」
「もちろん。こちらは情報局よ。当たり前なのだわ」
グレーニャ・ハルはニヤリとした。
「航空機は持っていないけど、大帝国の型落ちを何機か保有しているわ。まあ、ちゃんとメンテされているかといえば、そうでもないみたいだけれど」
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