第1798話、新天地、創造
新天地を求めて、というのは、神話だったり古いお話を探せばそこそこあったりするものだが、現実だとそんな夢のあるものではない。
特にその場所にすでに人がいる場合はさ。
お話だと、探し求めていた新たな土地を見つけました、ちゃんちゃん、で終わる。だが実際はそこからが大変で、その後は血塗れ屍だらけの負の歴史を築くなんてのも珍しくない。
元の世界にいた頃、俺も小説や映画で見たけど、主人公たちはハッピーエンドだったけど、数百年後に彼らの国とか民族は滅びたとか征服されたとか見た後は、凄くもにょったんだよね。
閑話休題。
すでにある土地は血が血で争う未来がちらつく。未開地もあるにはあるが、形や広さがそれほど自由ではない。――開拓が難しいから未開地でもあるんだけど。
「ならば作ろう、新しい島を!」
「しまぁー?」
そうだよ、ジュイエちゃん。俺は八番目の子であり、アヴリルの娘である少女を肩に担いだ。三歳児め、また少し重くなったな。レディーの前では言わないけどね。
この前、長女のリンちゃんを肩車した時、つい言っちゃって怒られちゃった。おませさんめ。
「この世界にはダンジョンとそれを作るコアがあるからね。限りある資源を有効に活用する、ということさ」
この世界の海洋開発が遅れていることをいいことに、新しい島を浮かべてしまおう。
「しまを、うかべるー」
ブロック遊びの延長ではないが、子供からしたらそんな風に見えるのかな。
「お父さん……」
次女のリュミエールが俺に尋ねた。
「どうして海に人はいないの?」
時々この子が五歳だと忘れそうになる。子供は時々本質をついてくることがあるけど、リュミエールの場合は読書で知識を得ている分、それらとは少し違うか。
「海には大きな海獣がいるからね」
海洋開発があまり進んでいない理由、それは外洋には巨大な海棲生物がいて、帆船程度ならあっさり沈めらしまうからだ。
クラーケンが相手だと、テラ・フィデリティアの機械兵器をぶつけても簡単に仕留められないっていうんだから、まあそうだよねってところ。
俺たちがシーパングを立ち上げなかったら、外洋開拓はどれくらい先の未来になっていたんだろうな。
まだ見ぬ人々が、外洋の島々に住んでいるかもしれない……。なんてロマンを抱いて、人々は生きているわけだけど、未開地と思って上陸して原住民と騒動は勘弁なので、やはり新しく島を作るのである。
なお、我らがダンジョンコア大先生は――
「新しい島……フフフ。これまでより大きな島……フフフ」
テンションがおかしいんだよな、ディーシーさん。謎の建築家さんは、戦後はかなり趣味に走る人(?)になってしまっているからなぁ。大陸を作って、と言ったら喜んでやりそうなのが怖い。
サンドボックス型のゲームを、延々と無言で作業を続けてしまう人と同じようなタイプかもしれない。
「主ぃ、どこまで大きくしていいのだ?」
いつにも増して今日は積極的だな。最近クールぶって気だるさをまとっていたのだが、本性を出したね。
「実際のニーヴァランカ国だった土地より小さめで」
連合国の中ではそれでも大きかったのが、かの国である。といっても寒冷地であって大きさの割には荒野だらけ。人が居住している場所は大きさの割には疎らだ。
「人が多かった中央と西部、それと少しおまけがつく程度の大きさでもいいと思う」
手つかずの自然も、もう少し文明が発達したなら、それなりに有効活用する方法もあったのだろうが、現時点で開発が進まず、手つかずの土地までつけることはあるまい。
鉄道があったなら国の東西を長大なルートで往復できるようになったのだろうが、結局は移動の時間が縮まるだけで無駄な荒野だらけだという証明でもある。開発と一言で言っても、有効な資源がなければ土地だって放置だしな。
ということで、俺たちはニーヴァランカ国だった土地のデータを検討する。かつて偵察ポッドで地形走査をして世界地図を作ったけど、その時の記録が残っているからね。
地形データから新しいニーヴァランカ国のための島の形を決めていく。
「せっかく一から島を作るんだ。ニーヴ・ランカ難民たちにとっても馴染み深い地形とかしてもいいかな、と思う」
故郷への情念というか何というか。……ヴァラン人に奪われた土地を思い出して辛くなるかも、とも思ったが、そういうのってどこにいようとも思い出して切なくなるから、どの道一緒か。
・ ・ ・
ということで、ニーヴ・ランカ難民たちのための新しい国、そのための第一歩の土地確保作業を進める。
ディーシーは彼女の姉妹であるディー・シリーズを何人か集めてプロジェクトチームを作って、ああだこうだ打ち合わせ。
ニーヴ・ランカ難民の代表者たちにも経過報告と予定を伝え、移住するにあたっての希望などの意見をもらう。住むのは彼らだからね。何もかもこちらが決めてしまうと押し付けになってしまう。
……まあ、ある程度の押し付けはすでにやっているのだが、全部がそれなのと多少の押し付けでは、違うからなそこは。
シーパング同盟は関与しないが、ニーヴ・ランカ難民が新たな国を作った時、国交はどうするのか、その辺りについて、シーパング島の外交担当がきて、難民代表者たちと話し合ったりした。
そろそろ代表者たちも誰をリーダーにするか決めてもらったほうがいいかもしれない。今のところ、代表者たちで話し合って決めているようではあるが、議会制にしろ議長はいるわけだからね。
順調に島の建設は進む中、俺の仕事をサポートするラスィア秘書官が唐突に言った。
「これほど大きな島を作ると、周辺の環境、変わってしまいますね」
「多少はね」
変わらないわけがない。とはいえ、場所が変われば気候や環境も変わるから、難民たちもしばらくは慣れが必要だと思う。
「生態系も変わりますね」
「だろうね。とはいえ、何万年、何十万年とか長い目で見れば、かつて海だった場所が陸地になったり、逆に陸が海になったりはしているわけで、新しい島ができることは自然界にもあることだからね」
まあ、そういうことだ。
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