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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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1806/1885

第1796話、戦争回避。しかし火種はくすぶる


 休憩を挟んで、会談の続き。

 ニーヴ・ランカ人への排斥――虐殺行為に関して。


「まだニーヴ・ランカ人が、我がヴァランに残っているが、国外へ逃げようとしている者も多い故、これ以上の攻撃は必要ないと考える」

「賢明なご判断です」


 俺はそう返した。ヴァイナー大帝は続ける。


「我がヴァランに対して害したニーヴ・ランカ人については、犯罪に対する罰として処分はするが、それは構わないか?」

「正当性が認められる分は構いません。犯罪者を罰することは、どの国にも有する権利ですから。……ただ、不当に罪をでっち上げ、処分することは虐殺行為と変わりませんから、そこはお気をつけ願いたい」


 犯罪者でない者を犯罪者として殺すことは許されざることだ。抜け穴を利用して処分されても困る。こちらがそれを判断したら、介入するとこちらも宣言しておく。

 結局のところ、こちらが越境して介入するかどうかは、こちらが判断するから、ヴァラン側は小細工しようとしても無駄である。


 それをわからせた上で、こちらの会談は終了した。

 さすがにニーヴ・ランカ人との関係について、今後どうするべきとかそういう相談はしてこなかった。

 民族同士の話は俺は部外者だし、政治的な意図で内政干渉する気もないと宣言しているから向こうから話してくることはないということだ。


 会談の後は会食に誘われ、招待を無下にするのは失礼極まりないので、お食事をご一緒した。

 ヴァラン人の伝統的なスープとニーヴァランカ地方の原生鹿の肉のステーキをいただいた。うーん、野性的。味の方は調味料が足りないがまあまあだった。

 家族の話題になったので、最近十一人目が生まれたことを伝えておく。


「――女の子か。もう縁談の話は進んでいるのかな?」


 ヴァイナー大帝は言うのだ。元の感覚だったらまだゼロ歳だぞ、と驚くところだっただろうが、さすがにね。もう八年も貴族をやって、十人の子供たちで経験しているから慣れたものだ。


「水面下で進んでいるようですね。でも私はさっぱりで」


 と適当にはぐらかしておく。こういうのは何も決まっていなくても、そう言っておくものだ。ヴァラン人と関係を持とうと思うならね。

 でも俺は子供たちを政略結婚の道具にするつもりはないんだ。友好を結ぶためとはいえ、ね。それはこの世界の主流の考え方ではないだろうけど、俺には合わない。


 ……まあ、娘がヴァラン国のお貴族様だったり王子様に惚れて結婚したい、と言うのであれば話は変わってくるけど。


 比較的和やかな雰囲気で会食は終了。俺は帰途についた。



  ・  ・  ・



「案外、あっさりだったな」


 俺に同行したベルさんがそう言った。会談中もずっと黙っていた黒猫さんである。


「荒事にならずに済んだのは、いいことだと思うよ」


 俺としても幾らシーパング同盟軍とは関係ないと主張したところで、周りがそう受け止めるかどうかは別物だからね。


 正直、ヴァラン人がこれ以上の虐殺行為を控えるのも、俺たちGEGよりシーパング同盟軍の介入を嫌ったからかもしれないし。

 まだ初陣も迎えていないGEGに国がビビる要素なんて、俺とかベルさんのような実戦慣れした連中がいる、という部分しかない。

 その実戦慣れした経歴が凄まじ過ぎる、というのはあるんだけど。


「オレ様は連中が虐殺行為をやめるのを引き替えに、何かの条件を出すかもしれないと思っていたんだ」


 ベルさんは言った。あー、それね。


「ニーヴ・ランカいじめをやめるから、軍事技術をよこせとか、国の復興、開発に不足する資材とか食料をくれ、とか?」

「そうそう」

「まあ、ヴァラン国側がそういう条件を出してきたとしても、俺は突っぱねるつもりだったけどね。それと虐殺行為を止める行為に何も関係ないもの」


 俺は別に交渉しに言ったわけじゃないんだ。虐殺をするなら攻撃するよ、と、当事者に通告できれば、それでよかった。


 虐殺を辞めるための条件? そんなものはない。やるなら攻撃、やらないなら何もしない。それだけのことだ。

 こちらはすでに準備を整えていて、あとはぶん殴るだけだった。そういう次の手がない場合は、条件について検討したりして解決策を考えることになったんだろうと思う。

 その代わり、そういう提示された条件で虐殺しませんなんてやっちゃうと、味を占めて虐殺を繰り返して、その都度やめる代わりに何かよこせをしてくるようになる。


 だから、武力行使も選択のうちにしておかないと、なあなあで長引いて相手から下に見られてしまうんだ。


「たぶん、大帝陛下もそういうところはわかって言わなかったんだろうね。むしろ、そういう条件を出すこと自体、ヴァラン人の名誉を下げる行為だし」


 とはいえ――


「今のところ、ただの口約束だから、しばらく監視は必要だ。それで俺の前ではああ言ったけど、虐殺行為を見かけたらこちらは即時打ってでる」

「出番があるかもしれないってことだな」


 ニヤリとするベルさんである。やーねえ、好戦的過ぎて。


「それはそれとして、虐殺行為はやめさせることができたかもしれないが、根本的なことは何も解決していないんだよな」


 ヴァラン人とニーヴ・ランカ人の問題。ニーヴ・ランカ人は故郷を追い出され、ヴァラン人への恨みを募らせる。その原因はヴァラン人にはあるのだが、そのヴァラン人の行動さえ、かつてのニーヴ・ランカ人への報復とくるからこの手の人種とか民族問題というのは根深い。


「ジン、それはそれ。これはこれだ」


 ベルさんが鼻をならす。


「民族問題は、当事者間で解決させるって話だろう? ここから先は、本当の内政干渉ってやつだぜ」

「それはそうなんだけどね。……難民たち、これからどうなるんだろうね?」


 ラドーニ氏とその仲間たちと共に、ヴァラン国と闘争を始めようとするのだろうか。難民から移民となって、新たな地で生活していくか。


「未開の地を開拓して、新たなニーヴァランカ国を建国したりとか、するのかな」


 近くに別の民族や国があったりすると、先祖の土地が云々とか揉め事になったりするかも。世界は広いようで狭い。


「なーんか、最近そんな話を聞いた気がするぜ」

「ネオ・ナチャーロの魔術師たちだろ?」


 人様を滅ぼして、そこに自分たちの国を作るというなら、逆に滅ぼすぞって、俺とベルさんとクルフで乗り込んだやつ。俺たちの提案に従って一部の魔術師たちが自分たちの国を作るべく旅に出た。……とても大変な旅になるだろうことは想像がつくけど、新しい国を作るって、そういうものなんだよな。

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