第1777話、救出活動、終了。撤収す
マッド・ハンターやベルさんたちが、前線で頑張ってくれたおかげで、逃げ遅れのニーヴ・ランカ人を収容することができた。
傭兵を使うというのは、我ながらいいアイデアだった。正当軍からの依頼ってことにすれば、魔人機で参戦しようが、他国関与を疑われる可能性は低い。
正当軍、大帝軍どちらも、傭兵を多数雇って、正規軍の補助に使っていた。そしてその正当軍がほとんど壊滅した今、ヴァラン人が依頼の出所を確かめようとしたとしても、無駄に終わるというわけだ。
大戦終結後も、傭兵として活動していたマッド・ハンターを呼んたのは俺だ。報酬さえ出せば仕事をしてくれる。彼の腕は信頼しているからね。俺よりもよっぽど戦場にいた分、困難な撤退支援も無難にこなしてくれた。
人道が絡む依頼を任せても、傭兵の特権と称して略奪しないというのは、とても大事なことだ。まともな軍人というのも、中々に貴重だ。
そんなマッド・ハンターと共に前線に出張ったベルさんだが、あの人は略奪より、戦うことが趣味みたいなものなので、溌剌としていた。
怪獣退治の時もそうだったけど、あの人があれほどアグレッシブだったのを、つい忘れていた。平和だったんだよねぇ、ヴェリラルド王国にしろシーパング島にしろ、さ。
ともあれ、めぼしい避難民の集団は終了した。これ以上の足止めは不要だ。あちらさんに必要以上に恨まれるのも面白くないんでね。
足止め組の傭兵たちに撤収指示。ニーヴァランカ正当軍に偽装した魔人機も側面援護に使ったけど、まあボロを出すことな引き上げには成功。
『ところで、ジン』
ベルさんのブラックナイト・スケルトンが、戦艦『バルムンク』の格納庫に戻りながら、プライベートチャンネルによる通信をしてきた。
『マッド・ハンターって、あいつ結婚してたのか?』
「結婚?」
いきなり何を言っているんだい? あれはまだ未婚――ああ、そういうことか。
「女の子を連れて歩いている件か」
そうなのだ。ここ数年のマッドは、確かに女の子を仕事にも連れている。まあ、ただの女の子じゃないんだけど。
『なあ、アレ、シェイプシフターだろ?』
「なんだ、気づいているんじゃないか」
マッド・ハンターが連れているのは、シェイプシフターである。それもそんじょそこらのじゃなくて、元の世界に帰ったリアナ・フォスターが残したソニック・セイバーズ仕様の特殊戦闘チームタイプ。
「プライベートな話なんだけど、聞く?」
『聞かせろよ』
好奇心が疼くんだろうな。こういう話、ベルさん好きそうだし。
「以前、マッドが、前の世界で世話をしていた強化兵士の話をしていたのは憶えているか?」
『かなーり前の話だよな。そんな話をしていたような……。あれだ最後は軍にネジにされちまったって奴』
強化兵士として改造された挙げ句、最後は兵器の部品に――とか、かなり鬱な話。そう、それ。胸糞なやつだ。
「リアナを幼くした感じが、まさに彼女に似ていたらしいんだが、ソニック・セイバーズにリリーってシェイプシフターがいたのは憶えているかい?」
『いちいち名前までは憶えてないが……。いや、狙撃が得意な幼女型だな』
憶えているじゃないか。幼女ってほど幼女でもないんだが……。それはそれとして。
「そのリリーを見ていると、昔の古傷が疼いたんだそうだ。それで彼女を引き取りたいと言ってきてね」
『……?』
わからんっていう感じだな。安心してくれベルさん。俺もよくわからん。ただ、それが戦場に身を置いて、心に傷を持った男が、過去のトラウマを乗り越えるために必要だったんだろうよ。
「俺も正直、理解はしていていないが、シェイプシフターだし、まあ、それが必要というのならということで認めた」
『オレ様にはわからんな。……ロリコン?』
「ベルさん、言うなって。俺も子育てしているから思うだけかもしれないけど、何かを育てるというのは、まともであるためにもいいことだと思うよ」
『戦場で心が荒んだ人間は、とかく攻撃的だぜ?』
「相手はシェイプシフターだぞ。悪いことにはならんよ。というかここ数年、それで何もないんだから、取り越し苦労だよ、ベルさん」
おっと、話し込んでいたら、ラスィアが、俺の傍らに立って時計を指していた。
「ベルさん、お時間がきた。この話はまたいずれどこかで」
『おう』
さて、俺は俺で、貴族としての務めを果たすとしますかね。
戦艦『バルムンク』から、揚陸船『ペガサス』へポータルで移動。ニーヴ・ランカ人たちと面会する。
・ ・ ・
「あー、あー。皆さん、おはようございます」
拡声魔法で、格納庫中に声を届かせると、外にいた人たちはもちろん、仮設テントからも人が顔を覗かせた。
ジン・アミウールだ!――とどこからか声がした。おやおや、俺のことを覚えているニーヴァランカ人もいたんだな。
「えー、ただいま呼ばれた通り、ジン・アミウールです。シーパング同盟の魔術師。ヴェリラルド王国南方侯爵、シーパング大公、プロヴィア王――」
なおプロヴィアについては女王の配偶者なので、王配が正しいんだけど、王子って柄でもないし、エレクシアが王で名乗ってとお願いしてきたんで、そういうことになっている。
「聖者、エルフや一部から神とか、まあ色々言われている者です」
俺が名乗ると、ニーヴ・ランカ人たちの動揺がざわめきになって伝わった。
「突然、どこの誰かもわからない貴族から、亡命させると言われても信じられなかったり、不安になっていたと思います。その点については、心労を重ねさせたこと、まことに申し訳ない」
ここで一度、謝罪。
「そしてそれでも信じてくださった皆さん。ひとまずヴァラン国の攻撃の届かない場所にお連れいたします。私の身分からお察しの方もいらっしゃると思いますが、これから行くのは、シーパング島です」
おおっ、あの伝説の――
この世の理想郷という――
そんな声がちらほらと。驚きの声も、否定的なものではなく好意的な響きに受け取った。……巷では、どんな噂が流れているんだ?
「現状、皆さんの故郷であるニーヴァランカ国は、戻るに戻れない状況にありまして……まあ、虐殺の噂を耳に挟んで避難されている皆さんには、今さらの話ではありますが、これからについてお話しておこうと思います」
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